08-1 7年の時が過ぎて
俺はついに7歳になってしまった。
そろそろ衰えが始まるって雑誌なんかに書いてあったから毎日がドキドキの生活を送っている。
大地たちは5歳になった。
近所の幼稚園でも同じ部屋で、いつもどおり皆の母親に連れられて徹以外の4人で通っている。徹だけがひとつ上なので俺達がいる山のふもとの小学校に通ってる。
俺の生活も少し変った。
朝の散歩から大地の担当になって、俺の面倒を毎日見るようになった。寝床も一緒の部屋だから昼間の幼稚園に行っているとき以外はほとんど一緒に過ごすようになった。
山にいる時間ももう俺がすることはなくなった。相変わらずやまぶきは俺に近寄ってくるけど子供も出来てほかにもいろいろと仕事があるので接する時間が減った。
まあ、その子供たちが俺の周りで遊んだりするので子守をしにいってる気分だったりする。
で、最近分かったことだけど俺、お酒が飲めるらしい。
犬はアルコールは分解できないってせんせいに言われてたんだけど…
パパが酔っぱらって俺に焼酎の水割りなんか飲ませるから、あのほわーんとした間隔が気持ちよくって、大地が寝たころにパパが帰ってきたら近寄って焼酎とかウイスキーとかわけてもらう。
ちなみにビールは炭酸がきついからだめだった。
そしてここ最近、大地は急激に成長してきた。大地の内面も外面もが少しづつしっかりしてきて、俺が時々戸惑うことが多くなった。
特に集中力が伸びたのか、俺やみんなのちょっとした癖をよく見つけるのが特技になった。
3か月前、初めて森に来た時に、警戒して木の裏で隠れて様子をうか上がっていたギン達を遠くから見つけることが出来たのには驚いた。
あそこがちょっと動いたとか、枯葉の散乱の仕方がおかしいとかちょっとした変化を敏感に感じられるようだ。
それに関連してるのか俺、思考が単純なのか知らないけどたまにしぐさだけで俺の考えていることが分かることがあるらしい。
俺も表情を見てなんとなくはわかることはあるけど、ズバッと言い当てられるとなんか凹む。
こんな感じでまだ幼い大地に時とともに精神部分はいずれ追いつき追い越されていくんだろう。なんだかさみしい…
で、今日は大地達と森の方へ向かっている。
大地たちも飛んだり跳ねたり走ったり、木によじ登ったり出来るようになって、遊び場も近所の公園から範囲が広がって5人でたまに俺の仕事場まで来ることがある。
変なことに巻き込みたくなかったから、なるべく大地が家にいるときは行かなかったのに、徹だけが下校時間が違うのを忘れていて、たまたま昼にせんせいのとこから森に向かったところを見かけたらしく、そのまま俺についてきて…
結界が張ってあるから意識しなかったらめったに近づくことはない場所だったのに…その次の土曜日にみんなでぞろぞろ森にやってきて大変だった。
さすがに毎日来ると他の生き物が怯えて森が荒れるので何度も交渉した結果、月に一回程度、ここのみんなには俺が全責任を負うということで連れていく。
特殊な場所なので長居されるとまずいので1日いれる土日はダメ。
平日の幼稚園や小学校が終わってからという約束で他の動物たちに許可してもらった。
その中でやまぶきが熱心に説得にかかってくれた。大地が来ると聞いて、特にやまぶきが喜ぶからだ。
事の初めはやまぶきが大地の監視官としてやってきたのに、俺のせいで魂を子犬に吸収された時、元の獣人に戻って帰った時に報告出来るように毎日、大地の出来事を簡単に教えていた。
いろんな話をしたからなんだろうけど、大地に親近感を覚えたようで、たまに俺の家に来ると大地に顔を見せにわざわざ吠えてアピールする。
そして大地が出てくると、ちょっと前の俺にしてきたみたいに尻尾を振って好意をもって犬として接している。
他にもギンは遥に気に入られたようで、まだ遥より大きな体に持たれるようにして頑張って背中をなでられる。
最初は触られるのを嫌がっていたけど、今では喜んで近寄っていくようになった。
徹と奏太はあまり俺達のところに好んでは寄ってこない。やまぶき達が寄っていくと撫でたり遊んだりしてくれるので嫌いではないみたいだけど。
多加美っちは…みんなに嫌われている。
いたずらがはげしくて困っている。
滞在時間が二時間ほどしかいられないんだけどみんなが楽しみにしているからあっという間に時間は過ぎていく。
そして俺が責任をもってみんなを薄暗くなった安全な道へ誘導しながら山を降りていく。気をつけないと単独行動をしたがる多加美っちがはぐれるから徹が後ろにくっついてもらってそうならないように監視してもらっている。
そんなこをしていても多加美っちはいつの間にかいなくなった…
「わりぃ…多加美っちを見失った。俺、探してくるわ。」
後ろにいた徹に声をかけられて初めて全員気がついた。
なんで後ろで監視してても居なくなるかなぁ…なんて別行動するのが好きな子なんだろう。
多加美っちが迷った、さあ…どうしたもんか。匂いを頼ったら今なら追っかけれられるけど、もう暗くなってきたからなぁ…
大地達を帰して俺と体力のある徹とで探しに行こうかと思ったら今度は大地が森の中に引き返して行こうとする。
『だ、駄目!大地は大人しく帰ってママに遅くなるって言ってくれないと二人とも怒れれるから…な、俺と徹で探すから今日は我慢して、ね。』
「えー、でもしょうがないか。ママのが怖いし…」
そう言って大人しく大地たち三人は帰っていった。もうちょっとで森を抜けるから俺がいなくても大丈夫でしょう。
ああやって役割を与えてやらないと小さい子はなかなか言うこと聞いてくれないから難しいなあ…
大地達が去ったのを確認して、先に行った徹を追いかけながら匂いをかぎ分けてみる。
常時訓練なんかしてないから生木や草がたくさん生えているので匂いが分散されてよくわからない。
所々でそれらしいものが入っているのでたぶんこっちであってる、そんな感じで先へ進んでいくと徹にやっと追いついた。
「たぶんこっちやと思うんやけどなぁ。」
草をかき分け、左右を確認しながら前進しようとしている。
何かあてがあるのか徹はどんどん前に進んでいく。
『徹?そんなにどんどんあてもなく進んで行ったら迷子になるぜ。』
「おわっ!ブラウンか!びっくりした。」
俺にびっくりした徹が振り向きざまに草むらに転倒してかすかに嗅げるぐらいの遥の匂いが散乱してしまった。
『あ、遥の匂いがふっとんだ!』
「あ、わりぃ。そんなつもりなかったんやけど…。でもやっぱり匂いはこっちでおおてるんか。」
『徹って匂い嗅げるの?』
「ああ…なんとなく、な。あいつ今日おねしょしたみたいで洗ってないのかなんかしょんべん臭さかったし。ブラウンみたいにはっきりわかるわけやないけど…この辺であっちへ行ったっぽいんやけど…」
そう言って右側を指さす。
俺、ここで匂い見失いかけてんだけど…もしかして俺より鼻が利くのか?
今、この状態じゃよくわからないけど、犬のくせにとか言われたらムカつくし…と思っていたら風の流れが変わって徹の指をさしたほうから多加美っちの匂いが流れてきた。確かにそう言えば小便臭いような…
徹もわかったらしく風の流れの方へ何の疑いもなく歩きだした
『ねえねえ、なんで匂いが分かるの?』
「ん?わかんねぇ。小学校に入った頃から頃からなんか急に分かるようになってん。」
『それってかぎ分けられるの?いまこのあたりに草木のいろんな匂いが混ざってんだけど…』
「ほかがどんなんか知らんけど、匂いに集中した少しらわかるぐらい。草木の匂いははっきりしてるけど多加美っちの匂いは細くて…あっちに向かって縦につながってるって感じ」
うん、ちゃんと嗅げてるし…
徹を後ろから追いかけていて、俺は何のために一緒にいるのかよくわからなくなってきた。
結構奥まで来たような気がする。というか遠回りしてさっきいた場所に少しづつ近づいている、そんな感じ。
背の高い草や木に邪魔されて視界では確認できないが、多加美っちとの距離も近づいてだんだん匂いがはっきりしてくると、もうひとつ違う匂いが…
徹が迷いもなく草木をかき分けてその先に多加美っちを見つけた。
そしてそのまま黙って後ろからはがいじめにして逃げるのを防止するために動けなくする。そして騒がないように口も一緒にふさぐ。
多加美っちはもがいているけど徹の力には勝てないようで諦めて大人しくなった。
「なんで勝手にこんなとこに来たんだ?」
「んんーあれー、んんんんあれ見て!」
口を押さえられているからロクに喋れない多加美っちは前の方を指さしながらバタバタしだした。
いったい何があるのか覗いてみたら…
獣人のクロがいた。俺が創った方じゃないほうの、犬のクロに憑依した姿でなにかを探すようにきょろきょろしている。
俺はともかく、徹や多加美っちがみている前で、気づいていないのか獣人のクロが何かを探している?
見つけたの多加美っちだよな?
何でこの子はこういう変わったことにかかわるのが好きなんだろう?
だからトラブルメーカーみたいになっちゃうのわかんないのかなぁ?
それはそうと、この場面はいいのかなぁ。
獣人というものが人間に見つかるというのはまずいとは思うけど、二人ともがっつりと見てしまった。
生で見られると俺もどうしようもない。
徹が何とか多加美っちを押さえてるから騒がないだけで、どう見ても珍しいものを見たととりみだしている。
「騒ぐなよ…いいな。」
小声で多加美っちにささやいて体をギュッと抑え、無理やり首を縦に振らす。
それを見て徹は体の拘束を解くのだけど、大きく息を吸って喋ろうとしたので多加美っちを睨んだら、大人しくなった。
その動きでようやく気付いたのかクロは俺達の方を向いて少しまわりを確認した後、こっちへ寄ってくる。
「やあ、久しぶり。徹にブラウン…にそこの女の子は友達か?みつかった、まあいい。ボク、クロ。はじめまして。」
「きゃぁ、でっかい犬!ブラウン以外にも喋る犬いるんだ。」
いつもと控えめのトーンで多加美っちがクロを興味ありげに見ている。
触りたいのか全身がうずうずしているのに徹が睨んでいるので我慢している。
クロも見つかったことに特に表情も変えず、平然とあいさつするあたり問題はないとみていいのか?よくわからん。
「クロ!なにしに来た!」
「ん?主浩かずひろに会いに来た?今家にいる?」
「なんだよ!久々に親父が帰ってきたと思ったらこういうことかよ!親父を迎えにきたなら帰ってくれ!」
「まあ、そんなに怒らない。今日はまだ行かない。」
なんだ?徹とクロは知り合いなのか?なんで?
徹があんまりいい顔していないのが気になるけど…なんかあったのかな?
クロって基本的に夜に来ることが多いから、おもに昼にしかいない俺とは年に何回かしか会わないから詳しくは知らない。
ちゃんと聞けば主のクロが答えてくれるんだろうけどそこまで興味もないし、深入りもあまりしたくなかった。
俺や森で何かあったらやまぶきが報告してくれるからその時にちらっと何かしてると聞いたけど、特に何もいざこざもないので気にしてなかった。
それより大分暗くなってきた。多加美っちを家に帰してあげないと真っ暗になっちゃうぜ。
「それよりさ、ブラウン。やまぶきもだけど、ギンのこと何故報告しなかった?」
『へ?報告?』
「流れ狼のこと。この間竜王せんせいにちらっと聞いた。ボク、一生懸命探していた、こんな身近にいた。知らなかった。竜王も黙ってた、どうしてだ?」
あ、あれ?せんせいには言ったはずだから伝わってたと思ってた。
俺はそんなこと頼んでないし…あ、やまぶきか。なんかまずいことがあるのか?
それは気になるけど今は…
「とりあえず徹、森から出ようよ。多加美っちを家に帰さなきゃいけないし、早く降りないと真っ暗になっちまうぜ。」
話の続きは気になるけれど、多加美っちもいるしクロとはひとまず別れて帰ることにした。
そのあとクロは徹の家に行ったみたいだけど…何を話していたんだろう。
だいぶ遅れて家に帰ると、もうパパが帰ってきていて大地が一生懸命今日森へ行った話をしている。
大地が大人しく帰ってくれたからクロには会ってないはずだし…余計な心配はしなくても大丈夫そうだ。
それより徹関係で何か厄介なことに大地が巻き込まれないか、心配になってきた。
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