勇者一号の出現と問題点について
「大変だ!魔王のやつボス級のモンスターを出してきやがった!」
「村中の人間に知らせるんじゃ!サイレンを鳴らせ!」
モンスター襲来である。村長の家に併設されている村役場にはモンスターの侵入を受けて特別対策所が設置された。
ウーウーというサイレンがけたたましく鳴り響く。
『避難警報をお知らせいたします。魔王軍がボス級のモンスターを村に放ちました。村の中はもはや安全な場所ではありません!村民の方は地下室などの安全な場所へ今すぐ避難してください!避難区域は以下の通りです。ザンボイ地区、上シロガナス地区、下シロガナス地区……繰り返します……』
「村長、あれを!」
「むむ!早いな!」
コルビンが指差したその先には巨大な半漁人のようなモンスターが。大量の仲間を引き連れ進んでくるのがわかる。
「ざっと見積もって200体はいるか」
こちらはただの村人でレベルも低い、装備も貧弱。まともに戦える敵ではない。
「ひのきの棒となべのフタでは無理でしょうね……」
「もうあれくらいの距離ならば数分で村の端に到着するじゃろう。避難までの時間がない。せめて堀でも掘っておくべきじゃったな。万事休すか……」
「ああっ!村長あれを!」
衝撃波が村や渓谷を襲う。巨大な楔形をした光るものがものすごい速さで向かってきて敵軍のど真ん中を切り裂いた。
「????」
「????」
半漁人達も聞いていない、と驚いた顔をしている。敵軍の足が止まった。
「はっはっはっ!」
どこからともなく聞こえてくる特徴的な高笑い。小高い丘。そこには立派なよろいに身を固めた青年の姿があった。その手には紙が握り締められている。
「村長!埋蔵金のことは本当なんだろうな?!あと覚えておけ、世界平和を成し遂げるのはこの俺、ウェルテルウス様だっ!」
そういい終えるとだっ、と地面を蹴った。続いて何人かの仲間達も飛び出す。哀れな半漁人達は奇襲を受ける格好になった。
一方で村役場は歓喜の渦に巻き込まれた。
「勇者だ!勇者が来た!」
「これでこの村も安心だ!」
「村長ばんざーい。勇者ばんざーい!」
喜びに沸く職員達。しかしある一人だけはテンションが高くない。手放しで喜ぶわけにはいかないと直感していた。
「どうしたコルビン?何故そんな難しい顔をしているんだ?」
村長の言葉に、若くして副村長の地位にあるコルビンは難しそうな顔をしてこう言った。
「この村に勇者さんたちのHPやMPを回復してくれるアイテムのある道具屋は?」
「ない」
「宿屋は?」
「ない」
「武器屋は?」
「ない!」
「防具屋は?」
「……ない!!」
「胸を張らないでください!これじゃ受け入れ態勢がなってません。勇者さんたちだって人間ですから、こういったサポート施設がないと長く戦い続けるなんて無理ですよ」
戦場では勇者一行の魔法使いが天に手を掲げた。暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえる。その手が下りるとき、敵に容赦ないイカヅチが降り注ぐことだろう。しかし急に雲が晴れた。
「どうしたフサール?!」
「MPが切れました!」
「何ぃ?!」
勇者一行の弓使いが破魔の矢を放つ。上空に飛ぶ魔鳥がどんどん打ち落とされていく。しかしある瞬間から矢を放たなくなった。
「どうしたジグムンド!?」
「矢が尽きた!」
「何ぃ?!早くね?!」
魔法と弓という飛び道具を失った今、勇者一行に待ち受けているのは血まみれの肉弾戦のみだった。数がものを言う世界。それをひっくり返すのはポーションと回復役の支援。戦いは前線だけで起きているのではない。後方でも起きているのである。戦う勇者一行のエネルギー源は町や村なのだ。
魔法使いのフサールと弓使いのジグムンドが揃いも揃って半漁人の鋭い手によって串刺しにされたとき、村長は決断を下した。
「何とかしてアイテムを揃えろ!ないなら作れ!」
手を振り回し駄々っ子のように暴れだす村長。横暴なやつだなあ。とコルビンはぼそりとつぶやいた。コルビンは回復魔法しか使えない。敵もアンデッドではないので守りに入るしかない。
勇者くみし易しと見た敵はここで二手に分かれた。勇者一行と戦うもの、そして村に向かってくるものである。明らかに巨大な敵ボスは村を襲う方に入っているようだ。村役場は再び重い空気に包まれた。村が全滅してしまう。村長があんなのなので、衆目は村のナンバーツーであるコルビンに集まった。
「皆さん。僕がついているから大丈夫です!ほら、回復魔法とかすごい使えますから」
こうして戦いが始まった。この後コルビンはぶっ倒れるまで回復魔法を連打することになる。




