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嵌められ勇者のRedo Life Ⅱ  作者: 綾部 響
7.魔神の影の鬼
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終結の一撃

俺とマリーシェの放った魔法剣は、間違いなく赤鬼に深手を与えていた!

「魔法剣」を使う為には、本来ならそれなりに鍛錬がいる。

 これまでに様々な冒険者が会得して来た技でもあり、その習得方法は多くの書物に記されていて、条件を満たした者ならば使える様になるものが多い。

 また実際に「魔法剣」を使える冒険者と言うのも少なくなく、「ジャスティアの街」で探せば教えてくれる人物がいるかも知れないな。

 そう言った方法で「魔法剣」を扱う方法を知り、練習して、ようやく自分のものとなるのが普通だろう。

 それに使用に必要とする筋力や体力、魔法力なんかも、駆け出し冒険者で満たせる者は居ないだろうな。

 だから「魔法剣」は初級職業の冒険者には習得不可能と言われており、「転職(ジョブ・チェンジ)」を済ませた者から身に付ける技だと言うのが一般的な見解だ。

 それだけに初見で、しかもぶっつけ本番で成功させるってのは、よっぽど剣技にセンスがないと不可能な事だろうな。

 それをマリーシェは見事に達成して見せたんだから、ハッキリ言って脱帽だ。

 でもさすがに、全く代償がない訳じゃあ無く。


「あ……あれ? ち……力が……出ない……?」


 赤鬼から離れた直後、彼女は(ひざまず)いて剣を床に付き、それに縋る事でどうにか倒れる事を堪えていた。

 それもそうだろう。

 元々今発揮している力はアイテムで強制的に底上げしたものだし、そこに魔法剣なんて法外な力を行使したんだからな。精魂尽き果てたとしても、おかしい話じゃあない。

 それでも、彼女が正に全力を尽くした一撃を受けても尚、赤鬼は未だに……立っていた!


「く……くそ」


 マリーシェは当然の事ながら、俺もこの戦闘中は満足に動けそうにない。これで今健在なのは、カミーラとサリシュだけ……という事になる。

 でもサリシュも、すでにLv25相当の魔法を行使し続けてくれている。

 という事は、最後の止めを期待出来るのはカミーラだけだ。……って思ってたんだけど。


「……怒れる風の具現者たち……逆巻き全てを切り刻め」


 俺の背後から、聞き慣れた声で詠唱が紡がれ出していた!

 この声は……サリシュに違いない!

 そして……この魔法は(・・・・・)!?


「ば……馬鹿! サリシュ……止めろぉ……っ!」


 彼女はもう、強力な魔法を行使した後だ。

 それは、ただでさえサリシュの身体にも負担が圧し掛かっているって事なんだ。

 その上サリシュがこの魔法(・・・・)を行使すれば、その後彼女がどうなるのか……知れたもんじゃあない!

 しかも……束縛魔法「氷硬凍鎖陣ハルトゲロー・カテーナ」を発動したままなんて!


 ―――……分かってるって。……全力であいつを倒せばええんやろ?


 さっきサリシュが俺に向かって言ったセリフが脳内で再生される。

 彼女の決意は、その時嫌というほど感じていた筈だ。

 だからサリシュがこうするって可能性は、少なくなかった。


「……諷惧(ふうぐ)よ舞い上がり……迅鋭の元に割断せよ」


 この魔法は……Lv30から使用が可能なものだ。

 いくらアイテムの恩恵を受けているとは言え、今のサリシュに圧し掛かる負荷は尋常ではないものだと分かる。

 でもそれだけに……彼女の断固たる決意が伺えたんだ!


「……真空旋斬洞フルグル・ヴォントホーゼ!」


「ギヤアァァッ!」


 サリシュが魔法を唱え終えると同時に、赤鬼の足元からその巨体を完全に覆い隠す程の竜巻が出現した!

 その風禍は高く渦巻き、部屋の天井を破り2階の屋根をも貫通して(・・・・)暴れまわっている!

 でも驚異的なのは、その力の凝縮力だろう。

 通常の竜巻ならば、少なからず広範囲に影響を与える。ここまで大きな竜巻が発生したならば、この館を全壊……少なくとも半壊させていただろうな。

 でもサリシュの行使した魔法の竜巻は、周囲を巻き込んで破壊するのではなく、対象だけを集中して攻撃している! まるで工具の(きり)を用いた様に天井に穴を穿ったのも、その力を象徴していると言って良い!

 そしてその内部では!


「これは……鎌鼬……真空破なのか!?」


 発現した魔法を目の当たりにして、カミーラが声を震わせて呟いていた。

 この魔法は敵を巨大な竜巻で呑み込んだ後、その内部で発生する真空破で切り刻むんだ。

 普通に発生した鎌鼬でも、かなりの切れ味を持っている。しかもそれが魔法的に作られたものなら、その殺傷力は常軌を逸していると言っていいだろう!

 それが無数に、更にもあらゆる角度から中の敵に向かい襲い掛かっているんだ! その攻撃力たるや、尋常ではない!

 これほどの高度な魔法は、今の俺たちじゃあ絶対に行使出来ない。それが、如何にアイテムの補助があったとしても……だ。


 敵を覆いこみ切り刻み続けた竜巻は、暫くの後に霧散して消え失せた。魔法なんだ。効果が切れれば消えて無くなるのも当然だろうな。

 ただ……それ以外にも(・・・・・・)魔法が効力を(・・・・・・)失う理由がある(・・・・・・・)。

 竜巻が消え去ったその後には、全身をズタズタに切り裂かれた巨体が仁王立ちしていた。ピクリとも動かない赤鬼に、俺たちはこの戦いの決着を見たんだ。


「サ……サリシュゥ……!」


 魔法がその効果を失うその他の理由、それは……術者が気を失ったり絶命する時だ。

 俺の背後で、ドサリと人が倒れる音が聞こえた。考えるまでも無く、それがサリシュであるという事は明白だった。

 それを補完する様に、マリーシェが声を振り絞りサリシュに声を掛け、彼女の方へと歩み出そうとしていた。

 でも残念ながら、精魂尽き果て心身にダメージを負っているだろうマリーシェには、サリシュの元へと駆け寄る力さえ残っていない。

 かく言う俺も、サリシュの方へと身体を向ける事も出来ずにいた。

 魔法剣を使用した弊害は、ちょっと動くだけでも随分と苦労する程に身体を痛めつけていたんだ。


「……っ!」


 でもそのお陰で、俺は誰よりも速く次の行動(・・・・)に対して対処出来る事となったんだがな!


 サリシュの強力な魔法で、俺たちの中では赤鬼との決着がついた……って、そう考えていた。実際、全身を斬り裂かれた赤鬼の姿を見れば、まさかまだ生きているなんて思えないだろう。

 でも、想像以上に奴の体力……生命力は高かったみたいだ。

 いや……俺たちの行使した技や術が未熟だったからだろうか?

 とにかく、俺の見ている先で赤鬼は動きを見せたんだ!


「ゴオオオォォッ!」


 それは、一瞬の事だった。

 恐らくは、その一撃に全てを込めていたんだろう。赤鬼はピクリと反応を見せたかと思うと、すぐさま攻撃に入っていた!

 その標的は……マリーシェか!

 サリシュの方へ向かおうと足を引き摺って歩き出しているマリーシェは、赤鬼に対して完全に隙を曝け出している状態だ。

 奴にしてみれば、最も狙いやすく仕留めやすい獲物に違いない!


 赤鬼が一気にマリーシェへと距離を詰める! ハッと息を呑むマリーシェに、もうその攻撃に対応する事なんて出来ない!

 でも、その光景を具に見ていた俺には、それが可能だった!

 俺は残された体力を全て絞り切り、可能な限り俊敏に動いたんだ! それこそ……サリシュの見せた最後の一撃の様に。

「大死一番」を体現した俺は、赤鬼とマリーシェの間に割って入る事に成功した!

 赤鬼の攻撃は緩やかに見え、とても往時のスピードがあるとは思えない。それでもその攻撃力は健在だ……と、俺にはそう感じられたんだ!


「おおおぉぉっ!」


 振り抜かれる巨大な拳に対して、俺は片膝を付いて剣を立て防御の姿勢を取った。

 攻撃に転じなかったのは……もうその力が俺には残されていなかったからに他ならない。

 マリーシェに放たれる攻撃よりも速く赤鬼を無力化するなんて、今の俺にはとても無理な話だったんだ。

 でも……受け止める事なら出来る!


 奴の拳が俺の剣に触れる。俺は打ち負けない様に、持てる力の全てを体全体に張り巡らせていた。

 そして赤鬼の拳が、俺の剣と触れた部分から……裂けていった! すでにこの剣には魔力が流してあり、切れ味は格段に上昇しているんだ!


「がああぁっ!」


 それと同時に俺の腕が、そして足が奇妙な方向にひしゃげる! 言うまでも無く、赤鬼の攻撃で俺の手足の骨が……折れちまった!

 2つに分断されながらも、なんて攻撃力なんだ!

 それでもお構いなしに押し寄せてくる圧は、俺もろともマリーシェを打ち砕かんとするばかりの威力だ!

 拳から腕にかけて等分されているのに、その進攻は止まる素振りさえ見せなかった!

 俺は自分の腕や足の事など考えず、全ての力を注ぎ込みその圧力に堪えようとした! 折れちまった腕や足の痛みなんて、もう感じられない。

 何度も木の枝の折れる様な音が聞こえたが、それが何を意味しているのかさえ理解が及ばなかった。

 諸刃の剣を支えている手に刃が食い込み、持ち主である俺の左掌を深く傷つけ、それは骨にぶつかる事でどうにか留める事が出来た。それでも、その骨をも砕かんばかりの力が加わり続けているんだがな。

 そんな俺の全霊を尽くしても尚。


 このままじゃあ……押し込まれる!


 このままこの攻撃を耐え続ければ、マリーシェはともかく俺は赤鬼の攻撃に圧し潰されるだろう事が理解できた。

 俺は瞬間その事を察して、観念していたんだが。

 突然、その悪夢のような圧迫が弱まり……完全に停止した。

 もはや視界も定まらない俺の眼に、胸の部分から横に薄っすらと血の跡を付けた赤鬼が、拳を突き出したままの姿勢で……絶命している姿が見えたんだ。


「……ふうぅ」


 赤鬼の背後には、剣を横に薙いだ姿のまま固まっているカミーラの姿が見えた。

 そして彼女の持つその剣は……真っ赤に輝いていたんだ。


 そうか……カミーラも……魔法剣を……。


 急激に薄れていく意識の中で、俺は確信をもってそう考えていた。

 彼女の使った魔法剣は刀剣技「緋炎斬りシャマ・エスカラーリェ」。

 極限まで刀身を高温化し、刀の切れ味を凄まじく向上させる剣技だ。

 火属性でもある魔法剣だが、この技は対象を燃やす事を目的としていない。高温をもって接触部を溶融させ、斬撃能力を高めているんだ。

 その威力は、あれだけ困難だった赤鬼の身体を、いともあっさりと両断出来るほど……だ。

 マリーシェだけじゃあなく、カミーラもまた剣技に関してはかなりの才能があるとみて良いだろうなぁ。


 そして、そこでようやく「決着」を見た俺は、急激に薄れていく意識に身を委ねたんだ。


カミーラの一撃で、この戦いは完全に決着を見たんだ。

そして残された全ての力を使い切った俺は、もう意識を保っていられる状態じゃあなかったんだ……。

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