勇者カイトとちょっと愉快な仲間達
どこかの港町、『大海原の船乗り亭』にて。
騒がしい店内。その店先で波止場の出っ張りに座って足をぶらぶらさせている女の子がいた。
どこからともなく飛んできたチラシが顔に巻きついた。引っぺがして捨てようとしたが、その内容に気付きしげしげと眺めている。
『救世主求ム。詳細は村長まで。勇者歓迎』
「これって⁉」
「どうしたー?」
男か女なのか性別不詳の人間が間の抜けた声で尋ねる。女の子は女の子で語尾を伸ばした返事をした。
「隊長ぉー。次のクエスト、これいーんじゃないですかあ?」
「ふーん。まあ暇してるから行くだけ行ってみる?」
「賛成!」
一方、山深い奥地にあるナシフ村。またもやモンスターの襲撃を受けていた。
「もやは恒例化しとるのう」
「のんきな事言ってる場合じゃないでしょ!村長として指示を下しなさい!」
とアカリ姫。何が気に入ったのかわからないがまだこんな辺境の村でごろごろしている。
「村を取り囲む木の柵などまるで無意味!速攻で踏み潰されました!」
「あーあ。勿体無い。せっかく作ったのにのう」
「避難避難!」
ジリリリリリと緊急を告げるベルが村中で鳴り響いた。しかししばらくするとそれもやがて聞こえなくなった。鐘が魔物に破壊されたらしい。
「敵モンスターの詳細はどうなってる?!」
「だいじょーぶじゃよ」
「村長!いくらなんでもたるみすぎでは?」
「大丈夫大丈夫。最後は勇者様が救ってくださるんじゃ。わしはようやくわかったわい。これも裏山に魔王城を抱えたおかげ。勇者と神に愛された村なのじゃ。ここは」
村長が慢心を起こしている間にも職員達から速報が飛び込んでくる。
「負傷者多数!死者に関しては少なくとも4人!」
「ルンツ地区では敵火炎モンスターが避難する村人の一団を襲撃!行方不明者は20人にも及んでいます!」
「早く指示を、村長!」
一方、ナシフ村への林道では女性の一団がいつ終わるとも知らぬ山道を歩き続けていた。
「あー失敗した」
「いくらなんでもナシフ村ってド田舎すぎませんー?!」
「誰よ!こんな山奥まで行こうとか言い出したのは?!」
「姉さん、ごめんなさーい。だって暇だったんだもーん」
「ちょっと一休みしない?いくらなんでも疲れたわ」
さんせーいと言い女子達はそこここでシートを広げだした。スイーツを取り出し早速舌鼓をうつ者もいる。
こののどかな山の反対側。ナシフ村では職員が村民の血路を開かんと必死の抵抗を続けていた。
「コルビンさん、村長は?」
「ダメだ!あの糞ジジイはもう使い物にならん!これから僕が指揮を執ります!」
ヴィスワが丸められている地図を持ってきた。机の上で広げると、そこにはナシフ村周辺の詳細な地形が記載されている。コルビンが机上の一点を指差す。
「ここだ。広報部からの情報によると、敵はルンツ地区を蹂躙し、下ウェンデン地区に迫っている。まさにここ村役場から目と鼻の先。どうしても食い止めなくてはならない」
「敵は結局何体いるの?」
「各職員の報告を総合すると、少なく見積もっても300体はいると思われる。回復薬の備蓄は?」
「B2回復薬が3,000個、C4回復薬が2,000個ありますぜ」
「それだけあれば少しは戦えるだろう。最大ヒットポイントが高い職員を前線に集めるんだ。戦闘員だろうがそうでなかろうが関係ない。これは村の存亡を掛けた防衛線だ」
「武器は人数分揃ってるの?」
「当然だとも、アカリ姫!青銅のつるぎとよろいがそれぞれ100個づつこの役場の地下倉庫に仕舞ってある」
「よし、では職員は村役場で武装を行うこと!下ウェンデン地区へ向かう職員の指揮は警邏部のサイクス部長にとってもらおう」
「よしきた!早速出発だ!」
……
「何か山の向こう側が騒がしっすねえ姉御」
「そう?あたしには普通に聞こえるけど。山火事じゃない?」
「そうですかねー」
「じゃ、そろそろ出発するか!」
「ナシフ村はどこにあるんだろうねー」




