とりあえず報酬を増やしてみました by村長
「村長さん……」
「ん、何だねコルビンくん?」
「あの募集要項は無理があるんじゃないですか」
「やっぱり?」
「ええ。どっからどうみても無理です、アウトです。あれじゃ誰も来ませんよ」
「いつになく口が悪いのう」
二階建ての村長の家。二階の丸窓から夕暮れの村を見つめるものが二人。ちなみに村長と副村長である。
「報酬はちゃんと用意して、ババンと書いてしまったほうがインパクトがあると思うんですよ」
コルビンと呼ばれた青年は比較的痩身だが、凛とした顔立ちをしている。しかしおっかなびっくりで外を覗いているその姿が違和感と憂愁を誘う。
夕暮れ時の空といえばカラス。
だがそれはここナシフ村では一味違う。ゲームの世界で言うところの最後のダンジョンに出てくるようなおどろおどろしい鳥類モンスター五匹ばかりが空で鳴いている。いや火を噴きながら咆哮を上げている。
「報酬ねえ……しょうがないのう……」
村長はポケットに手を突っ込んだ。ごそごそズボンのポケットをまさぐる。しかしそこにはお目当ての品がなかったようで、今度は胸ポケットをさぐっている。
あのマグマのように赤い魔鳥達がいつ突入してくるかわからず、コルビンは戦々恐々としていた。
「村長さんはよく怖くありませんね」
「なに、一ヶ月もすれば慣れたよ」
けろりとしている村長を尻目に、外で悲鳴が上がった。片足をくちばしで掴まれた人間が連れ去られようとしている。
「あれは農夫のチキリンじゃないですか?」
「えっ。あっ。ふーん」
「村人が目の前でさらわれそうになってるのにえらく反応が薄いですね、村長」
「だってどうしろというのかね。わしに戦えと?あのモンスターと?」
「そりゃあ、無理でしょうけど……」
「じゃあ今ここでじたばたしても仕方ないじゃろう」
「村長ってたぶんこの村で一番村長に向いてないですよね」
「しょうがないじゃろなり手がいなかったんだから」
そ知らぬ顔をする村長だが、言っていることはいちいちもっともだった。こんな村の村長なんてお金をいくら積まれても断固拒否する。
「それはわかりました。で、」
「で?」
「ポケットを探してたのはなんだったんですか。探し物は見つかったんですか?」
「おお。これこれ」
村長は股間のチャックを開けてなにやらごそごそしている。コルビンは物騒なことを思った。今ここで村長にあるまじき行為をしている爺と刺し違えるべきかどうか。しかし村長を殺しても自分には何の得にもならないことを思い出しやめることにした。
「これだよ。これ」
「鍵のようですが?」
「その通り!コルビンなら小さいころ聞いて知ってるじゃろうけど、この村のどこかの地下倉庫に大量の埋蔵金があるらしい」
「はぁ」
「で、これがその倉庫の鍵と言われておる。とても大事なものなんじゃ」
大事なものを股間に入れておいていいのかと疑問に思ったが何も言わないことにした。
「な、なるほど。大量の金が報酬なら冒険者もたくさん集まるでしょうね」
「そういうこと」
そういいながら村長は募集要項を小汚いペンで書き換えた。
求む:救世主
報酬:村に眠る埋蔵金。そして魔王を倒して世界平和をGET!真の勇者になりましょう。
伝書鳩に原稿をくくりつけると村長は立派な本皮のソファーに沈み込んだ。一仕事した、という充実感が顔に表れている。何故だ。
「にしても埋蔵金の鍵があるなら自分で取りに行けばいいじゃないですか」
「まああくまで伝説っていうかー。実際のありかはもちろん知らないわい。わしはただ前任者から鍵の引継ぎを受けただけじゃから」
「はあ」
相変わらず適当な村長である。要するに与太話というわけで、狸の皮算用だ。
「ともかく、もう少し待ってみますか……」
「そうじゃのう」
コルビンと村長は再び村を見た。
夕日は既に沈み、暗闇が山間からひたひたと忍び込んできている。そろそろ墓地にゾンビが出現する頃だ。
「じゃ僕はここら辺で」
「まあ道に気をつけるんだよ」
「はい」
ゾンビと言っても魔王の城に近いのだからただのゾンビではない。王冠を被った立派なゾンビがうじゃうじゃいるのだ。
コルビンは家に帰る道すがら、ふと背後を振り返った。確かに邪魔者が入りこんでいるが、何よりも美しい郷里の姿がそこにあった。
「こんなんで村は助かるのか?」
迫り来るゾンビたちを回復魔法で蹴散らしつつ、コルビンは家路に急いだ。アンデッドには回復魔法が効く。本来コルビンは極度の臆病者であるが、慣れというものは恐ろしい。
「ま、なんとかなるでしょ」
毎日使っているうち、コルビンはいつの間にか高度な回復魔法が使えるようになっていた。




