幕間 コン活のすゝめ(ほ)
妲己は彼の正体を始めから知っていたが、たった今気付いたかのように、わざとらしく彼にこう言った。
「あら、男の娘だったのね」
この歯の裏が嫌に痒くなるような妲己の反応は闇界の”とぼけ”文化といって、自分が既に知っていても「相手に言われるまで気づかなかった」すなわち幻術が成功したと見せかけ、相手の気分を良くしようとする、一種のおべっか行動である。他人の自慢話を一時間も聞かされたことはあるだろうか。私の近所で散歩をしていると、家族の自慢話に捕まったマダムたちが「すごいわあ」「へえ、ほんま?」と繰り返してこの災難を角を立てずに乗り越えている。ブラックホールから逃げる為に「腹痛」か「用事」を突発させる私に取っては、これを日常茶飯事に行う世の母親たちは尊敬に値する。少年は曇りない笑顔を向け、妲己に返事をした。
「効率良く課題をこなす為でした」そういって背中に回していた握り拳した右手を彼女に見えるように正面に持ってきた。それから得意気にフッと息を吹きかけて開くと、そこには小さな黒いもやが二つ乗っていた。妲己はこれに目を細めて、残りの三人を見ながら言った。
「あなたを思う人の念ね。他の子たちも取ってきたかしら」
妖狐、妖刀、妖瓶の三人はそれぞれ妲己に見えるよう、二つの黒いもやを取り出した。この黒いもやは百合子が見鬼の力を使い、憑依している人間にみえていたもやと同じものである。このもやは人の念であり、恨みや憎しみ、自分の思うようにしたいと云う欲は黒い色を持つ。妲己の出した課題は「”裏世界”に来るまでに二人の人間から自分に対する念、つまり黒いもやを回収すること」であった。雷獣の持つ二つの黒いもやは一つは彼に触れようとして火傷を負った男のもの、そしてもう一つは彼を見て目の奥に激しい痛みを覚えた男のものだった。彼は意図的に二人の人間が自分の元に来るよう、誘うような気配を見せ、自らの力でねじ伏せていたのだった。先ほど私は雷獣の能力について雷を操る能力を持つ、とだけ記したが、彼はただ落雷を起こすのではなく自身の能力を応用して人間に使っていたようである。
その前にエレクトロキネシスについて少々書かせて頂きたい。雷を操る能力をエレクトロキネシスという。自身から雷を発生させたり、元々存在する電気や電磁波を自在に操る能力を云う。他の元素を操る能力が存在する。例えば、水を操る能力をハイドロキネシス、炎を操る能力をパイロキネシス等と呼ぶ。これらは元々サイコキネシス、つまり念力が元となっている。”念力”または”念能力”とはエネルギーを使用し、ものに触れることなく何かを操作したり、ものから非言語情報を読み取ったりする能力のことである。つまり何を念力によって操るかでその呼称を変えている、というのである。美鈴達の住むこの世、つまり物質界に存在するあらゆる魂はエネルギーを持っている。感情の変化や生命活動によってエネルギーを吸収し、白色や黒色のもやとして放出させる。これを”気”または”念”と呼ぶ人もいる。このエネルギーの根源は元を辿れば創造神にして最高神である盤古なのだが、彼の話は難解で長くなる故、必要な時に補足させて頂きたい。特に本編では盤古の巫覡が登場する際に詳しく記す予定である。とはいえ、盤古の巫覡の一人である私は既に作品に登場している。
さて、あの世に存在する雷獣が現実に雷を発生させるには、二つの能力が必要である。一つは現状の知覚、物質界の情報を非物質界の存在である雷獣が把握することである。二つ目は能力の行使、自身を物質界で実体化させた上、念力で物質界の電気を操る。”非物質界と物質界に相互干渉する力”が必要なのである。このシリーズではこれを”基礎的能力”と呼ぶことにする。”基礎的能力”は盤古選定した存在に備わっている。盤古の選定基準は全く不明である。その崇高な思考をはるか下々に位置する人間が理解することは非常に難しい。巫覡に宇宙神、光神、闇神いずれの神々が憑いても能力を行使できるのは、この基礎的能力があるからである。出力の形によって”能力”は見鬼、霊触、念力等と呼ばれる。雷獣は”基礎的能力”と念力、そして派生能力であるエレクトロキネシスを持っていた。彼は一人目の男に火傷を負わせたといったが、これは彼の発する黒いもやに魅せられ、邪な気を起こした男が雷獣に接近した際、彼に気づかれぬように少年は男の肩に掛けられた鞄に手をあて、充電中のスマホに大量の電流を流し込んだことが原因である。これにより男のスマホは過充電による発火を引き起こし、鞄や服に引火した。少年に触れようとした利き手は鎮火の際に火傷を負ったのである。もう一人の雷獣に声をかけようとした男は、雷獣と目を合わせた際、視神経に電気信号を送られたことが原因である。通常、体が刺激を受けた際、電気信号が神経を通り脳に伝達することで、痛みを認識する。少年は男の目を覗くことで男の視神経に強い電気信号を発生させ、激痛を与えた。人間の体内に電流が走っていることを知っているのなら、彼が人を操る日も遠くないだろう。超自然的存在に不慣れな読者も居ると思うので、説明はここまでにする。おじさんの長話で閉口されるのは悲しい。
お読みいただきありがとうございました。
ノア先生の次回の更新をお待ちください。




