表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白蓮人形館  作者: とら
9/10

白蓮人形館*表

 赤、白、青、ピンクに黄緑…。鮮やかな色の布地が所狭しと並んでいる。

繊細に織られたレースは積み上げられ、金色の細工棚の中には大小さまざまなカフスが見えた。

白いバスケットの中に詰まっているのは、花を模した飾りとリボンだろうか。


祖父を追って作業部屋に入ったとたん、色の洪水に呑まれたかのような気がした。


「すごいだろう?」


祖父の問いに小さくうなづいて答えた。

布地は高価だ。それも、ここにある布地はどれも一級品に見える。

ここまでそろえるには相当な資産が必要だろう。


「ここでは人形の服を作っている。人形の服を注文するお客さんもいるから、お前が手伝う作業はほとんど人形の洋服作りだな。最初は難しいと思うが、手先は器用だと言っていたからたぶん大丈夫だろう。」


「え。俺が作るのか?」


驚いて隣の祖父を見ると、当たり前だといわんばかりの顔でこちらを見ていた。


「この店を継いでもらうのだから、人形の服くらい作るに決まっているだろう。なんだ?裁縫は出来ないのか?」


「いや…。」


むしろ服を作ったりするのはかなり得意なほうなのだが…。


おい…。結局親父に報告してる針子の仕事と中身変わってねぇじゃねぇか…。

姉ちゃんわかってて親父に針子の仕事って言ったわけじゃねぇよな…。(*針子は普通女性の仕事)


「? まぁ出来るならいいさ。さぁ次だ。」


「あ。おいっ!」


くっそ!またこのパターンかよ!


~~~~~~~~~~~~~~


「ここで受付をする。表のベルが鳴ったら作業部屋から出てきて対応すればいい。」


次にきたのは応接室だった。

作業部屋と隣接していて、デザイン帳が置かれた木製のテーブルとソファ。

ベルが乗ったカウンター以外は物のない小さな部屋で、表には看板立てかけられているのが見える。


「料金はデザインと使う布地によって変わる。次の仕入れのときに布地の値段を教えるから、ゆっくり覚えればいいだろう。」


ちょいちょい。


服を引かれて振り返れば、バレルが唇の端とはしに指をくっつけて、くっと上に上げる動作をしてきた。

なんだ…?


「そうそう。接客は笑顔でな。」


祖父が笑って補足してくれた。なるほど。笑顔で、という意味だったか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


応接室からデザイン帳をひとつもって移動したのは店の裏手にある小さな庭園だった。


何種類もの花が咲き乱れる庭園は、小さいもののしっかりと整備されていて美しい。


庭園の真ん中には白いテーブルと椅子のセットが置かれ、日避けのためのパラソルが傍らに立てられていた。



「ここの生花も飾りとして使うんだ。まぁ座ってくれ。」


そういうと祖父はセットされた椅子に座り、もってきたデザイン帳をテーブルに広げた。


「お邪魔します。」


祖父の向い側の椅子に腰を降ろし、広げられたデザイン帳を覗き込む。


…すげー。




デザイン帳には庭に咲いた花をモチーフにした洋服のデッサンがびっしりと描かれていた。


「新しい服を考えたり、お茶をするときはここを使うと良い。」



やっぱりデザインも自分でするのか…。



ライルは意外と凝り性だ。今のところ人形の洋服など考えたことはないが、やってみればハマるような気がした。




からからから


「ああ。ありがとうバレル。」


後ろから何かを引く音がする。振り向くと、どうやらバレルがティーセットを乗せた銀色のカートンを持ってきたようだ。丁寧にミルクスチーマーまで付いている。


「そうそう。店の受付は2時まで。その後は必ずこの庭でお茶にするんだ。」


2時って早いな…。


ライルは実家で店の手伝いをしていたから良くわかっているが、2時といったらまだまだお客が入る時間帯だ。


そんな経営で、採算取れるのか?


ライルが新しい疑問に内心首をかしげている間に、祖父は慣れた手付きでスチーマーにミルクをセットし、温めた茶器に紅茶を注いだ。細かい茶葉がゆっくりとそこに沈んだ頃に、滑らかなムース状になったミルクを乗せる。

ふんわりと甘い香りがただようミルクティーだ。


「まぁ。そう難しく考えるな。とりあえず飲んでみなさい。」


紅茶を差し出す祖父にどこか釈然としない気持ちを抱くが、とりあえず言われた通りに手渡されたミルクティーに口をつける。


…うっま。


直前まで考えていたことを一瞬忘れてしまうほどに美味しい。

ライルは普段はコーヒー派だが、おもわず紅茶派に鞍替えしようと思ってしまう保だった。


ミルクの甘さが全然しつこくない。以前飲んだミルクティーは生クリームがしつこすぎて口ん中がベタベタしたのに…。



「その味を覚えておけよ?お前もその味を淹れられるようにならないといけないんだから。」



意味深な祖父のひとことでわれに返った。

紅茶を楽しむのもいいが、それよりも聞きたいことが山ほどあった。

紅茶で湿った唇を指でぬぐい、ライルは祖父の瞳をまっすぐにみる。



「なぁ。そろそろ俺の質問に答えてくれよ。」



祖父は意味深な笑みをますます深めたように見えた。







ライル君はとっても流されやすいです^^;;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ