二
ローレル達が転移術で学院に戻って来た頃にはすっかり日が暮れていた。
校庭の真ん中に現れた彼らを、それぞれの一族の者が出迎える。そのほとんどが安堵から笑みを浮かべていたが、ナギは気まずそうに護衛二人から目を逸らし、ネリネは号泣したランに突進されて地面に押し倒されていた。
そんなネリネの傍からそっと離れたカルミアは、周囲を見回して祖母の姿を探す。しかしそれらしき姿は見付からず、カルミアは所在なく立ち尽くす。そんな彼女に気付いたカンナは、くどくどと説教を始めたアスターに「うるさい」と言ってから小走りで駆け寄る。
「カルミア、師匠来てないの?」
「あ、うん。そうみたい。最近調子悪かったから、多分無理かなって思ってたんだけど……」
「そうなんだ。今からじゃあ転移屋もやってないよね。よかったらウチくる?」
その言葉に反応したのはナギとネリネであった。ナギは護衛二人から発せられる無言の抗議すら忘却の彼方へ消し飛ばし、本能のままに二人のもとへ移動する。それは片足が使えない者とは思えないほど俊敏な動きであった。
「そういうことならカルミアには私の家にきてほしい」
「なんで!?」とカンナ。
「なんでも」
「で、でも私の方が早かったし!」
「それは関係ない。カルミアが行きたい方に行くべき」
一方、ネリネは参戦したいのだが号泣したランが引っ付いて離れてくれない。
「カルミア、どっちに行きたい!?」
「えっ」
「私の家にきて」
「えっ」
「バンクシア家なんてみんな暗くてつまんないじゃない! ウチにきた方が楽しいわよ!」
これに真っ先に反応したのはナギの護衛の二人。
「そのようなことはありません」
「皆、真面目なだけなのです」
「ほらもうその返答が暗いのよ!」
駆け寄ってきたアスターが「まあまあ」と息女を宥めているのを見てナギが口を開く。
「ディモルフォセカ家の人は乱暴だし短気だし頭も悪い」
それに真っ先に反応したのはアスター。
「あ、いえ、それはお嬢様だけですので誤解なさらぬようお願いします」
「フォローしなさいよ!」
そうしている間に、ネリネがランを引きずりながらようやくやってきた。
「カルミアは私の家に泊める。カルミアの家からも近いから明日すぐに送れる」
うぐ、と怯むカンナとナギであったが、
「でもネリネ、あなた大変なんじゃないの? その能力、みんなに黙ってたんでしょ? その説明とかしなきゃいけないだろうし、カルミアの面倒見てる暇があるの?」
「ぐ。こういう時だけよく頭が回る……」
「なんか言った?」
口論を始めた三人を他の六人は珍しそうに見ていた。
「あら。ネリネとカンナは分かるけど、カルミアったらいつの間にナギまで落としたのかしら」首を傾げるアイリスの横でジンはやれやれと言わんばかりに溜め息を吐く。
「九大貴族ともあろう者が校庭の真ん中で口喧嘩など……」
「学校だからいいんじゃないか? ここでは全員が一生徒だろう」
ローレルの言葉にジンは呆れた表情をしながらもその口元には笑みが浮かんでいた。
「ミナさんは参戦しないでいいの?」と言うフラネルにミナは苦笑で返す。
「あの三人の勢いに勝てる気がしませんから」
「勢いなら俺も負けねぇけどな」
「ならフェイジョアも参戦してきなさいよ。確実に――――」
「よっしゃあ!」
言葉通り勢いよく駆け出したフェイジョアに、アイリスは弁明するように他の四人を見た。
「確実に殴られるって言いたかったのよ?」
「勢いに負けたな」とジンが言うと同時に、離れた場所で「ダメに決まってんでしょうが!」というカンナの怒号が聞こえた。
先程まで口論を繰り広げていた三人にフェイジョアが殴る蹴るの暴行を加えられている時、不意に顔をあげたカルミアは、校門の方から歩いてくる人影に気付いて目を見開き、駆け出しながら「お祖母ちゃん!」と嬉しげな声をあげた。
そして気付けば、全員がその声の方へ顔を向けていた。




