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05-1 大地が生まれたとき

12/27 05話1-3をまとめました

 結局あのあと、黒い影にとりつかれた光喜くんは病院で念のため検査してもらったけれど身体的には大丈夫ということで普通に生活している。

 獣化した俊夫くんはひどい筋肉痛で動けないということで1日検査入院して家で3日間安静にさせられた。

 都合がいいことに二人ともその時の記憶は飛んでいた。だからこうなった原因は山に遊びに行って木に登って誤って落ちた?ということになっている。というか俺がそういう風に竜王せんせいに嘘を言った。

 もう獣人のクロに聞いて嘘はばれてると思うけど…



 あれから2週間。

 実家に帰っているママの出産予定日がそろそろなんだ。

 パパは大津の実家から帰った日曜の夜からそわそわしてる。正直あんまりかまってもらってない。この間の日曜日から5日も朝の散歩に連れてってくれないし。

 町の犬たちの情報も入ってこないし毎日のリズもの一つが無くなってどうも調子が悪い。

 パパも最近残業ばかりで忙しいし…でもママとの約束で俺一人で街に行くわけにもいかないし…。


 すでにひとつ、ママの知らないところで騒動を起こしているからもう約束なんて無いようなもんだけど…見られてないしそれはそれで俺的にはOKということにしている。

 ただ…町に出るとご近所さんに見られているので告げ口されると言い訳ができない。

 まあ、こないだみたいに緊急で竜王せんせいのとこに走っていったりはしてるんだけど、それは仕方ないということで なんとか容認してもらってる。


 いつもの散歩コースはママやパパにリードしてもらわないと小型犬の俺は見づらいらしくて、車の両も多くてすごく危ない目にあってるからどうしてもじゃないと行かない。特に8号線の横なんか怖くて怖くて…


 そのせいで最近イライラしているようで、山に行くと俺の周りに若い奴がちっとも寄ってこない。のんびりしてるとそんなことないんだけど、俺のテリトリーに入ってこようとした動物をいつの間にか睨んでたり、突然唸り声をあげて威嚇したりして、無意識に俺に近づくなオーラ全開を出している。

 昨日も様子を見かねた俺の舎弟になりつつある灰色の北海道犬っぽいギンが俺に気分をなだめてくれと頼みに来たぐらい。


 自覚してるから山の中も駆けることが出来ない。

 なんだか暴れたい…


 そんな気分の中、今日は昼の3時頃から業者さんが機械の入れ替えがあるからついていなきゃいけない。竜王せんせいと一緒に山の主のクロに代わって入れ替えた機械の使い方を聞かなきゃいけないからだ。


 クロがいくら日本語を喋れるといっても、専門用語がいっぱいあってそれを聞くだけで理解する頭を持っていない。一応野良だし大型犬だからいたら業者さんも怖がる。

 だから業者さんに聞いた使い方を伝えるのが今日の俺のここでの仕事。

でも業者さんはつないで操作の仕方は教えてくれるけど俺が業者さんに直接喋れないので竜王せんせいを介して聞かなきゃいけないんだけど、俺も専門用語には詳しくないし、せんせいと業者さんの会話についていけないとこがいっぱいある。

 まぁ…ほとんどメンテナンスとかの話なので犬の俺には出来ないから関係ないんだけど。


 設置してから1時間、大体の疑問点も聞いたので竜王せんせい達は山を下りていった。

 そしてそのあと、クロに操作を教えて覚えこませるのに3時間。

 今回は合言葉をやめてボタンの押し方、リズムで解除する方法に変えたんだけど、簡単なリズムなのになかなか覚えてくれない。どうも変則リズムが難しいみたい。

 俺は家で小さい時からテレビなんか音楽を聞いてるから意識してリズムの変化についていけるんだけど、クロは意識して切り替えすることが出来ないらしい。

 さらにイライラしながら、クロの体にしっかり覚えさすまで付き合ってたらいつの間にかあたりは暗くなってた。


 家に帰ってきたら夜の8時をまわっていた。なのに家の電気がついていない。

 パパまた残業かな?

 そう思って犬用の出入り口をくぐって家の中に入っていくと、暗い中電話がピカピカと光っている。留守電が入っているみたいなので聞いてみると…


 ”ブラウン、ごめん。家に帰ってもいなかったから大津のママの実家に行っちゃったよ。赤ちゃんが生まれそうなんでひょっとしたら帰れないかもしれない。なんかあったら連絡してね…”


 1時間前に連絡が入っていた。

 また明日も散歩なしかとガッカリしたけどシャワー浴びて寝床につくとなんだかドキドキして眠れない。


 俺に弟ができるんだ…


 一気に溜まっていたイライラが吹き飛んで何ともいい難い幸せな気分に包まれていた。


---


もうすぐお前の依り代が現れる…


それの心に入り込め…


10数えて同じ時を過ごし…


絆を刷り込み待てばいい…


闇が目覚めるその日まで…


ーーー


いつの間にか俺は寝ていたのか外は明るくなっていた。

変な夢を見た…様な気がする。

寝起きは悪くないけれど…思い出せそうで思い出せない。なんか…イライラする!


今日は土曜日だというのにパパはまだ帰ってきた形跡がない。と、いうことは…


”やったよ!生まれたよ!男の子だって。元気な猿みたいな子だよ!生まれたのが夜中だったから帰れなかったんだ。ごめん…”


留守電にパパの喜びの声と謝罪が入っていた。

男の子…弟かぁ。赤ちゃんが生まれたってだけで尻尾がかってにぶんぶんと振れる。体が勝手にホカホカと暖かくなってじっとしてられない。

うーん、早く見てみたい。


俺は犬だから病院に行けないので、見れるのはママが退院したあとだから、早くても1週間後…

あー早く見たい!


で、丁度生まれたのが土曜日ということで、パパのほうの両親家族が大津へやってくることになった。

福井からやってくるので車で病院に直行して、日帰り…のはずだったんだけど、大津に泊まると言い出して今日明日休みのパパはまた帰ってこれなくなった。


そんな中、ようやくパパが気をまわしてくれたのか、ママに言われたのかわからないけど次の日から朝の散歩ができるようになった。

竜王せんせい経由で光喜くんが連れて行ってくれるようにしてくれた。

一応この間、助けたということになっているので、光喜くんにとってはそのお礼という位置づけのようだ。


散歩としては遅めの朝の8時から、竜王せんせいに伝えていた通り街中を中心に俺がリードしながら…光喜くんを散歩させている状態になった。

車が来そうになったら側道に勝手に避けるし、交通ルールも…光喜くんよりも知ってるんじゃないかな?

他の散歩中の犬たちも俺を見ると尻尾振って寄ってくるけど吠えて威嚇されるようなことはほとんどない。俺がわかれ道でリードを引っ張ってやればそれについてくる。

光喜くんの散歩での唯一の役割は俺が車に轢かれないように目印になってもらっている。それだけで10倍も安心して街を散歩できるのはとってもありがたい。


あとは本当にあの事を覚えていないのか?それが気になって犬語で吠えてみたけど??みたいな顔をしているとこを見ると本当に覚えていないようだ。

それ以上は打ち切り。俺が喋って不意に思い出させてもいけないから喋らないけど。


まあ…言葉が通じなくても時々止まって尻尾振って光喜くんの方を見たりなんかして触らせてあげると喜ぶし、できるだけ俺の気分をわかりやすく尻尾で表現してあげてるのでこれぐらいの付き合いならコミュニケーションは言葉がなくても簡単に取れる。


で、初日だから2時間かけてゆっくりした散歩が終わリかけたとき光喜くんがこの間の引っ掻いたような傷が治らないって俺に見せてくれた。

痛くはないらしいけれど、そんなに深くない2本の筋が右腕の肘のあたりにあるのを見せてもらった。

なんかやな予感がするなぁ…って深く考えなくてもいっか。



赤ちゃんが生まれて1週間。

ようやくママが退院して大津の実家に帰ってきたので、やっと、やっと俺も会うことがでできる日が来た。

ビデオでは何回か見たけれどやっぱり生がいい。


俺の弟の名前は「大地」で今のところママ似だそうだ。

今日、明日は森の仕事は最近覚えたばかりのギンに代行してもらってお休みして朝からパパの車で大津まで出かけることになった。

光喜くんとの散歩が終わって、車の助手席に付けたチャイルドシートに固定してもらって朝の9時頃出発した。


名神高速を使って約45分、大津のママの実家に到着した。


「ぶーちゃん、久しぶりね。元気してた?」

『こんにちは、ばーちゃん。ねぇ、早く大地が見たいよ!抱っこして。』

「まぁ、そんなに尻尾振らなくても。ぶーちゃん甘えん坊なんだから。」


ばーちゃんとじいちゃんがお出迎えしてくれた。

ちなみにぶーちゃんはここの家族たちが俺につけた愛称で、それを聞いたら俺は甘えん坊モードに切り替わる。ばーちゃん犬好きで、俺を一番可愛がってくれる。

初孫の大地が生まれても変らなさそうだからもうしばらくこうして接してもいいかも。


ちなみにママの実家ではこんな感じだけど、パパの実家に行ったら俺はただの犬として行動する。

月何回かやってくるばーちゃんにはとっくにばれたけど、年に1回しか行かないパパのじーちゃんとこでは喋るきっかけがつかめなかった。

だから迷惑にならないようにおとなしい犬を演じてる。


ばーちゃんに足を拭いてもらってまずはお風呂でシャワーしてきれいにしてもらってる。赤ちゃんの前では清潔にしてないと病気になったら困るからってことで脚の指の隙間から耳の裏まで今日は特に念入りに洗われる。

あとはしっかりと被毛をドライヤーと綿棒で乾かして、ブラッシングされる。

ばーちゃん、がっつりしなくてもいいから、早く大地に会わせてよ。


ようやくシャワーから解放されてママと久しぶりのご対面となった。

大地を抱いてあやしている。

しわくちゃな赤い顔が俺の方をじーっと見つめてくる。

おれもばーちゃんに抱かれているから同類と思われたんだろうか?

ああ、赤ちゃんて視力がないんだったっけ。


んー!かわいい。


赤ちゃんて泣いてばかりいるイメージだったからじっとしているとは思わなかったけど、仕草が可愛い。柔らかそうなほっぺにおちょぼ口がもにょもにょと動いて、鼻もぴくぴくするし、時々鼻水なんかながして…


『ねぇ、ばーちゃん、触ってもいい?』

「いいけど…ペシペシはだめよ、優しく触るのよ。」


ばーちゃんが大地に近づいてくれてほっぺを触った。

指が動いたら両頬をつねってうにーってやりたかったけど、人みたいに動かないからおさわりだけさせてもらった。


「アアッ、アアゥ」


当然だけど喋れない。

しつこくすると泣き出すので、優しく撫でる感じで感触を確かめた。

大地も俺の肉球が気持ち良かったのか笑ってるし。


ちょっとバタバタしてたので、今度は小さな手を触ってみようとしたら…


ふわー


手から俺に何かが流れてくるような、体の中にハーブか炭酸が入ってきたような感じで寒気を感じた。

それは一瞬で元に戻ったけど、びっくりして心臓がドキドキしてる。

大地も俺が急に脚を引いたから握ってた腕が引っ張られてびっくりして泣いてしまった。

ママ、ごめんなさい…



そしてその日の夜、みんながのんびりと飲みながら話をしている中、俺は何だかそわそわしていた。

やな感じ…なんだか知らないけど、いつもなにかあるときは感じる第六感みたいなのがいつもよりはっきりと感じる。

外もなんだか騒がしいし…

いいや、知らない土地だから何があっても関係ないし…

そう思って大人しくばーちゃんが用意してくれた寝床で横になって寝ようと思ったけど…気になって寝れない。


まだ夜の8時だし…寝るのは早いかな…


いつの間にか俺は外に出ていた。

知らない神社の敷地みたいなところにいた。


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