エピローグ(2)
本日4話投稿、この話は4話目です。前3話未読の方はご注意ください。
その、三日後。
「――どうしても、行ってしまうのですか?」
「うん」
「りのたちにはお兄ちゃんが必要なんだよ!」
「そんなこと、ないよ。とらいでんとは、これ以上ない、最高のアイドルユニットだ。僕のプロデューサーとしての仕事は、もう一段落してる」
僕を引き留めようとするエッテとリノの言葉に応えながら、僕は目の前にある「ゲート」をもう一度観察する。
初めて召喚された時や、クソオヤジを元の世界に送還した時のゲートとは異なり、今度の「ゲート」は、ちゃんとゲートらしい形をしている。
サーカスで、ライオンがジャンプしてくぐる大きなフラフープがあるけど、あれによく似ている。サーカスのあれと同様に、フラフープからは虹色に遷移する謎の炎が噴き出していて、くぐるのには勇気がいりそうな感じだ。
「この世界にいるのもいいかと思ってたけど……やっぱり、あっちでしなくちゃいけないこともあるしね」
最終的にこの世界を選ぶかもしれないとは思う。
でも、元の世界が嫌だからこっちの世界を選ぶっていうのは、違う気がした。
そんなの、この世界で生きてる人たちに失礼だし、酒や歓楽に逃げたクソオヤジと同じになってしまう。
だから、一度元の世界に帰らなければいけないと思った。
ベルさんも当面の危機は脱したと言っていたから、今が潮時だろう。幸い、送還に必要なエレメントは、キシロニアから接収した分で十分にまかなえる。
「……クゥは?」
ゲートは、エウレニア城市天守閣の空中庭園の一角を借りる形で作られている。
いまこの場にいるのは、僕、エッテ、リノ、ベルさん、作戦参謀、僕付きのメイドさんの六人。クゥの姿がない。
「ま、ままま、待ってください~っ!」
大きなバスケットを抱えたクゥが、僕らの元へと走ってきた。
「見星さんっ! 持って行ってください!」
バスケットの中身は、いつか僕が褒めたパイだった。
「……ありがとう。おいしくいただくよ」
アイドルとしてのクゥと同じく、クゥのパイも、本人が自信を持てていなかっただけで、本当はすごくおいしい。クゥ自身がそのことに自信を持てるようになったのは、ごく最近のことだった。
クゥはアイドルとしてスタート地点に立ったばかりだ。これからまだいくらでも伸びる。
そう考えると、この世界に残ってとらいでんとのプロデュースに専念するのも悪くないように思えてくる。
「……わたし、見星さんがいなくなるなんて、嫌です。絶対に……嫌なんです!」
「クゥ……」
クゥが僕の服をつかんで、上目遣いに僕を見る。その目に、みるみるうちに涙が溢れ、クゥのやわらかそうな頬を伝っていくが、クゥは僕を見つめたまま身じろぎもしない。
クゥの頭を撫でながら目を向けると、エッテとリノまで目元を潤ませていた。
笑いながら、僕は言う。
「なんだ、大げさだな」
僕の言葉に、クゥがパッと顔を上げる。
「だって……!」
「大丈夫だよ。土日は戻ってくるから」
「……え?」
クゥが呆けた顔をする。エッテとリノも目を見開いて僕を見る。
「だから。週末なら時間があるから、月に二、三度は顔を出すよ……って、みんな?」
「どうしてそれを先に言わないのです!」
「そうだよぉ! りのたち、もうお兄ちゃんは帰ってこないんだって……それで!」
食ってかかってくる二人に、僕はベルさんを見ながら、
「そ、そうだったのか……僕はベルさんから聞いてるものとばかり」
「……私も、ミホシ君が説明しているものとばかり思ってたわ」
「……わ、わたくしたちがどれほど気を揉んだと……!」
「もう、バカ、バカ、お兄ちゃんなんかいらないぃ~っ!」
エッテはその場にうずくまり、リノは駆け寄ってきて僕の胸をポカポカ叩く。
僕が二人をなだめるために、手をわたわた振りながら口を開こうとしていると、トン、と急な衝撃を受けて、僕はその場でよろめいた。
「……よかった」
僕に抱きついてきたクゥが、消え入りそうな声で言った。
僕は、クゥの頭を撫でながら、
「……僕は、いつまでも、とらいでんとのプロデューサーだよ」
噛みしめるように、そうつぶやいた。
アイドル×ファンタジー『俺Pが異世界でアイドルをプロデュースすることになったら!?』はここで完結となります。
お読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか。
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この他の作品としては、『NO FATIGUE 24時間戦える男の転生譚』が連載中です。
おかげさまで『NO FATIGUE』は書籍版が7/25にオーバーラップノベルス様より発売予定となっております。
完結済みの読み切り長編としては『アルカドの眷属』『ハイネ&ハイネへようこそ!』の2作品がなろう上でお読みいただけます。
現代日本を舞台にした吸血鬼ものとファンタジー世界の温泉旅館を描いた作品です。
『俺P』を気に入ってくださった方には楽しんでいただけるのではと思います。
それでは、また別の作品で。
ありがとうございました!
15/6/16
天宮暁




