07-4 大地の高熱と引き換えに
奴の手のひらから青い影のようなものがゆらゆらとわき出てくる。
もしかして…あれはさっきの狐に憑依していた闇?
狐のほうから俺の方にゆらゆらと煙のように近づいてくる…
そして俺を取り巻いて少しづつ俺の闇と接触する。
体が熱い…
体全体をそれに囲まれ、俺を吸収しようとするが、何かが反発して俺の周りをぐるぐると回る…
…俺の、流れ狼…
残った怨念のようなものが聞える。
それは呪いのように何回も響く。
…俺の、ギン…
俺はその問いに反論するように頭の中に響かせる。
俺と青い影の思いが接着剤となって俺の中にはいてくる。
ぐるぐると俺にまとわりながら俺に溶け込もうとしてくる。
それを拒否…出来ない。思いの一部がつながって一つの思いが重なって…
…ギンは俺の物…
溶け込んだ影とのギンへの執着心と俺のギンへの思いが混ざっていく。
それに反応して二つのギンへの思いが俺の闇と融合して思考が変化していく。
…ギンを支配する…
闇が俺に手順を理解させていく。
それとともに俺の邪魔な思考が消えて…単純になっていく。
俺は何者なんだ?
なんでこんなことができる?
でも…そんなことはドウデモイイ
今ハ、俺ハ、コイツヲ、支配シテ、組織二、戻ル、
---ぶーちゃん?---
!?
誰ダ!?
---どうしたの?ブラウン。なんでぼーっとしているの?---
人ノ声?
大地なのか…?
ナゼ俺二話シカケラレル!
---わかんない、あたまいたくなって、ねつがでて…きがついたらなにかおーきなものがでてきたりぶつかったりしてるのがきになってどうなってるのかなーっておもったらぶーちゃんがみえたんだよ。---
…
---そろそろ戻ろうよ、そのかげをたくさんとりこんだらもどれなくなるよ---
…俺ハ…ギンヲ支配する…
---そんなことしなくても、ギンはぶーちゃんといつもいっしょだよ?---
俺は、さっき奪われかけた…
だから…そんなこと考えられないように俺だけのギンに…
俺の…思いドオリノ…生物二…俺の…モノニニツクリカエル…
---ぶーちゃん、それじゃギンはきえちゃうよ?。---
キエル?
---ほら、ブラウンのくろいのと、まわりのあおいのが、かんぜんにまざっちゃうと、ギンはぬりかえられちゃってきえちゃうよ---
ギン、オレノモノ…消エナイ…
---それじゃこまるんんじゃない?---
俺ハ…困ラナイ。
ギンガ
---なんのためにいっしょうけんめいたすけたの?---
俺ノギン…他ノモノ二、操ラレルノガ、ナニモデキナイノガ、クヤシカッタ…
オレノマエカラ…居ナクナルのが…嫌だった…
だから…ギンヲ俺ノ元へ…
---じゃあ、ちゃんとたすけてあげようよ。ぶーちゃん---
タスケル?
---もとにもどす。それでギンはたすかるんだ---
タスケナドイラン、
---ぶーちゃん!---
ナンダ…ソノ名前ハ…言うなって言っただろ!
言っていいのはばーちゃんだけだ!
---ああ、よかった。まだもとにはもどれそうだね---
元二…戻ル?
俺ハ…何を…しようとしている?
ギンを…支配スル…何で!?…
支配シテ…力ヲ…手に…入レル…
---うーん、あおいかげがじゃましているんだね---
邪魔?
ソレモ俺ノ一部
違う…俺はそんなの…いらない…
---ぼくがあおいかげをはなしてあげるから---
ナンダ?コノ柔ラカナ、俺ヲ包ムモノハ
かすかな…俺の…意識の中で…
大地に…抱かれてる…様な…やわらかな…
温かい…そしてやさしい感触が
俺を段々引き戻してくれる。
そして言葉どおり青い影がゆっくりと俺から引き離されると、不思議と大地の声で大人しくなっていく。
そして俺の暴走した闇が消えていく。
大地にそんな力があったのか?
なんて、体がだるくてそんなこと今はどうでもいいや…
---あとはおとなしくあのきいろいいぬにまかせればだいじょうぶ---
そうか…俺が邪魔しなければやまぶきがうまくやってくれるのか…
---あとはおちついておとなしくぼくといっしょにねようよ。そうしたらたぶんかいけつするとおもうよ。ぼくもねつがだいぶさがってきたみたいだし…もうもどらないと…---
ああ…なんか俺も疲れた。たまには一緒に寝るのもいいかな…
聞きなれた心地よい声に導かれて俺は眠く…眠い…
ふわふわと黒い所から明るいところへ体が流れていって…
何かに俺の顔を舐められた感触で目を覚ました。
ゆっくり目を覚ますと目の前にギンの顔がどんと占領していた。
体も元に戻ったようでいつもの見慣れた灰色と黒いの体が見える。
「気がツイタ、ようデスネ。」
やまぶきが俺の後ろで一緒に倒れている狐の尻尾の鈴を外している。
『ギンは戻ったのか?』
”俺、大丈夫、途中、暴れた、でも、人間、女の子、俺を、押さえてた”
「そうデス、最後に一瞬暴れたのでびっくりしましたケド、クロさんにもう一度協力していただきマシタ。改竄の鈴が取れればあっという間に戻りマシタヨ。たぶんもう心配ナイと思われマス。でも…」
やまぶきの後ろではクロが警備員のようにじっと立って俺の意識が戻るのを待っていた。正直頼みごとが終われば基本じっとしているのでやまぶきはどうしていいのか分らなくて困っている姿が見えた。
あ、そうか。俺が方法を教えないと元に戻れないのか…
まあ…それより狐の処理を先にしてもらわないと。
また暴れだしたら全員でたたみかけないと大変だからな。
時間をかけてようやく尻尾から鈴を取っ払ってみると呪いが解けたように手が縮み、脚が縮み、青い毛が黄色くもとに出会った姿へと戻っていった。
”あいつ、呪、解けた?”
クロがぼそっとつぶやくと、狐は尻尾の根元についていた鈴が無くなったのを確認するように軽くなった尻尾を振りながら体を丸める。
ただの狐に戻って皆の警戒が解けて、やまぶきが大きくため息をしながら地面に座り込んだ。
”君?帰る、腕環、使う、出来る?”
”無理、腕環、あいつの、ボク、無理”
どうも狐自体では帰ることはできないようなのでこの近辺で住んでもらわないといけないようだ。
狐かぁ…
俺等とは一緒には暮らせないよなぁ…
まあ、やまぶきは何とか面倒を見てくれるらしいけど、基本種族が違うから一人ぼっちは辛いかな。
”俺、腕環、使える、見て、覚えた”
クロが意外な提案を言ってきた。どこで覚えたんだ?
そう言って腕輪を受け取ると、右腕の指先でぐるぐると回すと、腕環がピザのように広がって、中から黒い空間が出てきた。
クロは狐を呼んで体をよじ登らせて腕に乗っかるようにしがみつく。
狐に前いたところのイメージをするようにさせると、自然に黒い空間は下がり、クロ達を飲み込んでいく。
”こいつ、送る、また、戻る”
そう言い残してこの場から消えていった。
「とりあえず…狐の方は解決?したみたいデスネ。ところで、何でスカ?あの獣人ハ?それも人間が強制的に獣化したみたいデスケド…」
『いやぁ…なんていうか、これが俺の力ってことで納得してもらえたらいいんだけど…』
そんな言葉ではやまぶきは納得しないだろうし。でも俺もどう説明したらいいかわからない。
そう言えばギンは一回見てた…かな?
隠してもしょうがないのでやまぶきに俺の中の闇が勝手に暴走したこと、以前もこんなことがあったことを説明した。
「まあ、ボクを犬にして頂いたことを考えるとこんなことが出来ると言われたら納得するしかないんデスケド…似たような事象が本に書いてあったような記憶がアリマス。何の話かよく覚えてマセンガ。」
とりあえず無理やり納得してもらったようで、深くは突っ込んんで来なかった。これで今日の事件は解決したけれど…あとはクロの処理だな。
前回、たしか獣人のクロに教えてもらったのは首の後ろのたてがみを何本か抜いてやれば戻るんだっけ?
無事に帰ってきたクロに戻るように命令すると、今回は大人しく従うといわれたので正直ほっとした。
人間一人行方不明になったら世間が大変だから…
獣化が解ければ俊夫くんの記憶は戻ることは前回で証明されている。ただ今日のことが記憶に残るかどうかはわからないけど。
どうも部活中に来たらしいから後処理が大変そうだけど、それは終わってから考えるとして…
俺の脚では掴むことができないからやまぶきにやってもらうことにした。
たてがみをかき分けて探している。
クロもくすぐったがっているけど一生懸命我慢している。でもなかなか終わらないので我慢できずにもぞもぞしはじめた。
やまぶきも動かれると作業ができないのか一旦手を止めて、困ったような顔をして俺の方を見た。
「そんな抜いても良さそうな糸のようなものナンテ見当たりまセンヨ?」
やまぶきは一生懸命たてがみをかき分けながら俺に言う。
たてがみが長すぎて、俺が言う紐みたいなものとは見分けがつかないらしい。
適当に何本か抜いてみるが、単に抜けるだけで変身は解けない。
あれからいろいろ探してみたけれど見当たらない。
そろそろ日が沈む。今日は家に帰れないかも…ママにまた怒られると思ったとき、クロに変化が起こった。
体がぴくっと動きだしたかと思うと、少しづつ大きくなっていく。
ギシギシという音とともに、クロは体全体を丸めて何かに耐えようと必死になる。
それに伴って、体中の被毛の間隔が伸びて、地毛が見えるように膨れていくと、腰、胸、二の腕、ふくらはぎの部分からそれが破れ初めて、下にある徹くんの来ていた体操服が見え隠れしてきた。
食いしばった口があごの方に吸収されると、口のまわりから毛皮に穴が開いて、皮膚があらわになっていく。耳が頭の上からこめかみの方にゆっくり移動すると、背中の被毛が布ごとはじけて、短い髪が見えてくる。
全身に残ったものは体が大きくなるにつれ、体からはじけて、頭周りの布がずるっとずれるように落ちて顔全体が見えると、つま先立ちをしていたからなのか、普通の体に戻って前かがみになって倒れた。
気を失っているようで、倒れてもぴくりとも動かない。
そして…最後に尻尾だけが残って…
『俊夫くん!』
俺の呼びかけに答えるように、尻尾を大きく縦に振って、体に吸収された。
どうやら戻ったようだ。何で?
『あ、そう言えばあいつ時間でも戻れるって言ってたようなこと言ってた!』
「というコトハ、クロが現れてカラ、大体4時間ぐらいデスカネ。それよりもこの方をどうシマス?せんせいに相談してミマス?どう言い訳シマス?」
結局、せんせいに相談して救急車を用意してもらって病院に…
理由は…考えられなかったのでそこに倒れていたということにしてもらった。
俊夫くんが部活中に突然消えて、地元の山の中で倒れていた。
部活と同じ恰好で、外傷がなく、ひどい筋肉痛
まして本人にその時の記憶が混乱していてよく分かっていない。
一時期誘拐事件として扱われ、地元も山の中もしばらく騒然とした。
そんなことはさておいて、だいぶ遅くなって帰った俺は、ママにひどく怒られた。
山の方に警察が来ているのも近所の人たちに聞いていたので、何かしたのと追及された。
とりあえず、この騒動が俺達が原因とは口が裂けても言えなかったので、俊夫くんが倒れていたからせんせいの所へ行って助けを求めたことだけしか言わなかった。
1時間ほど怒られたあと、シャワーを浴びて部屋に戻ると、大地が気持ちよく寝ていた。
もう熱は下がったみたいで、水枕とかはなくなっていた。
『俺を止めてくれてありがとう』
あれが本当に大地の声だったのかはわからない。でもとりあえずあの声がなかったら俺はここにいなかったかもしれない。
大地といると独特の柔らかな居心地に浸れる。そのことに感謝しながら俺の寝床へ入って目を閉じた。
朝は大地がまだ病み上がりだったので、ママに散歩に連れて行ってもらった。
やっぱりまだ山の方は警察でいっぱい…今日はたぶん行けないよな。
昼間は…山から降りてきた犬の姿のやまぶきと一緒に、せんせいのとこへ行って昨日の事情説明。
ある程度やまぶきと口裏を合わせて、俺の力のこと、俊夫くんの獣化のことは無かったことにすること。
俊夫くんがあそこに来たのは、相手の狐獣人が人質にするために呼んだこと。
ギンが流れ狼に変身したことは…言っておいた方がいいかもしれない。
あとはやまぶきがばれてはヤバいことがあればそのつど俺に合図を入れるということを決めて、話に入った。
せんせいも力を奪いに来た存在には驚いたようで、鉱石の並べすぎで余計な力が漏れていることに重点を置いて調べることになった。
森に置いてある機械は今は電源が切ってあるけど、代わりに回復したギンがいるから森の結界は今は大丈夫。
応急処置と言うことでやまぶきに空の鉱石を4つ持たせて、力がある鉱石を一つにして入れ替えて持って帰るように頼んできた。
今、山は警察がうろうろしているのでせんせいは近づけない。
昨日も夜中、警察に事情を聞かれたらしい…
第一発見者が怪しいって思ってる人も世の中にはいるそうで…アリバイはきっちりとあるけれど、協力者と言う可能性も…って冗談半分に言ってた。
機械の交換はほとぼりが冷めいてからということになった。
ちなみに検査入院しているクロは昨日のその時間は…ゲージの中でぐっすりと気持ち良さそうに寝ていたらしい…
昼からは大地と一緒に公園へ散歩…って今日は何故か俺をぐいぐいと引っ張って寄り道をしたがる。
いつも公園に行く時に俺がわざと間違おうとしていた交差点を逆の方に俺を引っ張って、そのまままっすぐ行くように俺を誘導する。
こっちは街の方に行くし、遠回りになるからあまり行ったことないんだけどと思いながら進んでみると、小さな川の河川敷にたどり着いた。
このあたりの堤防はまだ盛り土のようなものがなく、適当に草が生え揃って手入れされていないなだらかな丘のような場所で、日も当たるし夏の暑いときじゃなければいい寝床になりそうなところだった。
「きのうぶらうんがゆめにでてきたとことそっくりだったんだ。」
突然何のことかわからないことを言ってる。そう思ったけど、ふと思いかえすと昨日、大地に呼びかけられたと子と似ているような気もしないでもない。
ちなみに大地は森に入ったことは一度もない。
『何か覚えているのか?』
「あんまり。ゆめのなかでね、はるかちゃんとぼくがね、あるいてたらね、ぶらうんとね、とっておーおきな、いぬがいたんだ。そこがなんかこんなばしょだったからね、いつもぶらうんが、ここにきてるのかな?なんておもったの。」
そうか…昨日の声は大地の中では夢の中の出来事なんだな。
ギンの言ってた人間の女の子って遥ちゃんのことなのか?
そう言えば大地と同じで高熱で寝込んでいたって言ってたよな。何か関連があるのかもしれない。
でも、それだけでも結構覚えてるよな。どこまで覚えてるんだ?景色を覚えてるなんて…
あ、そうか。
俺がいつもいつも場所に行きたがってるのか?
森の中だし、まだちゃんと体力もついていない体であそこには行けないから何度もダメって言ってたからなぁ。
『場所は違うけど似てるかもしれないな。なんでそんなことがわかったんだ?』
「きのうのね、ゆめでね、それだけはっきりとおぼえてたの。あとは…よくわかんないや。だからね…」
『それより早く公園に行かないと、徹くんと多加美ちゃんが待ってるぞ。』
「あ、そうだった。ねつがさがったっていっておかないとね。」
また俺の行く場所へ行きたいとか言おうとしたので話をそらしてやった。
すると、また俺を引っ張って今度は公園に誘導しようとする。
『今日は珍しく積極的に誘導するんだな。』
「うん…なんかこうしないとね、ぶらうんがとおくへいっちゃいそうなきがしたの。」
中途半端に覚えているのかわからないが、昨日の件で大地はそう思ったんだろう。
ちょっと昨日の件を思い出しながら、今度は俺が公園まで大地が引っ張っていこうとするペースに合わせながら歩いてあげた。
大地が大きくなってもあんなとこには巻き込まないようにと思いながら…
公園に着くと、今日はいつものメンバーがそろって遅れた俺達を待っていた。
遥ちゃんも熱が下がったようで元気にみんなと遊べるようになっていた。
遥ちゃんも大地と同じ夢を見たらしい。
「わたしも見たよ。ブラウンと大きなねずみ色の犬がいて、わたしは犬のほうがくるしがってたから、そっちへいってだいてあげたの。そしたら、おとなしくなって…それぐらいしかおぼえてないかな?」
大地と遥ちゃんは同じ夢を見たって嬉しがってるけれど、どうも確実にあそこに2人の意識が来ていたことがわかった。
さっきは巻き込みたくないと思ったけれど、すでに巻き込んでいる。
この先のことを考えると嫌なことが頭に思い浮かんだ…
これから悪い方に向かわないといいんだけど…
次回更新は1/11 1時の予定です
よろしくお願いします。




