【御前会議_07】チロルチョコで繋ぐ、無名の線
中継セクター。
雇い主が机に向かって、何やら紙に書き込んでいる。カレシが向かいの席で手帳を開き、カノジョは壁際でチロルチョコを頬張っている。
雇い主「よし、田中問題を解決するぞ」
カレシ「お待ちしていました」
雇い主「カノジョ、チロルチョコアソートセットを買ってきてくれ」
カノジョ「わーい!食べていいの?」
雇い主「うむ。うまくいったらな。よし、二人には作戦を話しておこう」
『チロルチョコ大作戦』として熱弁を振るう雇い主。一言一句逃さずメモするカレシ。話はそこそこに買い物の準備に忙しいカノジョ。
カレシ「素晴らしい作戦です。視覚的説得を狙うわけですね」
カノジョ「ねえ、食べれるかな?負けても捨てないよね」
雇い主「ふふ。私の作戦に、死角はない」
(勢いよく立ち上がる)
「よし。これで長老と隊長、女将を説得する。カレシ、三人にアポを取ってくれ。カフェあおいで非公式会談をする」
カレシ「承知しました」
カフェあおい・非公式会談
カフェ「あおい」の窓際の席。
コーヒーカップが並び、テーブルの上にはカノジョが買ってきたチロルチョコのアソートセット30個入の袋が置かれている。
長老、隊長、女将がそれぞれ席に着く。
雇い主の隣にはカレシとカノジョ。
長老「……非公式会談とは、珍しいな」
隊長「田中問題か。あれは本会議でも決まらなかった。現場にいない人間をどう繋げるというのだ」
女将「雇い主さん、今日は随分と自信ありそうね」
雇い主(微笑む)「ええ。この日のために、準備をしてきました」
カノジョがテーブルのチロルチョコを表返しにして並べ始める。
カノジョ「ねえ、長老、どれ食べる?」
(一つを取り上げて擦りながら)
長老「……ほう。チロルチョコか。この定番の品がよいな。しかし熱はないようだな」
隊長「これもよく見かけますね。しかしこれでどう戦うというのだ」
女将「こんないろんな種類があるのね。知らなかったわ。コーヒーにも合いそう、仕入れて見ようかしら」
雇い主(悪くない出だしだ。目の前でチロルチョコを並べ替える。テーブルの真ん中には定番品、一番端に手書きラベル【田中】を置く)
雇い主「テーブルが世界。ここに田中がある」
長老「……?」
隊長「……?」
(【田中】を取り上げて)
雇い主「これだけ売れなくても数字上は影響ないかもしれない。しかし、なくなると、この世界は完成しない」
(作戦通りにカレシが続ける)
カレシ「つまり『彼女の計画』の世界には、登場しないけれど確かに存在する人物たちがいます。その脇役がいてこそ物語が成り立っている。田中もその一人ということですね」
長老「……脇役がブランドを支える、か」
隊長「しかし、まだ出ていない人物をどうやって現場に繋げる?」
雇い主「そこだ。これから出す。彼女の計画のラストシーンであり、彼女の喫茶店の最終ページ——この二つを繋ぐ。そして、その間に田中という『無名な人』を置く。カレシ君、補足を頼む」
カレシ(スッと手帳を開き、三枚の原稿を差し出す)
「隊長の『外伝』に登場する人物たちの現場を描きつつ、『喫茶店』の空気感を借りた短編——『無名な人』と題しています。この作品で田中は確かに『そこにいた』ことになります。二つの物語の因縁が未来へ繋がる——という構造です」
三人が原稿に目を通す。
女将(読み終えて)
「……いい物語ね。あのカフェの窓際で、彼は何も感じなかった。でも、その『何もなかった』ことが、彼の執着になる——」
長老「確かに存在感はあるな。たとえ本編に出ていなくても、彼は確かに『そこにいた』。それが伝わる」
隊長「『外伝』の続きの章、ということか?」
雇い主「正確には『外伝』と『喫茶店』に同時投稿する。女将、よろしいか?」
女将(微笑む)
「それは素晴らしいアイデアね。私も急に忙しくなりそうだわ」
カノジョ(チロルチョコを口にしながら)
「ねえねえ、これで田中問題、解決?」
雇い主「うむ。皆さん、この方向でよろしいか?」
一同、うなずく。
長老「……よかろう。田中は『無名な人』として、我々の『計画』にも確かに存在する。それを認めよう」
隊長「実際、現場にはこういう奴が一番多い。名前は誰も覚えちゃいない。だが、一人欠けると現場は止まる」
長老「なるほど。『熱量』とは主役だけが持つものではない、か。うむ」(深く頷く)
女将「次回の御前会議で、正式に決議しましょう」
その時、カノジョがチロルチョコを一つ手に取り、長老に差し出した。
カノジョ「長老、これ食べる?チョコん中、ネッチョとしてるから入れ歯気をつけてね!」
長老「誰が入れ歯じゃ。(腹立てながらチョコを口に放り込む)……ぬぐ、ふむ……。むう、この粘り気、しつこく残るこの甘み……。
ん?ところで……何だ、そこに何とある?」
(事前作戦した手書きの手作りパッケージ)
【限定品『彼女の計画』×『喫茶店』コラボ】
長老(受け取って、しばらく見つめる)
「……この商品、どこに売っているんだ」
カノジョ「さあ? でも、ここで食べれるよ」
女将(笑いながら)「それが一番大事なことなのかもしれないわね。物語もチョコレートも——どんな形であれ、誰かの手に渡って、初めて意味を持つのよね」
カレシ(手帳を閉じて)
「非公式会談、終了。田中問題の解決案が固まりました。次回の御前会議で——田中問題と光莉の思想問題を一気に決着を図る」
窓の外では、夕日が沈みかけている。カフェあおいの窓際の席には、彼らの影が長く伸びていた。
監査役(どこからか、端末を手に)
「非公式会談を記録します。第6回創生会議(非公式)——田中問題の解決案として『無名な人』の同時投稿が提案される。長老・隊長・女将、了承。次回、本会議にて正式決議予定。
なお、本会議前に決議事項が固まるのは異例。カフェあおいが正式会議より強い場としての可能性については、引き続き調査を継続する」
「もう、生まれるよね?」
──会議後、甘い代償とプレッシャー──
LOG_045【チロルチョコ大作戦、その甘い代償】
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3034788/blogkey/3664612/




