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白蓮人形館  作者: とら
10/10

閑話(眠り姫)

ティリエル視点(ライルと出会うちょっと前)

生まれたのはいつだっただろう。

深い深い森の奥…。

そのとき周囲にいた誰よりも多くの祝福を受けて私は生まれた。

しかし私が生まれたとき、私の周りは悪意でいっぱいだった。


誰よりも強い力を持つからこそ、私には人の心の…自分では気付かない裏の裏まで見ることができた。

私達を見た人は、必ず胸に欲望を抱く。

生まれてすぐのときは、それが何を意味するのかわからなかった。


そして…それは起きたのだ…。ともに歩んでいたはずの人は私達を得る権利を奪い合い…私達を得た人間は私達の力を無理矢理使わせるようになった…。

欲望の箍を外した人間は、自らの欲望を満たすために森を焼き、河を汚し、仲間を家畜のように扱い始めたのだ…。



怖くて怖くて…私はひたすら隠れ続けた。


私の半身に出会うまで…怖いものに捕まってはいけない…。

怖いものはきっと、私を壊してしまうから…。

…私達は眠った…。

音を立てず、動かず、森と深く深く同化するように…。

やがて怖いものは私を忘れ…私は私のもとに集まってきた仲間とともにまどろみに落ちた…。


長い長いときの中を私達は生きる。

小さな友達が、やがて大きな森になっても…私達は生きるのだ。

たった一人の相手に出会うまで。


そうして数百年の時を眠るうちに、私達の一部はいつしかある家系に匿われるようになった。大好きな森と同じ色の瞳を持ち、美しい心をもった者達。

彼等の優しさは私達の心を潤し、私達の心は彼等とともにあるうちに徐々に癒されていった。


だが、私の心にあいた穴は、今もまだ埋まることはない。

他のもの達の言葉(意思)も私には届かない。

私と彼等とでは…持つ力の量が全くちがうのだから…。



私の心は再び沈んでいく…。

会いたい…。

この孤独から救ってほしい。

どうか、私を抱きしめて…。

私を愛してほしい…。

ずっとずっと待ってるから…。


いつしかときは移ろい…、私達の側にいてくれる家系の人間はだんだんと減っていった…。

私達は遠い昔のお伽話になり、人々の記憶から薄れてゆく…。人から逃げるために隠れた私達は……、隠れたせいで永遠に近いときを訪れぬ出会いのために待ち続ける。


動くことを忘れ、笑うことを忘れ、そうして私は人形ドールと呼ばれるようになった。

皮肉なことに、そのとき私はそれで良いと思った。

人形のように意識を持たず眠り続ければ、孤独に苦しむこともない…。


長い長いときの中…私の心は壊れかけていた。



そうして全てを諦めようとしたとき…私は彼に出会った。


新緑の髪、翡翠の瞳…。

遠い記憶の中で見た、美しい故郷の景色と同じ…。


彼からは優しい風の感触がする…。

扉の向こうに居てもわかった。彼が私のパートナー…。

凍りついた心は急速に溶けだし、すぐに私の胸を熱く焦がすほどになった。



残念なことに彼の気配はすぐに遠退いてしまったけれど……大丈夫。

彼はまたここに来てくれる。

半身同士は惹かれあうものなのだから。


私は呼び続ける。

愛しい人の名前を。

…ライル。

やっと見つけた私の半身…。


早く見つけて…。

側に居させて…。


どうか…どうか彼に拒まれませんように…。

彼が私を愛してくれますように…。


私は願う。

彼とともにある自分を。



私の名前を呼んで…。

誰も呼んだことのない…本当の私の名前を…。


待ち続けた彼が来るまで…あと少し。

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