卑劣な野郎だぜ
「勇者様はもうボロボロで戦える状態じゃない!」
「大変だ大変だ!」
「村はどうなってしまうんだべ」
コルビンは自分の役立たずさに落ち込んでいた。魔力管理ができていなかった自分はまだまだ未熟者だった。魔力が尽きてしまった今、ただ歯噛みして状況の行く末を見つめるしかない。
アカリがコルビンに耳打ちしてきた。
「コルビンさん、見てあれを」
勇者ウェルテルウスが何か取り出している。見覚えのある青い液体の入ったビン。魔力回復薬だ!こっちを見ている。どうやらくれるらしい。
「でもどうやって?」
何せコルビンと勇者の間には敵ボスキャラがいるのだ。気づかれずに渡すのは困難だった。
「村の皆さんに協力してもらいましょう」
村人達も必死だった。父祖伝来の村を失うことになれば文字通り路頭に迷う。
「わかったべ。おらたちにできることはなんでもするべ」
「かーちゃん、ガキ共、いい人生生きろよ」
「何でお前さんは毎回そうやってフラグを立てていくんじゃ?」
「うるせえな。誰が何のフラグ立てようが勝手だろうが」
などと場外乱闘が始まりそうだったのでアカリがたしなめた。
「とにかく、今は何としてでもボスの目線を逸らしてください」
「10秒、とにかく10秒ください。それだけあればあっしの脚なら取りにいける」
と村一番足が速い男は言う。計画はこうだ。村人がボスの注意をひきつけ、その間に足が速い男がポーションを勇者からもらいうけ、すぐこちらに戻ってくる。すぐさまコルビンがフルパワーで回復魔法を勇者にかける。そしてボスを倒してもらう算段だ。
どれかひとつでも失敗すればすべてが終わる。薄氷の上を歩くような作戦であった。
この間、ボスはそのまま仁王立ちになって動かない。悪い予感がした。
「じゃあ、作戦開始とします!」
村人達が隠れ場所から出てボスを挑発し始めた。
「おーいクソ雑魚ボスやーい!」
「おめえの軍隊は弱すぎて村人に死者は一人もなしだ。ヘボ軍団め!」
「どうせ最終的には勇者にぶっ倒されるんだ、いい気になるのも今のうちだけだべ!」
『フン……』
「あ、やばい。大して聞いてないみたいですけど」
「いいからいいから!あんたは黙って精神統一してればいいの。魔力のポーションを飲んだらすぐに勇者様に回復魔法をかけるのよ」
反応が悪かったので村人達は石を投げ始めた。時折ボスに命中するが、やはりその場を動こうとしない。勇者ウェルテルウスは血を流しながら仰向けに倒れたままだ。まだマジックポーションはその手に握られている。
そのとき、ボスキャラがついに動いた。村人めがけて走ってくる。とうとう逆上したのか?ともかく足の速い男はすぐに飛び出して勇者のもとに駆け寄った。ポーションを受け取り、こちらを振り見て親指を立てた。
「いいぞ……でも帰ってくるまでが遠足だ。……気を抜くなよ」
と思わずコルビンは一人呟いてしまう。
ボスは何も言わずただ村人達に接近した。蜘蛛の子を散らしたように村人達が逃げる。アカリとコルビンの隠れている場所のすぐそばにまでやってきた。
足の速い男が大事そうにポーションを背嚢に入れ、一目散に駆け出した。無人の瓦礫の山を行く。ボスは向こうを向いたままだ。いける!汗が頬を伝って流れる。あと100メートルくらい。
『雑魚どもが。人間ごときがわしを誑かそうなどとは百年早い』
男は瓦礫の山にうまく隠れつつこちらを目指している。もう少し、もう少しだった。
『いや、百年どころではあるまい。千年早い』
コルビンは冷や汗をかいた。今、ボスが横目で足の速い男を捉えたような気がしたからだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
後は瓦礫の山が二つ、それを超えさえすればコルビンのもとにポーションがやってくる。
『さて』
ボスが勇者の方を振り向いた。いける!男は瓦礫をすっ飛ばして一目散にこちらへやってきた。とうとうマジックポーションがコルビンの手に入ったのである。速攻ラッパ飲みで一気飲みする。力が沸いてくる。
「よし!」
「後は勇者様に回復魔法をかけるだけね」
「それと村人達をもっと安全な場所に移動させないと」
『フハハハハハ』
ボスは不気味な笑みを浮かべている。
手下の魔物が巨大な十字架のようなをいくつか運んでくる。磔にされていたのは村人だった。手と足を釘で十字架に固定されているようで、血が大地に滴り落ちていた。
「面目ない!」
「痛えよー!助けてくれー!」
「いや!オラは助けんでよろしい。それよりこいつを倒してくれ!」
「かーちゃん、ガキ共、いままでありがとよ!」
『さあて、罠にかかったのはどちらなのかな?』
ボスはまた不気味な笑みを浮かべていた。
『村人を回復させなくていいのかな?』
卑劣な野郎だぜ、とコルビンはつぶやいた。




