第一幕〜居場所〜
唯はこの田舎には叔父と叔母に会う以外にもう一つ楽しみがあった。
叔父と叔母の家から来た道を少し戻って、団地の隙間を縫って歩くと小さな公園があるのだが、そこでの忘れられない出会い。
唯もまだ小学生に入る前だったのでその頃のことはうろ覚えだが、小さな指を絡めあってした指切りだけは鮮明に覚えていた。
お互いの居場所が違っても、ずっと友達でいることを約束した公園。そこに、今年も三つの影があった。
「みんなー!」
唯は公園の入り口に立って、奥の遊具に座っている同年齢くらいの少女達に向かって声を張り上げた。
少女達は最初、何が起こったのかという顔をしていたが、唯の顔を見るなり遊具から降りて、走り寄ってきた。
「唯!?唯じゃない!」
「久しぶり。今年は帰ってきたんだね」
「もう、待ちくたびれたよ」
三人の少女は口々に言う。
「ごめんね、去年は来れなくて」
「うち、年賀状を唯に出したんだよ。でも、帰ってこなくて、すっごく心配したんだからね!」
「アハハ、ごめんごめん。実はさ…」
唯は彼女達との最後の夏から今までの経緯を語った。
「うっヘぇ、何それ!?」
「あたしらじゃ、まず想像もできないよ…」
「唯、都会って恐ろしいね…」
案の定、というか予想通りのリアクションをした女友達三人。
「ね、信じられないでしょ。それもこれもうちのお母さんのせいだよ」
「あ〜、それはわかる。うちのもおんなじだもん」
「だよねぇ。うちも遊んでる暇があったら勉強しなさいってよく言われるよ」
「どうして母親ってこうも口うるさいんだろうね。お父さんはそうでもないのに」
「そうかなぁ。うちのお父さんは結構口うるさいほうよ。それに田んぼと畑やってるから毎日帰ってきたら汗臭いったらありゃしない」
「あぁ、それはうちも同じ。それにお風呂からでると真っ裸だし」
「意味わかんないよね、あれ。何で裸で出てくるんだろ?」
「さぁ?少なくとも娘のいる家庭で父親がやることじゃないよねー」
女同士の会話は他愛もない話からどんどん話が連鎖していく。
そんな他愛もない日常にも、唯には懐かしかった。
(今の中学校じゃ、男の子も女の子もそういう話の前に勉強の話ばかりだもんね)
中でも一番驚いたのは、中学校に入ったばかりだというのに、もう高校受験の話をしている男子がいたことだった。
「どんだけー」とそいつらに言ってやりたかったが、そこは彼らの空気を汚すようだったので言わないでいた。唯の通っている中学校は少しは名の知れた有名校だけに、高校もそれなりにレベルの高いところに入っているらしいことを、終業式の学年集会で聞いていた。
本当に「どんだけー」だ。
「さて、これからどうしようか?」
「せっかく唯が帰ってきてくれたことだし街に行こうよ!」
「あ、あたしカラオケ行きたい!ずいぶん行ってないし」
「二人とも、待ちなって。今日は都会人の唯がいるんだよ?唯はカラオケとかってあまり珍しくないんでしょ?」
「え?う〜んと、そうでもないよ?」
「またまた遠慮しないの!今日はせっかく唯がいるんだから、いつもどおり山道ダッシュから行くよ!」
よーいどん、とかなり不意打ちな掛け声と同時に山道ダッシュなるものがスタートする。唯のクラスメイトだったら、まずこんな勝手な遊びには参加しないだろうが、そこは田舎の少女達。次々と、駆け出していく。もちろん、唯も。
唯は改めて、ここが自分の居場所であることをしみじみと感じていた。




