10-2 新築祝い
あれからまた一か月が過ぎた。
7月の梅雨に入ってじめじめししはじめた頃、抜け毛がやっと落ち着いて、新しい毛が生えそろってきた。
この時期、あんまり好きじゃないんだよなぁ。
湿気が多くなって熱くなるし、雨が多いから山に行ったら、いつのまにか体中が泥だらけになってしまう。
そして、抜け毛が多いからシャワーを浴びると外から帰った時に取り損ねた泥と一緒に排水溝に詰まったりするから気を使う。
抜け毛といえば、この時期みんなに意味もなく身体を撫でられえることが増える。短い毛が新しくなって手触りがよくなったということらしい。
10歳になっても毛並みはいい方らしく、はげもなく健康に過ごしている。
背中をなでられる件も何回もやられたけどなんともないから気にするのをやめた。
今日はまた夕方から父親会をするので近所の家に連れてってもらうから、今日は大地にシャンプーしてもらっている。
最期のブラッシングも最後に残ってる抜け毛を取ってもらいながら丁寧にしてもらった。
引っかかる被毛も少なくなったし、大丈夫とわかればやっぱり背中のブラッシングは気持ちがいい。
で、そのままバスタオルに包まれて、あつーい温風で一気に水分を飛ばしてもらって風呂からあがると、入ってすぐに家を汚さないように、あまりはき慣れていない犬用の靴をはかせてもらってパパと一緒に今日の会場へ向かった。
今日の会場は新築祝いを兼ねているらしく、玄関を上がると木の匂い…より、のりとか接着剤の臭いのほうがきつい。ちょっとツライかも…
そのまま脚の爪で床を傷つけないように、家から持ってきた上履きに履き替えてフローリングの上を滑らないようにゆっくり歩く。
でもその横をここの子供たちが俺を見つけてどどどと走ってきていきなりはぐという名の突進をされて上履きが吹き飛んだ。
痛いって!
手加減してくれよ…こっちは我慢してるんだから。
そんな中で、今日の父親会が始まった。
大きなリビングでパパ達が飲み食べしている間、いつもどおり子供達の相手をしてる。
けど、そわそわして居心地が悪い、っていうかなんか調子が悪い。
どうも新築の臭いがきつくて…なんか酸っぱい匂いがダメ。
動きまわらないと触りまくられるのわかってるけど、なんか新鮮な空気が入ってくる換気口の近くから動きたくない。
時間がたつたびにそわそわと変な感じが大きくなる。やっぱり新築はダメだぁ…ってなんかそんな俺を見て、パパが気を利かせてくれて子供たちから放してくれて、ござをもらって庭に出ていつの間にか来たおっちゃんと看病してくれた。
しばらく新鮮な空気を吸って気分はだいぶ良くなったとこで、おっちゃんが心配しててくれていた子供たちを連れて来てくれた。
おっちゃんが酒臭かったのがちょっと気になったけど、俺が食べれそうな物と浅めの皿に入った薄めた焼酎を持ってきてくれたのでちょっとずつ飲み食べして、お返しに頭を出して撫でさせてあげたら子供たちは喜んでくれた。
相変わらずそわそわしてるけど、ちょっと酔ってきたし元気が出てきたから、本格的に遊んであげようかななんて思ってたら…
「ねぇ、ブラウン。かなちゃんとこのシロップが家から出ってっちゃったんだって。悪いんだけど一緒に探してほしいんだけど。」
家にいるはずの大地がかなちゃんを玄関に待たせて、俺の目の前にやってきた。




