表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第三幕〜皮肉な死〜

「か、影丸!?どこ!?」

「後ろだよ、唯」

「え?」

 唯が振り向こうと顔を動かすと、その先に影丸の指が当たった。よく冗談でやる遊びの感じである。

「今のは幽霊であることを利用して少し誇張したことをしたけど…」

 悪ふざけが誇張か、と思いながらも唯は影丸の話を聞いた。

「どんな時でも気配を消して主に仕えるのが忍びの役目なんだ」

「ふ〜ん、結構暗い仕事ね」

「明るい忍びがいたら不気味でしょ?」

「それもそうね。で、何で死んじゃったの?」

「毒を飲まされたんだ」

「え?」

「正確に言えば『飲んだ』んだけど」

「どっちなのよ…」

「オイラが当時仕えていた主は、隠密としてのオイラの仕事ぶりを高く評価していた。だけど、ある時如何わしい噂が流れた」

「如何わしい噂?」

「屋敷の中にはオイラのことをよく思っていなかった連中がいた。ある時、オイラは敵の忍びから宝物庫の財宝を守るため番をしていたんだ。その時に、敵と揉み合ってしまい、壷を奪い合っていたんだ。もちろん、オイラは取り返すために敵からその壷を奪っただけだったんだ。それを家中の者が、あたかもオイラが宝物庫の番をしていたのをいいことに壷を盗もうとしたと言ったんだろうね。敵の忍びを退けて、役目を終えたオイラに主が褒美に茶を進ぜようと言った。しかし……」

「その中に毒が…?」

「ああ、器にでも塗ってあったのだろうなぁ。茶自体に入れることは不可能だったはずだし」

「どうしてよ?」

「仮にも忍びのプロが見ているところで毒なんて盛れるわけないじゃん?」

「あ、そっか」

「最初から器に毒を塗っておけば気づかれずに済む。見抜こうと思えば見抜けたけど」

「珍しいじゃん。アンタが負け惜しみ?」

「そうじゃない。自慢じゃないけどオイラは当時、その世界ではそれなりに恐れられた忍びだったんだ。毒がどこに塗ってあるかくらいすぐにわかったさ。けど、いつも家中の者にいとも簡単に振り回されっぱなし、壷の件もあっさり家中の言いなりになった主に嫌気が差したために皮肉を込めて飲んだのさ。死んで幽体となってから、主の屋敷を見てきたが、結局は家中の者に寝首を取られて死んでしまったよ」

「………」

「怖かった?」

 影丸はそう言って苦笑する。

「そうじゃない」

 しかし、唯はきっぱりと言いきった。

「どうして……どうして主を見返すために死んだの?意味わからないよ。そんな意味のないことのために死ぬなんて!見返すならもっと他にも方法があったんじゃないの?」

「今時の童らしい……いや、唯らしい考えだ。でもね、当時を生きていればきっと唯だってそうは思わなかったはずだよ。今の時代には今の時代の流れがあるように、室町時代にもその中の流れがあった。特に忍びはその流れとはまた別の流れを取っていてさらにややこしい」

「何なのよそれ…」

「唯にはかなり難しい話だよ」

「何よそれ。だいたいずっと思っていたんだけどアンタって本当は何歳なのよ?」

「う〜ん、時代が時代だから正確には覚えていないんだ。三十歳くらいじゃないかな?」

「三十!?」

 嘘でしょと言わんばかりに唯の目が大きく開く。

「驚きからもしれないけど忍びで三十年生きるのも珍しいんだよ。それだけオイラが主に好かれていたとも言えるけど」

「それって、自画自賛?」

「四字熟語か。外見からは想像できない博識具合だな。偶然か?」

「馬鹿にしないで。これでも有名私立の中学校に通っているんだから」

「おっと、それは悪かった」

 影丸きっと本気で悪かったとは思っていないだろう。おどけた調子で謝った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ