勇者再び
「で、来るの来ないの?魔王城?」
エルマが顔をぐいっと近づけてこちらを見ている。
「う、顔が近い」
コルビン的には勇者カイトがこのまま魔王を倒してくれれば万々歳であった。しかし自分が一緒に行くとなると話は変わってくる。
「まあもうコルビンさんはうちのパーティメンバーみたいなもんだし?」
アニーがにやりと笑う。どういう意味だ。
「そうだな。回復役はたくさんいたほうがいいしな」
と勇者カイトも頷いている。しかしここは男気の見せ所である。何より村を救うことにも繋がる。
「しょうがないなあ……」
「よし!では早速出発だ」
とサヤはもう荷物をまとめて背負っている。なんて気が早い!
「コルビン!」
振り返るとナシフ村村長だった。
「今回はカイト殿だけではなく、多数の勇者が魔王城に挑戦しようとしておる。もう今までのように一人で戦うことはなくなったのじゃ」
「それはいいことですね!」
「いいかコルビン。必ず生きて帰ってくるんじゃぞ」
「回復役なんで一番後衛にいますから、まあ大丈夫だと思います」
「……ヴィスワが悲しむからの。あまりフラグは立てないほうがいいぞ」
「まあどんなフラグがあってもへし折って帰ってきますよ」
アカリ姫の姿はなかった。ヴィスワだけがいつものような慎み深い笑みを浮かべこちらを見ていた。
村を出発してからはや半日。そろそろ夕日が沈む時刻になっていたが、この時点でモンスター一匹にも遭遇していなかった。
「しかし魔王城への道を行けども行けども敵モンスターは現れないな」
「うーん。たいくつだなあー」
「どう思う、イシワタリ?」
「まあ今回は別の勇者パーティも挑んでいるということで、先駆者の彼、彼女らがあらかた倒してしまったんでしょうね」
「なるほどねえ」
「ああたいくつ!」
アニーとエルマのテンションが過去なかったほど落ち込んだところで、山向こうに闇の波動を放っている建造物が目に入った。
「おお、これは……」
それは地獄絵図であった。モンスターの死体がそこらじゅうにうずたかく積まれ、流れ出る血液は川となってあちこちを流れていた。そしてその屍骸は先へ進むにつれどんどん数を増やし、ついに魔王城の手前まで来て死体の山盛りとなった。
「あーもう暇すぎ!」
「来るの遅かったせいかなあ?」
まるでタイムセールに出遅れた買い物客のようなのんきさでそのまま魔王城の城内へと進んでいった。ちなみに城門も徹底的に破壊されていた。勇者恐るべしである。
「やったーフリーパスだー♪」
「喜んでいる場合か!これから先はどんな敵が出てきてもおかしくないんだぞ」
「ま、僕は備えるだけですよ。皆さんがんばってくださいね」
「コルビンさんまでそんな適当なこと言ってー」
「あーお腹減った」
遠足にでも来たのかという感じで、しかし皆腹はしっかり減っていたので昼食となった。
「魔王城の中で弁当を広げるとは奇妙な気分ですねえ」
「……んん?何か聞こえません?」
コルビンも聞き取った。それは遠いが剣戟の音であった。血に餓えた勇者のパーティはそこからの行動が早かった。
「じゃ、行って来るわ」
「あたしも」
アニーとコルビンは弁当をほったらかしにして立ち上がった。目の色が変わっている。勇者カイトも同様だ。
「やっと一狩りできるな」
はてさて、変なことが起きなければいいが、と思いつつコルビンはおにぎりを頬張った。そして皆がダッシュで駆けていった方向へのこのこと付いていった。




