~彼の覚悟、私の覚悟~
何だろう、この白いの‥
ぼんやりした目線が定まると、ようやくそれがウサちゃんの背中だとわかる。
辺りは真っ暗で時計を見ると三時を少し回ったところ。そっか、いつのまにか寝ちゃったんだ。
‥でもさっきの出来事は夢じゃない。
そっと唇に触れて見る。
‥キス
‥されちゃった
初めてのキスはあまりに突然過ぎて、何も考える余裕がなかったわ。キスは甘いって聞いてたけど、ひどい話ね。ファーストキスはドーナツの香りがしたなんて‥
ウサちゃんを抱きしめ、ベッドに身を起こす。まどろみから覚めると、とりとめのない考えが次々に浮かんできた。
‥どうして、神山君はキスしたんだろう?
あの時の彼は真剣そのものだった。遊びや冗談のつもりじゃないことはわかる。
‥じゃあ、私のことを好きだから?
それならなぜ、あんな驚いた顔をしたんだろう。考えれば考えるほどわからなくなってくるわ。
‥何より、私は彼にキスされてどう思っているの?
いきなりで驚いたのもあるけれど‥、うん、正直怖かったんだと思う。
恋って好きになることの延長じゃないのね。こんな切ない気持になるなんて、思いもしなかったわ‥
私は‥
‥‥‥
‥神山君が好き。
一緒にお話して楽しかったし、もっと一緒にいたい。彼のことをもっと知りたいし、もっと仲良くなりたい。
でも、友達同士の好きとは違う。恋人同士の好きになれば、キスしたり、‥セックスしたりもするのよね。
キスされた時、神山君をずっと身近に感じた。彼に見つめられると、心が見透かされたようでドキドキしたけど、キスも一緒。単に身体の一部が触れ合うんじゃなく、心と心が触れ合うの。それはとても素晴らしいことだけど、同時にとても怖いこと。
だって、それって自分の心の中に他人を受け入れるってことだもん!
私の中では神山君のまだ知らない部分が多いし、何より男性を受け入れるのって怖いよ‥
でも、それを恐れたのは、私に覚悟が足りなかったからだと思う。お互いの気持ちを確かめあって、受け入れて、共に進む覚悟をしてなかったの。
神山君も、その覚悟がまだなかったんだと思う。私の気持ちを確かめずに、先に進もうとしたのに気付いたから、あんなに慌てたのかも。
‥考えて見れば、私達ってまだ知りあって一日しか経ってないのよね。きっと決断の時が急すぎて、気持ちが追いついてないんだわ。
だから私は選ばなきゃいけない。彼を受け入れて、一緒に新たな道を進むか。それとも彼を拒絶して、自分を守るか。
‥なんだかいっぺんに大人になった気分。恋ってすごい。
「ねぇ、ウサちゃん、貴方は幸運の白ウサギ?」
神山君と引きあわせてくれたぬいぐるみは、私の手の中で相変わらず黙ったまま。いいわ、この先の運命は自分で選ぶから。
まんじりともできないまま夜が明け、登校した私を待っていたのは一通の手紙。下駄箱の中に入っていた神山君からの手紙には短く一行。
「会いたい、昼休み、屋上で」
‥うん、私も会いたい。
四限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、本当は立ち入り禁止になってる屋上へと向かう。
校舎から抜け出ると、澄み切った青空が広がっていた。
いい天気ね。穏やかな春の陽気、優しい風、鳥の鳴き声‥
屋上のフェンス越しに遠くの山々を眺めながら、私は彼を待つ。
ほら、階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。
扉を開ける音、荒い息を整えて、近づいてくる彼の気配。少し離れたところで止まり、私を呼ぶ緊張した声。
「‥春木さん」
彼も眠れなかったのかな。振り返ると、少し疲れの覗く顔が、真剣な面持ちで見つめていた。
「ねぇ、神山君‥」
‥不思議ね、昨日の今頃は彼の顔を見てまともにしゃべれなかったのに、今は落ち着いている。
「‥どうして、私にキスしたの?」
彼は、何かとてつもなく大きな罪を犯した罪人のように、顔をしかめて見せる。でも大きく息を吐くと、私の目をしっかり見つめ直す。迷いのないまっすぐな瞳、私が恋した真摯な瞳‥
「君が好きだ!」
じんと胸が熱くなる。良かった、彼も同じ気持ちでいてくれて‥
「駅のホームで、天使が落ちてきたと思った。それから君のことしか考えられない」
‥私だって、あなたのことしか考えられなかったのよ。
「あのまま別れたくなかった。どうしても気持ちを伝えたかった。でも、いきなりキスをしたのはゴメン‥」
そう、彼も覚悟を決めてくれたのね。不器用だけど、精いっぱいの誠意を込めて告白してくれた。もう、それで十分よ。
‥今度は、私が覚悟を見せる番。
そして、私はありったけの勇気を振り絞る。
彼との距離をゼロにするまで後三歩、二歩、一歩‥
そっと彼の顔に手を伸ばし、愛情込めて唇を重ね合わせる。
‥キスってやっぱり凄い。どうか私の気持ちを受け取ってね。
私の誠意は伝わったかな。短い抱擁から身を離し、驚いた顔の彼に心からの笑顔を向ける。
「えへへ、これでおあいこだよ」
「‥春木さん」
「私も大好き、だから、これからもよろしくね‥誠二君」
返事の代わりに、彼はぎゅっと抱きしめてくれた。痛いくらいぎゅ~っと。そして、私達は今度こそお互いの愛情を込めてキスを交わした。
未来のことはわからないけど、昨日までと同じじゃないのは確かだわ。でも、彼と一緒なら怖くない、きっと素敵な日々を送っていける。
二人手をとって階下に戻りながら、私は青空を振り返ってこう思う。
恋に天気予報なんていらないわ。だって明日もきっと晴れだもん♪
もうちょっと長い話にしても良かったかな~‥なんて思いつつ読み返してみると、前作「訳ありデートは恋の始まり」と似通ちゃってる部分も多いのよね~(・o・;)アセアセ
今度は大学生を主人公にしたお話で書いてみようかしらん☆(o^-')b
nameless権兵衛 兵藤詩織




