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嵌められ勇者のRedo Life Ⅱ  作者: 綾部 響
10.結い付く誓い
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終わりの見えぬ旅路

そして俺たちは、果ての知れない……いや、俺だけがそれを知る冒険へと身を委ねる。

エリンの為に……。カミーラの為に。そして……世界の為に。

 俺たちの、自分たち自身に自ら課した命題「壮大な目標(グランド・クエスト)」。

 誰にも依頼された訳じゃあ無い。それに、報酬だって出ないだろう。

 それでも俺たちは、この「グランド・クエスト」の完遂を目指して今後は動く事になるだろうなぁ。

 今の俺には、この「壮大な目標」が幾つかある。

 1つ目は言うまでも無く、エリンを目覚めさせる事。

 そして2つ目は、カミーラの抱える問題である「魔神族」をどうにかする事。

 そして3つ目は、これから10年後に(・・・・・・・・・)西の国で(・・・・)発足するだろう(・・・・・・・)、「魔界」を治める「魔王」を倒す事だ。

 ……ったく、なんでこんな事になってるんだ?

 そして俺のアイテムや記憶のお陰で、それらのハードルは随分と低くなっている。……いや、マジで。

 特に、1つ目の目標である「エリンの覚醒」については言うまでも無い。何せ目的地となる場所には、もう目星がついている訳だからなぁ。

 本当に1から調べるとすれば、普通に取り組めばまず5年では済まなくなる。

 もしも俺に何の情報も無かったなら、恐らくこんな約束を軽くは結ばないだろう。それほど、本来は風を捕まえる様な無形な話なんだからな。


 俺たちが目指す場所は、「伝説の島」と言われてハッキリとした道程(ルート)がどこにも記されていない所になる。


 ―――伝説の島、ヴァグダラス島。


 その場所を記した書物は殆ど無い上に、噂や口伝でのみ僅かに出てくる、存在さえ疑問視される島な訳だけど……実はちゃんと現存している。

 閉ざされた空間である事には変わりないんだが、それだけにその島には特異な文化があり、この大陸では考えられない様々な技術が発達していた。

 その中でも特筆すべきは、間違いなく「医術」だろう。

 魔法に頼らない、または魔法を併用した技術や薬は、この大陸よりも遥かに進んでいたのを覚えている。

 俺がその島に到達したのは今から10年後だった訳だけど、それよりも早く到着した処で発達した医療である事には変わらない筈だ。それを考えれば、ここを目指す事は間違いじゃあ無いだろうな。

 そこまでの道程や取るべき行動は、ちゃんと頭に入っている。今の俺たちのレベルじゃあ到底辿り着かないだろうけど、真面目に効率よく進めば、前回の半分以下の年数で目的地を見つけ出す事だって不可能じゃないんだ。

 まぁ、いざとなればそこに飛べば(・・・・・・)すぐにも確認して完遂(クリア)だって出来る。実は俺の「魔法袋」の中には、この島に繋がっている「帰郷の呼石」が入っているからな。

 でも俺がそれをすぐに実行しないのには、それなりに訳がある。

 1つは勿論、俺の素性を出来るだけバレない様にする為だ。

 そして、2つ目の理由(・・・・・・)なんだが……。


「アレックス君。娘から聞いたのだが、エリンを目覚めさせる方法があると言うのは本当かね?」


 ……これ。これがもう1つの理由だ。

 喜びを隠しきれないシャルルーが、恐らくは伯爵に喋ったんだろう。まぁ、それも織り込み済みで彼女達に公表したんだけどな。


「いえ、クレーメンス伯爵。これは未だ明確ではなく、調べて見ない事には断言出来ません」


 俺があの「伝説の島」の事を話しちまったら、この大陸の人々はあの島に殺到するだろう。

 そりゃあ簡単に辿り着けないんだけど、それでも何が何でも見つけ出そうという輩はいなくなりはしない。あの島には、それだけ魅力的な知識や技術が詰まってるんだからな。


「……ふむ。しかし、君がエリンに処方した薬を作り出した国……もしくは町や村が、この世界の何処かにある。……君はそう考えているのだろう?」


 そして思惑は分からないが、伯爵も興味を示したみたいだった。それを俺があっさりと証明してしまっては、あの島に迷惑が掛かる。

 島の人々が大陸との交流を望んでいるのならば良いんだが、そうでないならば俺が勝手に決めて良い訳が無いからな。


「……可能性はあると思います。まだ書物で知った知識でしかなく、その出どころも記されてはいないのですが、俺たちはそこを探しだし、目指そうと考えています」


 伯爵は間違いなく……善人だ。良識人と言い換えても良い。もしも俺の知る知識を全て彼に伝えても、伯爵自身は(・・・・・)悪用する事は無いだろう。

 でも、その伯爵の善性が(・・・・・・)今回は問題となる(・・・・・・・・)

 善意の人(・・・・)である伯爵は、いとも簡単に(・・・・・・)得た知識を(・・・・・)余人に伝える(・・・・・・)だろう。恐らくはそこに、思惑や自己の利益は無い。

 だが、それを聞いた者が(・・・・・・・・)必ずしもそうだ(・・・・・・・)とは言い切れない(・・・・・・・・)

 俺は、人の善性ってやつを無条件で信じられないって事を、身をもって知っているんだからなぁ。


「……では今後は旅をしつつ、エリンの覚醒方法を探して行くと……そなたはそう言うのだな?」


 僅かに思案して、伯爵は俺にそう確認をして来た。

 今はこれで良い。

 明確にあると分かっての行動だと知れれば、きっと伯爵はその情報の提供を求めて来るだろう。そして今の俺たちには、その申し出を断るなんて出来ないんだ。

 だから。


「はい。まだまだ俺たちは弱く、活動範囲も狭いですが、それでもいずれはこの大陸だけでなくもっと広範囲を周り、エリンの為になる薬が無いか探して行こうと思います」


 俺は伯爵に対して、あくまでも目隠し状態で模索していく事を強調して答えた。これなら話を聞かれても、答えられる範囲だけ話せば良いだけだからな。

 それに。


「そうか。それならば、新たに私の依頼を受けて見ないか?」


 俺の返事をある程度予測していたんだろう、伯爵は即座にこう提案して来た。

 そして俺もまた、その内容をある程度予測出来ていたんだが。


「……依頼……ですか? どの様な内容でしょうか?」


 少しわざとらしいかも知れないけれど、俺は疑問を浮かべたみたいに聞き返した。

 そんな俺の演技だったけど、どうやら伯爵には俺の心中なんて見抜けなかったみたいだな。

 そりゃあ、今の俺は15歳の若造な訳で、普通で考えればそんな奴が伯爵相手に話の裏を読んで来るなんて思いも依らないだろうしなぁ。


「そうだ。お前たちは1カ月に1度、ここへと戻って来るのであろう? その時に、それまでの冒険内容を私にも聞かせてくれ。……どうだ?」


 つまりは、そういう事だ。

 伯爵は俺たちの動きを聞きだす事で、エリンに対する特効薬の出処やその製法なんかを探ろうとしているんだ。

 俺から見るに、これは単純に伯爵の知的好奇心だろう。そしてそんな言われ方をすれば、俺としても断るのは困難だ。


「……それだけですか? それが伯爵からの依頼という事なのですね?」


 俺はそこまで理解して、敢えて念押しをした。

 ……まぁ、この辺の慎重さってのは経験のなせる技なんだが、それでもあまり用心深そうな雰囲気は出さない様に心掛けた。どこか拍子抜けしているみたいに、疑問を浮かべた態で問い返したんだ。

 傍で聞いていても、伯爵の持ち掛けている話はどうにも依頼と呼べるものじゃあないからな。


「ああ、その通りだ。シャルルーに会いに来てくれるついでで良い。そしてその見返りとしてこちらからは、情報や必要な物を用意する。……どうだ?」


 ハッキリいて、これは好条件だと言って良いだろうな。

 俺たちは、情報をその都度出す必要は無い。

 そして伯爵からは、その情報を得る為だと言って必要な物や話を引き出せるんだ。これは受けない選択肢は無いだろう。

 ……って、なんだかんだで俺の方が嫌らしい人間なんだけどなぁ。……ゴメン、伯爵。


「……分りました。出来る限り伯爵の興味が湧く様な話を持ち帰ってきます。宜しくお願いいたします」


 少しだけ考える素振りを見せて、俺は伯爵に答えた。

 ハッキリ言って、金銭よりも伯爵との強い結びつきや全面的な支援の方が、今の俺たちにとっては有難いからな。

 これで、2つ目の問題もとりあえず解決したんだ。……満足のいく形でな。





 伯爵との謁見を終えた翌日から、俺たちは行動を開始しだした。


「……で? 次の依頼(クエスト)は何を受けるって?」


 と言っても、特に何をするって訳でも無いんだけどな。

 そもそも、目的が決まったとしてそれだけを目指して行動出来るほど俺たちはレベルも、そしてランクも高くない。勿論、裕福でもないな。

 ただ隣の町に向かうだけなら、今の俺たちでも行く方法は幾らもある。でも、それじゃあ意味が無い。

 まずはレベルを上げて、出来る事を増やす方が先決なんだ。


「そうだな……。とりあえず、西へ向かえる様にしたいかな。これからは、西の方面へ向かうクエストを受けていく。差し当たっては採集クエストだな」


 俺はマリーシェに、簡潔にそう答えた。

 街道沿いは安全だ。でも、そこから外れればその限りじゃあ無い。魔物の強さもそうだけど、出現する種類も変わって来るからな。

 幸い、魔物の強さも街に近い方が弱い傾向にある。少しずつ、そんな魔物の強さや特性に慣れつつ進んで行くしかないだろう。


「……西……っちゅう事は、『キント村』を目指すっちゅう事なんかな?」


 俺の話を聞いて、サリシュが的確に次の目的地の目星をつけていた。

 ジャスティアの街を4日ほど西に進むと、山あいの村「キント村」がある。

 そしてその先にある「フィーアトの街」へは徒歩で10日以上掛かり、途中で町や村が無い街道を進まなければならないんだ。

 俺たちにとって、これほど長期間の旅路は初めてとなる。


「次の拠点となるのは、その『キント村』という事になるのだな?」


 理由はどうあれ、新しい土地、新しい世界と言うのは心を踊らされるものだ。カミーラがどこか嬉しそうに確認をするのも、分からない話じゃあない。


「へぇ―――……。次は『キント村』かぁ……。……んんっ!?」


 俺たちの会話を聞いていたセリルは、何かを思いついたのかニンマリと嫌らしい笑みを浮かべていた。

 こいつ……多分碌な事を考えていないぞ。……ったく。


「……少しでも早く……強くなって……エリンの為の情報を集めよう」


 そしてバーバラが、みんなの話を総括する様に呟いていた。その言葉に、一同は強く頷いて応じている。

 誰も……その事を忘れてはいない。

 俺たちの行動の1つ1つが、エリンの為だという事はみんな肝に銘じているんだ。


「……そうだな。逸る気持ちはあるだろうけど、まずは俺たち自身が強くならないとだからな。……みんな、頑張ろう」


 俺は最後にそう締めくくって歩き出した。

 少しずつ……でも最速で、俺たちは強くなって見せる。その為に、15年後から持ってきた俺の知識を総動員してな。

 そして俺たちは、新たなクエストへと取り掛かったんだ!


まずはとにかく、俺たち自身が強くならないとな。

一足飛びで強くなれない現状を考えれば、一歩一歩進んでいくしかない。

そして俺たちは新たなる地を目指し、冒険を続けていくんだ……。

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