07-3 俺の闇の力と俺の獣
あけましておめでとうございます。
俺の中に黒い、闇のようなものが体に広がっていく…
その中に俺の感情が吸い込まれていく。
---闇ヲ感ジロ---
ギンを取り返せないという悔しさ…悔しい?
何で悔しい?…取り戻せないから?
なんで取り戻せない…俺が弱いから?
弱いと取り戻せない?
俺はアオを取り戻す…
アオは今は俺のもの、誰にも渡さない。
何が何でも、何を使ってでも渡さない!
俺の明確な欲望が大きくはじけて…広がった闇が固まっていく。
蒼い狐…あいつは俺からギンを奪った敵。
奴は絶対に許せない。
俺にいつもと違う力が流れてくる。
体にとらわれない大きな力が。
なんでやまぶきはギンを渡そうとする?
俺が動けないから?
あいつが考えている駒が足らないから?
動けなければどうする?
誰かを自在に操ればいい…
操り方は…なんとなくわかる。
誰を…俺は操れる?
ギン…あの鈴が邪魔だ
クロ…こんな時に検査入院中…でもあいつの主の力は俺では操れない
あとは…
---従者ヲ呼ベ---
従者…
俺の従者は やまぶきと、何かに封印されたようにぼやける影、そして…
俺の頭の中に…何かが浮かんでくる。
クロ…あの時獣化させた人間
奴なら一度操った。ここに呼ぶには丁度いい存在…
今、ここで必要なのは…やまぶきの手となり、今ここで戦力を均等にできるもの
どこにいる…八幡《はちまん》?…高校の…授業中か?
ここまで30Km、遠い…呼んでも来れるのか?
でも、そんなことは関係ない。
---従者を呼ベ---
俊夫くん…トシオ…ここに…来い!
頭の声に従い、人間の名を呼ぶ。
俺の従者…その原本となるものを強制的にここへ移動させる。
普段ならできるはずもないが、やり方は今分った。
体の闇を使えばギリギリ呼べるはず。
俺の中から沸く黒い力が俺の尻尾から大きく吐き出される。
テニスボールぐらいの大きさのものがゆっくりと渦を巻いて大きくなって、人の影の形を作って…
闇と入れ替わりに、中から体操着を着た俊夫くんが現れる。
突然呼ばれた俊夫くんは景色が変わったことに驚いて信じられんしと言ったふうに大きく体を動かしてあたりを確認している。
「な、なんや…ここ、部活してたとことちゃうやんか?」
---オレノ従者---
この声は俺…
そうだ、こいつは俺の従者…
驚いている所で悪いが…キミには役割がある。
俊夫の周りには俺の尻尾の毛が舞っている。すでに体液の付着は完成しているのは感覚でわかる。それでは変わってもらおう、獣人の姿に…
『我が従者、トシオ!クロへ獣化しこの場を守れ!』
「 犬が喋った!って、お前ブラウンか?なんで…うぇへ!」
うるさい!今はお前と話す暇はない。サッサと獣化させるために毛を布に変え、口を覆ってやる。
鼻の頭をくり抜かれた布を頬と付着させ、なじませる。トシオ驚いては口周りを大きく開け閉めさている。
ちょうどそれが肌と布を密着する役割を果たし、口元は白い毛に覆われた。
唇まで覆われた口が獣のような物に変わると、マズルを前に伸ばし、顎まわりまで一気に白い被毛におおわれる。
鼻の頭を黒く染めると、目の周りに黒い被毛が生えるように布を張り付け、顔を獣の毛によって占領させる。
「なにぃぐあ…おこっつえていうるぅうんどぅあ」
舌が薄く長く伸びて人語が喋りにくくなったか。この前よりうまく獣化出来ている。
獣毛が目を耳を額を覆うと目を引っ張らせ耳を上にあげさせ、三角の白と黒の耳に整えさせた。
獣毛と一体化させた髪を俺の好みに長めのタテガミのように変えさせ、背中から腰あたりまでを18になってがっしりとした体格に成長した体を包み込むようにしてそれを隠してやる。
肩と腰から下に黒の、手足の指先からは白の獣毛をまとわせると人間の面影はなくなっていく。
…それにしても結構体がでかい…
180オ-バ-のがたいでは小回りが利きにくく扱いにくい。
あとは獣として扱いやすいように体を7割に収縮させ、肉体の密度を上げて全体の能力を上げてやる。
ギシギシという音とともに、全身の筋肉が収縮しながら緊張して獣毛が逆立つ。
「うぁあぁガァ!いてぇええエエ!」
低かった声が奇声をあげながら少しづつ高く、体相応の少年のような物になった…そろそろ肉体は完成したようだ。
仕上げに闇の力で仕立てた影をまとわせた首輪を装着させる。
それを吸収させると、影を体に循環させ暴走させるように仕向けた。
体の中で暴走が始まると、あいつの心に変化を促す。俺の物になるように。
そして見た目でわからない心の変化が完了すれば尻尾を生やすように命令する。
体の中で暴れる影を両手で頭を押さえ、歯を食いしばり、体を大きく震わしながら抑えようと必死になる。
目を白黒させて大きく体をのけぞらせ、両手で頭をギュッと抑えるようにして、俺の支配から逃れようとしている。
「何がぬゎんどぅか・・・うゎかぁらぅぁねぇェェ!”
影に強制的に記憶を書き換えられて次第に言葉が犬語になっていく。
まだ暴れる心が大きく頭を左右に揺らして変化に抵抗する。
”クロ!”
俺が名前を読んでやると、少しづつ抵抗していた力が抜けていく。
体の震えが止まり、頭を押さえていた手をゆっくりと離す。
そして目を開き、まだ焦点の合わない不安げな瞳で俺の方を見た。
「俺は…クロ?”
何か不安そうにそうつぶやいたので俺は縦にうなずいてやる。
おれの答えを見て自分の記憶に整理がついたのか、ばらついた視線が安定していく。
目が黒く、大きく輝き、体を動かせば獣毛がしなやかに動きについてくる。
口元は呼吸するたびきれいに生え揃った犬歯が口の隙間から見え隠れする。
黒い肉球がついた手のひらを太い指でギュッと握り、脚はつま先でバランスを取りながら膝周で体をしっかりと支える。
そして最後にするっと伸びる長めの細い尾が生える。
黒をベースに白いアクセントの獣毛をもった秋田犬、3年前とはまた違った姿の獣人が俺の前にいる。
”狐、ブラウンの、敵、排除する、”
状況は理解しているようだ。
俺は大きく頷くと、クロは奴に向かって俺の前から離れていった。
それと同時に俺の中にあった闇が一気に放出されたせいで気を失いかけた…
とりあえずあとはやまぶきに任せる。闇が少し回復するまで…
---やまぶき、そいつを、クロを使って狐をやれ!---
やまぶきが突然現れた犬の獣人と俺の闇の声に驚きながら、状況を…誰が敵味方かを確認するためにクロを捕まえて話している。
ここからは俺の代理を任されたやまぶきがクロを使うことになる。
狐とギンも何が起こったかわからないのか、驚いて体が固まっていた。狐はせっかく逃げるために作った黒い穴を失効させている。
それとは対照的に先に我に帰ったギンがクロが動いたことに反応する。
クロが狐に飛びかかると当然ギンが中に割って入り、盾になる。
クロが先制パンチを送るが、ただのパンチではアオの体はびくともしない。
そのお返しに、体を反転させてその勢いとともに腕を引き裂こうと噛みついて来たので、あわてて腕を引っ込めながら後ろへ下がる。
後ろではやまぶきがクロの援護を試みようとしているか、二人が接近しすぎているので間に入るタイミングが計れない。狐の方を意識しても、うまい具合に二人の後ろに隠れるように移動するので下手に動くこともできない。
トシオが変身したクロと狼に変身したアオは…アオの方が筋力があり体格ががっしりして四脚で踏ん張ることができるので武器を持っていない単純に力勝負のクロはあきらかに不利だ。
ただ、ギンはクロだけではなく、やまぶきの動きを牽制しながら…狐の方に行かないように場所をコントロールしながら闘っているので、互角というかギンの方が必死になっているように見える。
「今のアオさんはそこの狐を守るからそこから大きく離れられマセン。いったん離れて少し話をシマショウ。」
そんな中、俺が指示をしなくてもやまぶきは何が起こったかを悟ったようで、的確にクロに提案する。
それに大人しく従い、少し後ろに下がってやまぶきの話を背中で聞きながらギンを目で威嚇、牽制する。
「人語は…理解できるんデスネ?」
”ああ、解る、話せる、犬語、難しい”
「…じゃあなんで人語で喋らないんでスカ?」
”犬、喋る、おかしい”
あの時と全く同じことを言っている。
ちょっと呆れた顔をしながらやまぶきは説明を続ける。
「ギンさんの首輪を切ってください。そうすれば拘束は解けて大人しくなります。無理なら最悪動きを止めて下サイ。狐は…たぶんほっといても大丈夫です。隙ができればボクが何とかします。」
”ギン、首、切る、わかった”
「ちょっと待って下さい…”首輪、切る”です。訳し方が間違ってマスヨ。」
”すまん、理解、した。俺、ギン、動き、止める、お前、狐、捕まえる”
犬語で吠えて確認するとクロは改めてギンへと向かっていった。
クロは爪を立てて、ギンの首輪を狙う。
ギンはそれを避け、体に爪が刺さるように受け止めた。首をまわして体に刺さった爪が抜けにくくなるように筋肉で押さえながら鋭い歯を使ってクロの腕を噛み砕こうとする。
それをクロは力づくで抜き取り、いったん距離をとる。
血が出ていないから表面だけで止まったのか?
クロが爪を気にしながらもう一度腕と足を使っでアオの動きを止めようと接近するがなかなか有効なダメージは与えられていないようだ。
アオも噛みつきでは動きが大きく、避けられて傷さえつけられないのでそれを囮にして大きな体を利用して体当たりが多くなってきた。
クロの力がギンにかなわないと分かると、手を使って体を拘束しようと作戦を変更したようだ。
いくら重くて破壊力がある体でも、体を拘束してしまえば後はやまぶきに任せる。そんな思いも重い体で突撃されると軽いクロは小さく吹き飛ばされ、思うように手を使えない。
なかなか有効な一撃が出ないまま一進一退の攻防が行われている中、やまぶきは何かブツブツと長い呪文のようなものを呟いている。
なかなか隙が出来ないので作戦を変更したようだ。
やまぶきの幻術は犬の姿になってから効果が出るのに時間がかかると本人が言っていた。
何をしでかすのかは知らんが術は狐の方にかけるつもりらしい。ギンには幻術が効かないからだ。
練習で付き合ってもらっていた時、ギンだけが効かなかったので首をかしげていたがまさかこんな怪物みたいな血が流れてたのなら今となったらわからないでもない。
やまぶきがつぶやきをやめると、狐の方に動きがあった。
なにか…耳を傾けたりぺったんと倒したりして何かを気にしている。
手を動かしたり、顔をそむけけてみたり…まるで蚊か何かが狐の周りを飛んでいるようなそんなしぐさに見える。
次第に狐はその場所から大きく動くようになって、攻守のバランスが少しづつ動いていく。
ギンが勝手に動きだした狐を気にする回数が増えたからだ。それに…受けたダメージが蓄積され始めて動きが鈍くなってきたようにも見える。
もともとさっきの黒い穴に入ってサヨナラのはずが、俺が作り出したクロの強制乱入で場をかき乱されて、さらに2対1でほぼ互角でやり合っているのだから時間がかかればかかるほどギンが不利になるのは当然。
それにあの狐…後ろに隠れているだけで、あいつからは何もしてこないのがギンにさらに負担になって…
ようやくクロがギンの攻撃の要、口周りを抑え込む。
ギンがもがいている間に…俺の残り少しの闇の力を使って、もともと俺のものだったクロの手の被毛から糸を作り、マズルが覆えるだけのマスクを作り出し、それをクロにはめさせた。
手が使えないギンはも首を大きく振ってそれを抜こうとするが、マスクの裏地に獣毛が来るように作ったのでギンの獣毛と絡まるから取れない。
あとはクロがそれに気を取られた隙にギンの体を力づくで持ち上げ、動きを封じてあっさりと決着はついた。
その間にやまぶきは逃げようとする狐の獣人に飛びかかる。
体を拘束し、機械から取り出した鉱石を一つ取り出し、狐の額に押し込んでやると、奴の体の中で力が暴走してそれに耐えられなくなって意識を失った。狐の獣人はまるで芯が無くなった人形のように地面に倒れこんでいる。
それとは反対にその大きな力に反応して、ギンの抵抗が強くなる。クロの腕の中で暴れるギンを徐々に縛り上げて、強制的に大人しくさようとするが抵抗は激しくなっていく。
「ギンさん…もう蒼は拘束しましたカラ、大人しくしまセンカ?」
”俺、蒼、指示、クロ、倒す、逆らう、ダメ、抵抗、やめる、出来ない”
やまぶきの言葉にもギンは変わらない。操り主の意思は改竄の鈴の中でまだ生きている。
”うるさい、黙れ!”
いらつくクロがさらにきつく締めあげると、それに耐えられなくなったギンも徐々に抵抗をやめ、体の力が徐々に抜けていく。
ギンが大人しくなったのを確認すると、やまぶきは、首回りに強引にまかれて絡まった改竄の鈴をつるした紐を時間をかけてほどいていく。
首の縛りが緩くなるほど、厳しい顔をしていたギンの表情が柔らかくなっていく。
その状況を見ながらほっとしながら一旦手を止めた。
「鈴の指示に逆らえなかっただけで…鈴を体から放してあげると解放できそうですデスネ。ギンさん?完全に洗脳されたわけじゃないんでスヨネ?」
”指示、無い、俺、やまぶき、抵抗、しない”
クロはやまぶきの言葉に大きく頷く。
「あとはこの鈴を首から外してやれば、ギンさんに影響することは無いみたいデスネ」
とりあえず、体は変わったがギンが俺の前からいなくなることは無くなった。あとは…
意識のなくなった狐の獣人をどうしてやろうか…
そう思ったとき、奴の手のひらがぴくりと動き始めた。
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