↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄よ、空に眠れ  作者: 木戸陣之助
広大な旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/28

第二十七話

「準備できた?」

「は、はい」


 いつもの旅より、ひと回り小さくなった荷物を背負い、振り返った。

 エウレルが両肩に架けた小ぶりな鞄の肩紐を掴みながら、ちょこんと立っている。口をきつく締めて、がちがちに緊張していた。


「あの、だいじょうぶ?」

「問題ありません!!」


 やたら大きな声で返された。しかも裏返ってるし。まあ、二人とはいえ、知らない世界に飛び込むから緊張もするよね。実際、わたしもエウレルほどではないにしろ緊張しているし。


「じゃあ、開けるね」


 そう言って、扉を開けた。

 本日は快晴。肌寒い空気を陽ざしがほんのりと照らす。昨晩は雪でも降ったのか、植物の葉の上で溶けかけの雪がキラキラと輝いていた。

 鳥のさえずりも、獣の鳴き声も聞こえる。静かすぎる、ということもない。


「まあ、安全でしょう」

「ですね。異様な気配は無いと思います」


 それに、今回は頼れる少年もいるわけだし。

 その矢先、


「では、この家に仕掛けを作るので少しお待ちください」

「ん?」

「昨日お伝えした隠ぺいですね。戻ったら無くなってた、はいやですし」


 そういうことか。

 お言葉に甘えて、お手並みを拝見。エウレルは家に向かって手をかざすと、


沈め(シンク)


 地鳴りのような音が鳴り始めた。内心ひやっとしていると、今度はエウレルの家がゆっくりと下に沈み始めた。地上から見えなくなるまですっぽり埋まってしまった。表面はぽっかりと穴が開いている。


覆い隠せ(カバー)


 続けて魔法を唱えると、今度は地面が伸び始め、空いた穴が見えなくなるまで埋めきってしまった。


「……凄いね。ひょっとして、魔法がお上手?」

「ちょっと、かじる程度ですが。でも、まあ、これで誰かに荷物が取られることはないでしょう」


 そりゃあ、そうなんだけど。

 かじる程度でこんなにハイレベルとか、ふつうに心折れちゃうよ。

 なんて落ち込んで心配させるわけにもいかないので、どうにか苦笑いでごまかした。


「これで、いつでも出発できます」


 気づけばエウレルからは緊張の様子が見られなくなっていた。やや寝不足みたいな野暮ったい目をしてるけど、それ以外はいたって普通という感じだ。

 順応が早いなあと感心しつつ、旅先へと目を向けた。


「目指すは、アクテリス。変更無いけど良い?」

「はい」

「じゃあ、出発と言いたいところなんだけど、その前に」


 そう言うと、エウレルはきょとんとした顔で首をかしげた。


「何かお忘れ物でも?」

「うん、とっても重要な忘れ物が残ってるよ」

「ええっ、それじゃあ取りにいかないと」

「いや、そういうことじゃなくてね」


 慌てて魔法を唱えようとするエウレルを止めて、答えを教えてあげる。


「"行ってきます"って言いましょう」

「いってきます……?」

「そ。家から外に出る時にはね、こうやってあいさつしていくの。そうすれば、待ってる人は安心するんだよ」


 わたしの答えに、エウレルは知らない言葉を聞いたような顔をした。

 ちょっぴり悲しいと思いつつ、怒りがこみ上げた。大人が教えてあげないでどうするんだ。が、ここは抑える。

 わたしが教えていけばいい。まだ、遅くない。


「じゃあ、行ってきます」


 そう言って、沈んだ家に頭を下げると、


「いってきます」


 エウレルも同じように、ぺこりと頭を下げた。


「じゃあ、行こっか」

「はい」


 おそらく一月くらいか。留まってきた街道だけど、歩いてみるとしみじみと来るものがある。初めて来た時は散策するのに夢中だったけど、こうして歩いてみると、慣れていたんだな。と実感する。

 それから歩を進めていくうちに、いつか見た更地が現れた。斜めに伸びた塔は頂上が欠け、建物によっては形が思い出せないくらいに完全に崩れてしまったものもあった。


「やっぱり、恐ろしい敵だったんだなあ」


 思い出すだけで震えそうになる。でも、こうやって吐き出さないといつまでも怖いままでいてしまう。そう思ってつぶやいたひとり言だった。


「……だいじょうぶです」

「ん?」

「だいじょうぶです。敵は全部、ぼくが倒すので」


 そう言って見せた少年は、いつになく凛々しく前を見据えていた。

 幼く見えても、やっぱり英雄なんだろうな。


「まあ、わたしもちゃんと強くなるけどね。多分、魔法教えてもらうかもだけど」


 ちょっとおどけて返してみたけど、内心頼もしかった。

 やっぱり隣に誰かがいるのは安心する。とはいえ、肝心な時に頼り切りなのは流石に大人として情けない、気を引き締めないと。

 目指すのはアクテリス。エウレルの話だと、ここからまた一月半はかかるという。途方もない道のりと感じつつ、それをつまらないものにしたくないと胸に秘めて、


「ありがとね」

「え?」

「なんでもないっ」


 隣に誰かがいることのありがたみを噛み締めながら、わたし達は街道を歩き続けたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。