10-4 狼男再び
あいつ、狼男に会いに行ったな。
前回、あいつが出てくる前にそわそわするって言ってたし、今回も同じようなもんを感じてたに違いない。俺に言ったら止められると思って言わなかったな?
それで今回はどうしても会いたいからって、あいつが出て来そうな山の中に入っていったのか。
そんなチカラを感じられるのなら行くとこはひとつしかないない。いつも俺が昼寝をしに行く所。
そうとわかれば匂いなんか関係なくなった。目的地まで一直線に行けるんだけど、
『ねえ、大地?シロップの居場所がわかったんだけど。』
「うそ!どこ、どこにいるの?」
『この山の中、たぶん昼間やまぶき達がいる所の近くにいるはず、何だけど…こんな暗い山に危なくて二人とも連れて行けないんだけどなぁ。』
「山?確かに暗いよね。危ないかもしれないけどライト持ってるし、いつもの場所ならそんなに危険なとこないし、この山危険な生物居ないんでしょ?じゃあ大丈夫じゃない?」
『ダメ!今入ったら危険だし、かなちゃんが慣れてない。それにもう10時過ぎてるし帰らないとママに怒られるよ。』
「でも…」
『ダメったらダメ!ちゃんと夜中に探しておいてあげるから、かなちゃんと一緒に帰った方がいい。』
「それはそうだけど…そう言ってみるよ。」
大地がかなちゃんにそのことを話してくれたら、納得はしてなかったみたいだけど大人しく帰ってくれるようだった。
何だろう?妙に素直だなぁ。かなちゃんに今の会話聞こえてたのかな?
俺が知らないだけで結構みんなに喋るってばれてるのかな?
まあいいや、ついてこないなら探しやすいし。
で、大地達が帰っていくのを確認して山に入ってみた。
月が出ていないので明かりがほとんどない山の中を、LEDをつけながら草木の強い匂いの中に薄く乗ってるシロップの匂いを探しながら山の奥へとは歩いている。
方向は多分あってるし、たぶんまっすぐいつもの場所に向かってるんだろう。
でもよくこんなに進めたなぁ。普通ならこんなとこ暗くて行かないぞ?
そんなにあいつを見たいのかなぁ、そりゃ犬としては強いのに憧れるってのは分らないでもないけど、あいつ狼…獣人なんだぞ。種別は全くちがうのになぁ。
って考えてたらなんかまたそわそわしてきた。なんだろこの気分、変な感じ。
いつもの場所に近づいてくるほどシロップの匂いが濃くなっていく。
よし、こっちに向かってるなら危ないとこも少ないし、慎重に移動できたら怪我もしないだろうと、少しほっとした瞬間、前の草むらでガサガサと音がした。
風になびいているのと違う、不自然な動きと音。
向こうに誰かいる!
匂いも大きくなってきたし、シロップがこの辺で歩みを止めたのかもしれない。
けっこう大きく揺れたので俺のLEDに反応して見に来たのか?
そう思ってそっちへ向かおうとしたら、なにかが草むらから俺の体の上を飛び越えて俺の背後で立ち止まった。
立ち止まった?まさか。
と思って振り向いてみると…
「よお、こんなんとこに居たんか?」
LEDに照らされて銀色っぽく光った物体…あの狼男がそこにいた。
『なんだ、また来たのか?』
「ああ、もう少しはましになったのか?」
『ましって…俺がお前に勝てるわけないだろ?』
「なんだ今日はノリが悪いやん。せっかく遊びに来てやったのに。」
『こっちは迷惑だって!お前のせいで一匹の犬がお前を探しに山の中に迷い込んだんだぞ!』
「へぇ、かわった犬だな。」
『お前の遠吠えがカッコ良かったって…なんでこんなこと言わなきゃダメなんだ?あほらしい。」
「へぇ、確かに俺が吠えたらいっぱい返事帰ってきたしな。」
『遠吠えは返事じゃないって。』
「そうなんか?俺は犬語なんかわからんし、他の犬なんか別に興味ないし。」
『俺はその犬を明日の朝までに探さないとダメなの。だからお前の相手は出来ないの!』
「ふーん、じゃあ俺が連れてきたら相手するんか?」
『ああ、すぐ連れてきたら相手でもしてやる。』
「俺の遠吠えが気にいったんやったな。じゃあ、呼んでやるよ。」
そう言って狼男は大きく息を吸って上を向くと、大きく遠吠えをした。
”ウォーー"
普通何かしら意味を持つのに、犬の言葉がわからないって言ってた通り何の意味も持たないただ吠えてるだけの音があたりに反響する。
俺は垂れ耳じゃないから耳がふさげないので至近距離でのこの音量は耳の中がじりじりする。
三度ぐらい長い遠吠えが終わると付近は一瞬、無音のように静かになった。
あの声だと街の方にも聞えてるはずだから今頃近所迷惑の犬達の習性の合唱が展開されているんだろう。
野良たちの中にも返事を返そうと吠える声が聞こえる。
こうなったら他の動物に迷惑がかかってしまう。まあ、明日にでもクロには責任を取ってもらおう。
「どうだ?俺の遠吠えは。」
『あのなぁ…意味のない遠吠えしたら普通犬は警戒して吠え返すんだよ!そんなおっきな吠え方したら長いことおさまらん奴もいるってのわかってから吠えてくれよ。』
「俺はシロップを呼んだつもりで呼んだんやけどな。」
『だから言葉になってないって…ってなんで俺が探してる犬がシロップって知ってんだ?』
「あ…お、俺は耳もいいんや。ほら、ここに来るまでぶつぶつ言ってたやろ?」
そうかなぁ、独り言なんか言ったかなぁ。
「それより、何かこっちに来るで?足音が聞える。」
え、あ、そう言われてもわからん。
「ほら、あっちから走って来るで。」
あいつが指を指したほうからようやく俺も何かの足音を感じた。
そして草むらからバサッと出てきたのはあいつの言ったとおりシロップだった。




