対戦トーナメント:第7話「準決勝前哨戦:30秒で決めろ」
―――中継セクター・試合前―――
カノジョはワクワクしている
「いよいよ準決勝だね!」
カレシは首をかしげながら呟く。
「正確には、そうではない」
「……またそれ?」
カノジョは話の腰を折られ、不服な顔をする。
雇い主はなだめるように言った。
「名前はどうでもいい。誰が残るかだ」
監査役が遠くから聞こえる声で言う。
「名称にはこだわります。」
―――御前会議室・準決勝前哨戦―――
円卓の中央に、進出者が集まっている。
女将、監査役、カノジョ、そして博士。
四人が向かい合っている。
(「学生対青年」「博士対隊長」はいずれも引き分けに終わった。しかし、その議論が決勝の基準を満たしているかは、監査役の独断に委ねられる。結果――「総合判断」という極めて便利な大人の言葉により、勝者は博士に決まった。)
他のメンバーは観客席で見守る。スターはギターを抱え、隊長は腕を組み、青年は椅子を回している。
監査役が、立ち上がる。
「なお、準決勝という名称ですが――」
博士が、遮る。
「では、何なのだ」
「準決勝前に行う、決勝進出者の選定です」
カノジョが、首をかしげる。
「それを準決勝って言うんじゃないの?」
「言いません」
監査役が、即座に否定する。会議室に、小さな笑いが起きる。カノジョは、ラムネを口に放り込みながら言う。
「なんか、すごいこだわり」
監査役は、何も言わなかった。彼は、端末を操作し、画面を表示する。
「これより、『決勝進出者選定のための前哨戦』を開始する。各者、三十秒で『正しさと優しさ』について、自分の立場を語れ」
「三十秒?」
カノジョが、首をかしげる。
「短くない?」
「短いです」
「じゃあ、何を言えばいいの?」
「自分の信条を一言」
博士が、一歩前に出る。
「両方の論理構造を分析する必要がある。正しさと優しさは、対立するものではなく、補完し合うものだ。そのバランスを論理的に解明することが、私の役割だ」
彼は、端末を閉じた。三十秒。正確だった。
次に、女将が前に出る。彼女は、コーヒーカップを手に、優しく微笑んだ。
「コーヒーは、言葉より先に届く。正しさも、優しさも、まずは相手に届かなければ意味がない。私は、その温かさを届けたい」
彼女は、カップを置いた。三十秒。ぴったりだった。
次に、監査役が前に出る。
「正しさがなければ、優しさは崩れる。ルールがなければ、温かさは独善になる。私は、その均衡を守る」
彼は、端末を閉じた。三十秒。正確に。
最後に、カノジョが前に出る。彼女は、ラムネの袋を揺らしながら、笑った。
「どっちも好き!」
それだけだった。
30秒のタイマーが、虚しくチクタクと音を刻んでいる。あと25秒余っている。
会議室に、静寂が訪れる。
博士が眼鏡の奥の目を瞬かせ、小さく言う。
「……残りの時間はどうするのだ」
「ラムネ食べる時間!」
博士が、小さく言う。
「……それで、終わりか?」
「うん! だって、どっちも大事だもん。」
会議室に、笑いが起きた。監査役が、端末を操作する。
「前哨戦、終了。決勝進出者は――」
監査役が端末を見る。
「女将、監査役、カノジョ、博士の四人とする」
拍手が、まばらに響く。
雇い主が冷静に呟く。
「全員か。しかし、監査役に有利なシステムだな」
カノジョが、やる気満々だ。博士は端末を閉じ、女将は静かに微笑んだ。監査役は、さらに続ける。
「決勝のテーマは――」
全員の視線が、彼に集まる。
「先程立場を宣言してもらった『正しいこと』と『優しいこと』、どちらが大事か」
会議室が、静まり返る。カノジョが、小さく呟く。
「……深いテーマだね」
誰も答えなかった。でも、その沈黙が、答えだった。
【観測記録:対戦Codeトーナメント戦】
準決勝前哨戦(名称はあくまで前哨戦)。
決勝進出者:女将、監査役、カノジョ、博士。
決勝テーマ:「『正しいこと』と『優しいこと』、どちらが大事か」
特記事項:カノジョの『どっちも好き!』は、三十秒の枠を超えていたが、却下されなかった。
―――試合後―――
四人の進出者が席を立つ。
カノジョが手を振る。
「決勝だよ!」
博士が考えを述べる。
「答えのない問いになる」
女将が囁く。
「届く方を、大切にしたいわ」
監査役は読み上げる。
「均衡は、崩さない」
カレシが観客席から記録する。
「決勝テーマ:正しさと優しさ」
雇い主が締める。
「誰が勝っても、問いが残る試合になるだろう」
──次回予告──
「正しさと優しさ、どちらが大事か。答えのない問いに、彼らはどう向き合うのか。」
女将「優しいことが正しいこともある」
監査役「正しさがなければ優しさは成り立たない」
カノジョ「どっちも大事だよ!」
次回、最終話「決勝:正しさと優しさの間」。答えのない問いが、そこに残る。




