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俺Pが異世界でアイドルをプロデュースすることになったら!?  作者: 天宮暁


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20/21

エピローグ(1)

 翌日には、停戦協定が結ばれた。

 エウレニア湖から陸伝いに運んだ遊覧船の上で、ベルさんとキシロニアの宰相サラは、終始無言のまま用意された協定書に署名した。

 わざわざ遊覧船を用意したのは、もちろんエウレニア城市とキシロニア帝国第三都市イカロスとの間が海になってしまったからだ。


 協定の場には僕も出席した。

 向こうには父・見極がいるので、その処遇を決める上で僕の意見を聞くべきだとベルさんが言ってくれて、元帥や作戦参謀などエウレニアの首脳陣もそれを認めてくれた。

 一応、ベルさんたちとの話し合いで、宰相サラはエウレニアの捕虜とし、敵方のプロデューサー・立花見極は元の世界に強制送還することが決まっていた。

 停戦協定には、それらに加え、キシロニアがイカロスに貯えていた膨大な量のエレメントすべての接収が盛り込まれた。どのくらい膨大かというと、立花見極を元の世界に送還したとしても、大して負担にならないほどの量なのである。


 さて、船上でエウレニア首脳陣の中に僕の姿を見つけたクソオヤジは、意外そうに目を見開いて、ヒュゥッと下手な口笛を吹いてみせた。


「ケッ……やるようになったじゃねえか」


 ニヤリと笑いかけてくるクソオヤジに僕は顔をしかめて言い返す。


「少なくとも、あんたのおかげではないよ」

「フン。まあいい。オレにとっちゃこっちでのことは一時の夢みたいなもんだ。とっとと元の世界に戻って、酒と歓楽に溺れるとするさ」


 肩をすくめ、クソオヤジはふてぶてしく笑った。

 僕は、ずっと聞いてみたいと思ってたことを聞いてみる。


「そんな生き方してて、楽しいの?」

「あん? こうでもしなくちゃ、人生なんてクソみてぇにつまらんもんだろうが?」


 当然のように、クソオヤジは言った。

 それで、わかった。

 クソオヤジにとって、人生は基本的に「クソみてぇにつまらん」ものなのだ。

 だから、あれほどに必死に、人生を楽しくしようとしているのだ。

 その結果が、伝説のヒットメーカー、敏腕で知られる名プロデューサーなのだが、私生活では酒と歓楽に溺れる堕落した不良中年になってしまう。

 そこまでしてなお、立花見極は満足できない。面白くない。だからまた、新しいアイドルをプロデュースし、酒に溺れ、女に溺れる。

 ――僕があの日経験したような、魂を底の底から揺さぶるような感動を、この人は知らないのだ。


 後でこの時のことをクゥに話してみたら、クゥはこんな風に言った。


「……悲しい人ですね」

「……かもね」


 クソオヤジの背負ってる悲しみが、少しだけわかった気がした。


 だからといって、それですべてを許してやれるほど、立花見極はまともな人間じゃない。

 僕が同情してみたところで、鼻で笑いながら「十年早ぇよ」と言われるだけだろう。


 調印式の翌日、天守閣の講堂で、キシロニアのプロデューサー・立花見極の強制送還が執行されることになった。


「……おい、クソガキ。おめえ、こっちで生きてくつもりか?」


 送還の直前、クソオヤジが僕にそんなことを聞いてきた。

 珍しく父親らしい質問だと、僕は変に感心しながら答えた。


「さあ……」


 正直言って、まだ決めかねていた。


「オレ様に勝ったご褒美に、ひとつだけ親らしいことを言ってやる」

「いらないよ」

「いいから聞いとけ。聞くだけならタダだろーが。それとも何だ、オレ様の言うことが怖ぇのか?」

「…………」


 僕は眉を寄せながら顎をしゃくって先を促した。

 クソオヤジは、僕のそんな態度にはとりあわず、言ってくる。


「――おめえがどこで生きてくにせよ、帰る場所だけは見失うな」

「帰る……場所?」


 息子から家族を奪った男が、今更そんなことを言うのか。


「不満そうだな」

「別に……」

「オレに言えた義理じゃねぇのはわかってるがな。世の中にゃ、失ったことのある奴にしかわかんねえことだって……あるんだよ」


 いつも子どもみたいにキラキラ輝いているクソオヤジの瞳が、その時だけ途方もなく虚ろに見えた。

 クソオヤジは、ベルさんに向かって顎をしゃくり、


「……いいぜ。やってくれ」


 ベルさんが僕に視線を向けてくる。僕は小さくうなずいた。

 召喚された異世界へのゲート――僕が召喚された時と同じ卵形の繭に包まれながら、クソオヤジは最後にこう言った。


「サラに言っとけ! てめぇの乳を揉み損ねたのは、オレ様一生の不覚だったってな!」


 そんなふざけた言づてを残して、父・立花見極は元の世界へと還って行った。

 その言葉を考えてみるに……ひょっとしたら、父は父なりに、サラに詫びを言いたかったのかもしれない。

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