初めての
「学校、お疲れ様でした」
「え、あ、どうも」
日が長くなり始めたのを感じながら歩く帰り道。ここ最近、やっと見慣れてきた街並みの中、何度見ても慣れることがないであろう屋敷の門の前に、和服姿のメイドが立っていた。
「明日からお休みですね。私は学生の頃からメイドをやっておりましたので、まともに休んだことはないのですけど」
「大変ですね……。あ、これ藍那さんに」
さっき先生から受け取ったクリアファイルを坂瀬河さんにそのまま渡し、藍那さんの具合を聞いてみる。
「今はぐっすり寝ていますよ。もうすぐお腹が空いて起きる頃だと……会っていかれますか?」
「いや、やめときます」
元気ならそれでいい。それにいきなりこられたら迷惑だろう。
「そんな気遣い、お嬢様には不要だと思いますよ? 特に芦屋様に関しては……」
最後の方がよく聞こえなかったけど、今日は本当にやめとこう。また、来週会えるんだし。
「それじゃあ、帰ります」
「芦屋様、ちょっと待ってください」
俺を呼び止めた坂瀬河さんは、胸元に手を入れごそごそと何かを探し始めた。
坂瀬河さん、胸あるよな……。
「恥ずかしいのであんまり見ないでもらえますか?」
「す、すいません」
いたずらじみた笑顔を見せる坂瀬河さん。これは、からかわれたな。
そんな坂瀬河さんが取り出したのは、若者はみんな持っていると言っても過言ではないスマートフォンだった。
「今日の朝も思ったのですが、芦屋様と連絡先の交換をと思いまして。あ、こう言う時は、べ、別にあんたの連絡先が知りたいわけじゃないんだからねっ、と言った方がよろしかったですか?」
「いや、大丈夫ですよ!? どこ向けのサービスですか!」
「残念です。芦屋様のために朝から考えておりましたのに」
わざとらしく落ち込む坂瀬河さんを無視して、俺もポケットに入れてあるスマホを取り出し、言われた電話番号を登録した。
異性で連絡先を交換したのは、家族を除くと坂瀬河さんが初めてだ。
「芦屋様の初めてを私が頂いてしまったわけですね」
「紛らわしい言い方しないで!」
表情だけで何でわかるんですか……。はぁ、この人苦手だな。
読んでいただきありがとうございます!




