【御前会議_01】 会議の前の小さな緊張
中継セクター。御前会議が始まる直前。
雇い主は珍しくスーツを着て立っていた。襟を何度も直す。顔は明らかに青い。
カノジョは壁際に座り、ラムネをポリポリ食べながら首を傾げた。
カノジョ「雇い主、これからなにが始まるの?」
雇い主「……『彼女の時空』の御前会議だ」
カノジョ「それって美味しいの?」
雇い主「…………カレシ君、頼む」
カレシ「簡単に言うと、雇い主が新作の構想を提案し、長老をはじめとする面々が『繋げてもいいかどうか』を審議する、ということです」
(画面に資料が浮かび上がる)
――新作『彼女の時空』の創生について――
プレゼンター:雇い主
議決者:
1.計画_長老(彼女の計画)
2.喫茶_女将(彼女の喫茶店)
3.外伝_隊長(彼女の計画外伝)
4.読者_博士(読者地図)
5.観測_青年(観測者の時空)
議事録:
6.インフレ_監査役
(彼女の、不可逆なインフレーション)
7.教室_学生(彼女の教室)
――――――――1頁―――――――
雇い主「うっ……腹が……、帰る」
カレシ「いえ、健康です」
カノジョ「うわ、すごっ。長老、重鎮だ。えっ、雇い主が議長じゃないの?」
雇い主「違う」
カノジョ「作者なのに?」
雇い主「それがな。ふー。
『事件は現場で起きてるんだ』とか
『君は読者の何を知っているんだね』とかな。
ふー」
カレシ「隊長と博士ですね。権限が現場へと移りましたね」
雇い主「あいつも生意気になりおって。私が生み出したのに、何が『最近の小説のトレンド、観測しましょうか』だ」
カノジョ「それ分かるー。青年でしょ!いま、私出てるから」
雇い主「この前も通りすがりに『長老の熱量に引っ張られないでくださいよ』とか釘さしおって辛味噌がー」
カノジョ「言いそうー」
雇い主「その点、女将は唯一の安らぎだよ。コーヒーが旨いんだな、これが。ん?うっ、突発性の高熱か?」
カレシ(手帳から顔を上げて)
「平熱です。雇い主、いよいよです。『彼女の時空』の御前会議。二人で応援しています!」
カノジョ「御前会議ってお弁当でるの?なんとか御膳みたいな」
雇い主「……無論。幕の内弁当だ」
カノジョ「やったー!」
雇い主は深く息を吸い、スーツの襟を直す。そして、時空の狭間の扉を見つめた。その先には、円卓が待っている。
雇い主「……行くか。……その前にトイレだ」
(ブツブツ、ブツブツ。小声が漏れる)
カレシ「…………30分経ちました」
カノジョ「まだ出てこないね」
カレシ「雇い主、さすがに出てきてください」
それから更に10分経過。
彼は意を決して歩き出した。
カノジョとカレシはその後ろ姿を見送る。
カノジョ(壁際から)
「ねえ、カレシ。あの空席、誰もいないよね?」
カレシ(手帳を開いて)
「そのはずです」
カノジョ「でもさ——」
(間)
「なんで誰も座ってないって分かるの?」
——会議は、これから始まる。
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