第二幕〜奇妙な旅へ〜
影丸は話し終えると、「ぢかれた〜」と言いながら、墓石の上に頭を乗っけた。
「それで童よ、何とかなりそうか?」
幽霊の一人が期待に目を輝かせて言う。
「そんな無茶言わないでよ。影丸の話をずっと聞いていたけど、あたしだってその三条院って人の考えは理解できないわ」
「そんな…。なぜだ!?」
「なぜって言われても、その人は有名企業の社長って言うくらいだから当然大人でしょ?子供のあたしに大人の考えていることなんてわかるわけないじゃない。ていうかわかりたくもないし」
『………』
唯は決して意地悪でなく正直に言ったつもりだったのに、いつしか幽霊達からまた冷ややかな視線を浴びていた。
「そ、そんな目で見ないでよ!話す前に言ったでしょ!?できることだったら協力するって。あたしにその社長さんを説得させるなんて無理だよ…」
唯は小さく「ごめんなさい」と言って小さく頭を下げた。
「どうするのだ影丸!?このままでは本当に三条院に降伏するしかなくなるではないか!?」
「………」
影丸は黙ったまま俯いている。
(あんな悪戯好きでも真剣な顔をするんだ…)
唯は少し影丸を尊敬した。自分よりも年下の少年が、これだけの幽霊の大人達をまとめている。自分にはとてもできない芸当だった。
「影丸?」
ずっと俯いたまま顔を上げない影丸を、唯は心配そうに下から覗きこんだ。
「ばぁ〜!?」
「みゃああああ!!!」
「ニャハハハハ、おっかし〜!!唯の顔〜!」
影丸は唯が心配して顔を覗き込んでくることを案じていたのだろうか。顔を覗き込んだ唯を見事に驚かすことに成功した。
「あ、あ、あ……。最低だよアンタ!」
「アッハッハッハ!そう怒るな怒るな」
影丸は顔を真っ赤にして怒る唯をたしなめながら周囲の幽霊達を見回して言った。
「皆、唯と一緒に少し出かけてくるよ。」
「ちょっと!アンタ話を聞いてたの!?協力できないって言ったでしょ?」
「協力はしなくていい。だけどオイラには今の時代の言葉ってよくわからないんだよね。『わせーえいご』とかいうやつが多すぎてさ。だから唯には現代語の通訳係として来てもらおうと思うんだ」
「………」
「異論はないね?」
「ちぇ、アンタってほんと最低。どうせ断っても脅して無理矢理連れて行くんでしょ?」
「アッハッハッハ、せいか〜い」
影丸は可愛らしい八重歯を見せて笑った。
「じゃ、早速行くとするか」
「はいはい。それで、その三条院さんはどこにいるの?」
「ここから十数キロ離れたところの墓地、そこが彼のシマだ」
「十数キロ…。はぁ、気が滅入るなぁ…」
「何なら気が滅入らないようにしながら行こうか?」
「結構です」
唯はプンっと膨れると、幽霊達に背中を向けてさっさと歩き始めた。
「影丸、お主やるのぉ」
「本当じゃ。通訳と言いつつ、奴と接触させることを考えたのだろ?」
「そこまで考えちゃいないさ。ただ、うまくいけば唯は何とかしてくれる。そう思ったからだよ」
「影丸、本当にあの童を信用してよいのか?」
「何だよ、オイラが信用しているのが信用できないのか?」
「ふぅ、わかった。十分に気をつけるのだぞ」
「ああ、わかってるぜ」
影丸は親指をピッと立てると、忍びだった頃の隠密術を使ってフッと幽霊達の前から消えた。その直後、墓地の下から唯の盛大な悲鳴が聞こえたことはいうまでもない。
『本当にあいつらで大丈夫かな…』
墓地にいた誰もがそう口にした。




