人のこと言えないな
放課後。教室の掃除をしている最中、ほうきを片手に持った女子生徒が俺に話しかけてきた。
「芦屋くん」
「な、何?」
長い黒髪、前髪には髪どめをつけており、綺麗に整った顔があらわになっている。
藍那さんを可愛い系と言うならば、この子、洲咲くるみは、美人系の部類だ。
藍那さんに席を譲ってあげた優しい洲咲さんが、俺になんの用だろうか。
「芦屋くんって藍那さんと仲良いよね?」
「あ、あれは、えーと」
お世話係りのことって言っていいのかな? いやでも、言ったところで伝わるかも危うい。
「たまたま、家が近いからかな……」
「ふ、ふーん」
正直、微妙な距離だけど。
それより、人と喋るのってこんな緊張するもんだっけ? 俺って、クラスに仲のいい奴いなかったな……。
「……」
「……」
「藍那さんって」
「う、うん」
「どうやったら話してくれるかな?」
「あ、あぁ」
確かに洲咲さん、クラスの誰よりもよく藍那さんに話しかけてるもんな。まぁ、反応はしてもらえてないみたいだけど……。
藍那さんがどうやったら反応してくれるか……か。
俺は当然のように喋ってるし、考えたことなかった。仮に無反応だったりしたら洲咲さんみたいに、根気よく話しかけたりはできないだろうな。
「食べ物とか?」
「食べ物?」
「いや、藍那さんよく食べるから」
「そう、なんだ。そうか、食べ物か……うん! ありがとう、今度また試してみる」
そんな洲咲さんの力にちょっとでもなれればいいなと思った。それに、藍那さんも俺以外の人と仲良くなれた方が絶対にいい。
「えーと、洲咲さん」
「うん?」
「が、頑張って」
「うん、頑張る」
藍那さんのこと人見知りとか言ってたけど、俺も大概だな。今、手汗がすごい。
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