第一幕〜約束〜
やがてバスが停車地名を告げてゆっくりと減速する。
唯は頭の中でもんもんと考えていたことを振り払い、降りる準備をする。
(せっかく叔父さん達の家に遊びに来たのに嫌なこと考えちゃった。さぁ、ここからははっちゃけていくぞぉ!)
唯はたまに考え込む癖があるのだが、持ち前の明るさですぐに吹き飛ばしてしまう。
ミーン ミーン ミーン。
バスを降りると、唯の到着を待ち構えていたかのようにセミ達が大合唱して唯を歓迎する。
「えへへ、皆元気だねー!あたしはまた来たよぉ!」
唯もセミに負けないくらいの大声で叫ぶ。
バスの運転手は怪訝そうな顔をしながら唯を見下ろすと、そのまま去っていった。もちろん、唯はそのことに気づいていなかった。
バスを降りてからしばらく田んぼ道を歩けば、すぐに叔父の家が見えてくる。
ピンポーン。
チャイムを押して一休み。立っているだけでも汗が噴出してくる。
今年も東京では三十度後半の猛暑が続いているらしい。ここは東京からは相当離れているが、盆地のため蒸し暑さは向こう以上といえよう。
ガラララ。
昔ながらの戸が開いて、叔父と叔母が揃って唯を出迎えてくれた。
「やぁ、いらっしゃい唯ちゃん」
「こんにちは、叔父さん叔母さん。お久しぶりです」
唯は中学校の面接用にと、仕込まれた丁寧なお辞儀と挨拶をする。叔父と叔母は笑顔で唯を家の中へ通す。
「ちょっと見ないうちに大きくなったわね。もう一年半以上経つかしら」
ほんわかとした口調でお茶を運びながら叔母が言う。
「はい。去年はずっと受験勉強でしたから」
扇風機の風を浴びながら少し皮肉を込めて言ってみる。
「そうだったね。でも、無事に受かってよかった。改めて入学おめでとう」
唯が受験に合格した春、叔父は仕事の都合で電話で唯に祝辞を述べたのみだった。
「ありがとうございます」
「学校にはもう慣れた?」
「えぇ、まぁ…」
唯は返答に困った。確かに学校自体には慣れたし、友達もできたのだが、やはり活動的な唯にはどこか物足りなかったのだ。
「その様子だと、まだあんまり慣れていないみたいだね」
叔父が笑いながら言った。
「まだ半年も経っていないものね。それに、唯ちゃんの学校は勉強も厳しいと聞くわ。お勉強のほうはどう?」
「え〜っと…」
まるで家庭訪問でもしているかのようなやり取りを一時間近く続けたところでようやく開放された唯は荷物を部屋に置くと、叔父と叔母に一言断りを入れて、外に出た。
唯が今回ここにやってきたのは、叔父と叔母に会う以外にもう一つ目的があったのだ。
二年前、小学校時代に唯がここで過ごした最後の夏の日にした約束。それを果たしに行かなければ。
おそらく今年も待ってくれているはずだ。
唯はそんな期待と不安を抱きながら、あの場所へ向かった。




