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 小休憩後、しばらく進むと砂浜に出た。個人差はあれど、もしかしたらと心の隅で期待していた十人は、どこまでも白い砂浜を見て僅かに気を落とした。鍋の一つでも落ちていれば大助かりだったのだが。

「ここは東北東の端の砂浜だな」ローレルが手帳を見ながら言う。「ここからは島の北東エリアの探索を兼ねて、大きく蛇行する形で北の砂浜へ向かう。今のところ予定よりはかなり早いし、今日中に北西エリアを少し歩けるかもしれない。もちろん、なにもなければ、だけどな」

「この場合は何かあることを期待した方がいいのかしら」アイリスの言葉にローレルは苦笑を浮かべる。

「まぁ、試験関係のなにかだったらそうだが、予想外のハプニングやトラブルは期待したくないな。ミナがいるから少しは安心出来るが」

 その言葉にミナは困ったような笑みを浮かべながら顔を俯けた。ローレル含む大多数は照れからの行動だろうと疑いもなく思った。しかし、アイリスとジンは、他の者とは違う視線を彼女に向けていた。


 予定通りに、そして何のハプニングもなく北東エリアの探索を終えた十人は、北西エリアに入ったところでその日の行動に区切りをつけた。まだ辺りは明るかったが、寝床に適した小さな洞窟を見つけたためだった。

 砂浜で夕食をとり、洞窟内に各自簡単な寝床を作って眠りにつく。見張りはアルスとロメリア一名ずつ。一時間おきに交代となった。

 ジンは夜中に目を覚ました。しかし、寝直そうとは思わなかった。目が覚めたということはそろそろ見張りの時間なのだろうと思ったためだ。事実、私物の懐中時計を見てみると、あと十分ほどで交代の時間であった。

 なるべく音をたてないように起き上がり、剣を片手に入り口へ向かう。カンナとミナの後ろ姿が見えると、気配を感じたのか二人が地面に座ったまま振り返った。

「早くない?」とカンナが言う。

「ちょうど目が覚めたんでな。そのまま寝ていても仕方ないだろう」

「ま、私的には有り難いけど」そう言うと立ち上がり、身体についた砂を払ってから「じゃ、よろしく」と片手をあげて洞窟の中へ戻っていった。

「アイリスもあと十分ほどすれば来るだろう。こなければ、悪いが起こしてやってくれ」

 腰を下ろしながら言うと、ミナは「はい」と笑みを浮かべる。そんな彼女にジンはどこか冷めた表情を向けたが、すぐに顔を前に向けた。

「意外と順調だな、このメンバーでの無人島生活も」

 ミナは少し意外に思った。ジンは無駄な話などするタイプではないと思っていたためだ。

「そうですね。フェイジョアさんとカンナさんもなんだかんだで気が合ってるみたいですし」

「まぁあの二人の成績がよければこう上手くはいかなかっただろうな」

 当然、ミナもあの二人の成績事情は察しており、ジンの言葉に苦笑いをした。ジンはまたその表情を横目に見てから話を続ける。

「カルミアも意外に上手くやれている。順応力はあるようだな。湖の一件のあとフェイジョアのことを気にしていたが、どうも自分で解決したようだ。カンナとはまだ時間がかかりそうだが」

「ジンさん、皆さんのことをちゃんと見ているんですね」

「国民を束ねる立場にある者が十人程度にも目を配れないでどうする」

「そうですよね」とミナはまた苦笑いを浮かべる。その顔を見たジンは、どこか心を決めたようにミナと視線を合わせた。

「俺が見ている限り、最も溶け込めていないのはカルミアではなく君なのだがな」

 ミナの表情が苦笑いのまま一瞬だけ硬直したが、ジンはそれに気付いていながらも気にせず続けて口を開く。

「いや、溶け込めていないというより、溶け込む気がないのか? 少なくとも、俺にはそう感じられる。根拠があるわけではない。的外れなことを言っているようなら、失礼なことを言ったと謝ろう」

 ミナは答えなかった。そしてそれがジンの考えを裏付けた。だからといって、他のメンバーと仲良くしろなどというつもりはジンにもない。ただ、彼女はローレルが言っていたように回復の要である。即死さえしていなければどのような傷も治すという圧倒的な治癒魔法。万が一を考えてそれを当てにするのは当然の心理であり、そして、その使い手が自分達とどこか距離を置くような態度を取っていれば不安に思うのも当然であった。

 結局ミナは先程よりぎこちなく笑っただけで口を開かなかった。それが、またジンの不安を掻き立てる。どのような状況でも自分の身は自分で守れる自信がある。しかし、ロメリアであるアイリスは、どのような状況でもとは言えない。

 何か不満があるならはっきり言ってくれ。ジンがそう口にしようとした時だった。

「あら」という声が後ろから聞こえて、二人は反射的に振り返った。若干、気を抜いてしまっていたことは否めないが、まるで気配を感じなかった。「ジンったら、婚約者が寝ている間に他の女の子と夜の一時を過ごしてるなんて」アイリスの含み笑いを見るに、わざと気配を消して近付いてきたのだろう。

「しかもお相手はエキナケアの嫡女。明日の一面を飾る大スクープね」

「アイリス、いつまでふざけてる」

 大切な話を邪魔されたせいか、その言葉はどこか不満げであったが、アイリスは気にした様子もなく笑みを浮かべたままミナを見て、見張りの交代を告げた。素早く立ち上がり、逃げるように歩いていくミナの背中に「おやすみなさぁーい」と声を掛けてから、ジンの隣に腰を下ろした。

「駄目よ、女の子にあんな言い方したら」

「やっぱり聞いていたのか」

「ジンの魔力にセンサーを合わせているもの。ジンが目を覚ましたら私も起きるようにね」

「そうか」とだけジンは返して前を見た。「お前も気にしていただろう。ミナのことを」

「まあね。でもジンみたいに不安には思ってないわよ」

 当然のように心を見透かしてくるアイリスに、ジンは僅かに顔をしかめる。しかし、その一方で、少し有り難くもあった。他人に頼ることを、相談するということを嫌う意固地さを、彼はよく自覚していた。

「私の力とあの子の力は全くの別物だけど、基本的に第三者が対象になる能力でしょ。そうなると、やっぱり余計に期待されちゃうし、それに応えられなかった場合はその分落胆される。ううん。私だからその程度で済んだけど、あの子の場合、期待に応えられなかったっていうことはイコールで助けられなかったってことだから、もっとでしょうね」

「期待されたくないということか?」

「それも理由の一つなんじゃないかしら。あとは、私はそんな経験あまりないから想像するしかないけど、あの子の力的に、人が死んだところを見ちゃうことも少なくないでしょう? そんな場面を何度も目の当たりにしたら、どこか感覚が麻痺しちゃうか、そうじゃなきゃ、あんな風に人と距離を取るようになってもおかしくないのかなってね」

「意外としっかり考えていたんだな」

「あら、やきもち?」

 アイリスは、ジンのしかめ面を見て笑ってから「昨日今日で考えたことじゃないもの」と言った。「あの子、学院でも、誰に対してもあんな感じだったから。なんとなく気になって考えてるうちに、そうなのかなって思っただけよ」

「そうか」とだけジンは答えた。しかし内心では、思慮の浅さから配慮に欠けたことを言ってしまったかと後悔を覚えていた。そして、そんな彼の内心を察したかのように、アイリスは笑みを浮かべた。



――様子はどうだ。

――今は二体とも眠っている。だが餌はもう尽きた。次に目を覚ましたとき、狩りにでるだろう。早ければ明日には、あいつらは死ぬことになる。

――了解した。




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