第百九話 ヴォワイエ
コンコン。
俺の部屋の扉が叩かれ、そして聞き覚えのない声がドアの向こうから聞こえた。
「すみません」
(……誰だ?)
(リバやキャリーにしては帰ってくるのが早すぎる……)
俺は警戒しながら扉へ近付き、そしてゆっくりとドアを開いた。
その瞬間、俺の表情が凍り付く、黒い外套、そして印象的な仮面、見間違えるはずもない。
(影の調停者!?)
俺は咄嗟に後方へ飛び退いた、剣に手をかけると仮面の男は慌てたように両手を上げた。
「ああ!そう警戒しないでください」
「何もここで襲ったりしません」
「ここでそんな事すれば魔兵団の奴等に速攻で捕まってしまうでしょうし……」
「お前は誰だ?」
男は軽く頭を下げる。
「……そうですね」
「自己紹介をしましょう」
男は外套とマウスを外した、現れたのは紫色の髪をした魔族だった。
「僕は影の調停者、第四影将――ヴォワイエです」
俺は一切警戒を解かなかった。
「ああ!落ち着いてください」
「今『何が目的だ!』って顔してますね」
「何が目的だ!」
「あ、やっぱり」
ヴォワイエは楽しそうに肩をすくめる。
「簡単に言うと……」
「好奇心と忠告をしに来ただけです」
「……どういう意味だ?」
「いやぁ」
ヴォワイエは俺を眺める。
「だって……アナタ、同僚を殺したでしょ?」
「……ダークのことか?」
「そうです!」
ヴォワイエは勢いよく頷く。
「あの次期賢者候補が倒したならまだ分かります」
「でも何の実績も無い奴が同僚を殺したもんで」
「どんな奴かなーって」
「それだけのためにわざわざ来たのか」
「いやいや」
ヴォワイエは指を一本立てる。
「忠告もあります」
「今、組織の中の何人かがアナタを狙ってます」
「……」
「それも顔を真っ赤にして」
「いかにも『許さねぇ!』って感じですね」
「……お前はどうなんだ」
「僕……ですか?」
ヴォワイエは首を傾げる。
「別にダークの事は前から変な奴ってぐらいの印象でしたし」
「彼の言ってた『弱者は死ぬべき』って意見にも賛成しかねます」
「そうか」
「いやー、それにしても運が良かったですね」
俺は眉をひそめる。
「運?」
「ウチの『前』のボスなんですけど」
「特に仲間意識が強い人だったんです」
ヴォワイエは肩をすくめる。
「賢者候補ぐらい飛び抜けて強いならともかく」
「アナタみたいなのはソッコーであの世送りにされてたと思いますよ」
「今は違うのか?」
「そうなんですよ!」
急にヴォワイエの愚痴が始まった。
「聞いてくださいよ!」
「イキナリどこぞの馬の骨とも分からない奴が急にボスを殺して組織を乗っ取ったんです!」
「なんでもソイツは無茶振りばっかりだし!」
「部下の扱い雑だし!」
「ホント勘弁してほしいですよ……」
「……言いたい事はそれだけか?」
「あー……」
ヴォワイエは少し考える。
「大体言いたい事は言えましたね」
「これを君に伝えに来たのも半分暇つぶしですし」
「……」
ヴォワイエは窓の外を見る、そして最後に真面目な口調になった。
「ああ」
「あと最後に一つ」
「?」
「アナタはもうフェイエルを出ない方がいいですよ」
「なぜ?」
「簡単ですよ」
ヴォワイエは即答した。
「ここが一番安全だからです」
「今の君が外に出れば」
「どこかで確実に狙われるでしょうね」
ヴォワイエは軽く手を振る。
「じゃあ、また会えたら」
その瞬間、魔法陣が足元に展開された、転移魔法だ。
次の瞬間、ヴォワイエの姿は消え、静寂だけが部屋に残った。
俺はしばらくその場に立ち尽くしていた、影の調停者、自分を狙う者達、情報を頭の中で情報を整理する。
そして自然と二人の顔が浮かんだ。
キャリー、リバ。
「……」
俺は拳を握る。
「……だとしたら」
「二人を巻き込む訳にはいかない」
その決意と共に、俺は一つの考えを胸に抱くのだった。




