俺達は卑怯だったぜ
「人質をとるとはなんと卑怯な!」
と村人が憤っている。
「あんなことして……許せないよ!」
アカリが強い口調で言うと、周りの村民が同意したように首を縦に振った。
『さあさあ。せっかく魔力を回復してもらったところ悪いが、村人に使ってあげるべきではないかね?さもなくばこやつらは血を失いすぎて死ぬることになろう』
そして高笑い。
「コルビンさん!俺じゃなく村人のみんなに回復魔法をかけてやってくれ!」
勇者ウェルテルウスは重傷にもかかわらず起き上がって叫ぶ。叫んだ後、痛むのかわき腹をさすっている。
「しかし……このバケモノ、勇者さんなしでどうやって倒せというんですか!」
その瞬間をコルビンは一生忘れられないだろう。勇者ウェルテルウスは右手を高く掲げた。親指を高々と立てながら。
「俺には秘策がある!」
「……どんな?」
アカリも心配そうに勇者を見つめている。
「俺を信じろ!」
その目は冗談や不安のない、真剣そのもののまなざしだった。アカリがコルビンを振り返る。コルビンは頷いて見せた。アカリも心を決めたようだ。
「僕は村人を優先します。常人にはわかりませんが勇者さんには秘策がある様子」
「……そうね……」
後ろめたい気持ちをぐっとこらえて、村人達が磔になっているところへ急いだ。
『まだ決められんのか?どっちも殺してしまうぞ』
高笑い。このボスは酷く笑い上戸らしい。その隙に磔のそばの建物へと入り身を隠した。ここならば声が通じる。
「皆さん元気ですか?」
「あ、コルビンさん!」
「どうしてここに?」
「今は説明している暇はありません。とにかく皆さんに回復魔法をかけます……回復、全体、その六!」
磔にされていた村人達がするりと地面に投げ出された。
『ふははははは!やはり何の役にも立たない村人を取ったか。これで貴様らの命運は尽きた』
「くっ」
『では早速貴様らの"勇者様"にトドメを刺させて貰おうか』
「コルビンさん!」
勇者が呼ぶ。
「俺のだけ足に、最大限の回復をかけてください!それで十分だ」
「何がしたいかよくわかりませんが、わかりました!」
「させるか!」
デーモンが3体目の前に急に現れた。アカリが悲鳴を上げる。村人達は恐れもせずコルビンのそばによってきた。
「ここはオラたちが何とかする。早く勇者さんのところへ!」
「すみません、皆さん!任せました!」
アカリの手を引き、一目散に駆け出した。振り向くと丁度農夫のクワが相手の脳天に命中したところだった。多少安心しながら勇者の近くに急ぐ。
「時間がない。早く!」
『んん~まだ何か企んどるのか?どうせ勇者ともども死ぬのに往生際の悪い奴らよのう』
「回復、脚にだけ、その八!!」
勇者が突然飛躍する。ボスは驚いた風もなかった。冷静に鋭い爪を一閃。勇者の胸を引き裂き、またもや鮮血がほとばしる。
「?!」
勇者はひるまない。さらにずんずんボスに近づいていく。
『く、何の真似だ!』
巨大な鉤爪を上から振り下ろす。勇者は剣で受けた。しかしそれも捨ててしまった。
「そんな……まさか」
アカリが泣き出す。コルビンは何がなんだかよくわからなかった。
『くそっ、離れろ!何をするか!』
勇者は素手で相手の懐に飛び込んだ。そのまま胴体を捉えて離さない。
『まさか……!貴様卑怯だぞ!』
「卑怯なのはお互い様さ」
「!やめてください勇者さん!」
コルビンにもわかった。勇者ウェルテルウスはこちらを見て少し微笑んだ後、呪文を唱えた。




