僕の彼女の友達の想い
僕は律子さんの言う通りに、彼女を乗せ再度、自宅へと戻った。
そして、部屋の中のクローゼットから喪服を一着取り出した。
何となくではあるけれど、まだ線香の臭いがしているような気がした。
クローゼットの中にはジャケットやスーツ、コートなどが数着ずつ掛っている。
中には中古屋で買ったのも含まれているが、ほとんどは新品で買ったものだ。
ちなみに、全て自分で買ったものばかり。
決して裕福な生活をしているわけではないが、友達、特に同級生には負けたくないという強い想いがあり、あくせく働いて買ったのだ。
でも、一着だけ、楓に買ってもらったコートがある。
黒のロングコートだ。
僕はそれらをじっと見ていると、律子さんがしびれを切らしたのか車から出て来て僕のクローゼットの中を同じように覗いてきた。
「わぁ。結構、持ってるじゃない。あ!この黒のコート。楓に買ってもらったやつでしょ?」
「そ、そうだよ。よく知ってるね」
僕は若干、どぎまぎしていると、
「楓ね。あなたの話しをよくしてたわよ~。二人で飲んでた時も呆れるくらいの自慢話ばかり!」
「そ、そうなんだ。ちなみに何て?」
「あ。そろそろ行きましょ。遅くなると悪いから」
と、言いながらそそくさと車に戻って行った。
話をはぐらかしたな、と思いながらも悪い気はしない。
楓の言った事だから、憎いわけがない。
僕はクローゼットの扉を閉めて喪服に着替えた。
それから車に戻ると、律子さんはまた喋り出した。
「あなたと楓ってほんと仲が良かったわよねぇ~。こっちが妬いちゃうくらいにさ」
「そうなんだ、そんなふうに思っていたんだね」
「そうよ。でも、なんでかな。こう思うのは」
運転をしながら、なに?と言うと、
「怒らないで聞いてよ」
「だから、なに?」
「あなたには楓より私の方が似合っていたんじゃないかな?と思ってね」
それを聞いて僕は驚いた。
「な…何でそんなこと言うの?」
「そう思ってたから、そう言っただけだよ」
僕は返す言葉に詰まってしまった。
そして、こうも思った。
律子さん、もしかして…。いやいや、そんなことはない。あるはずがない!
僕は自分の思いを打ち消した。
何だか気まずいような気分だけれど、あえて気にしないようにしよう、と思った。
楓の実家まではあと、三十分くらいで着く。
律子さんに意味深な事を言われ動揺したが何とか堪えた。
スマホの時計を見ると既に十二時三十分を過ぎていた。
一時までには着く予定が、と思うと少し焦ったのでアクセルを深く踏み込んだ。