瞳
吸い寄せられるように覚束ない足取りで棺に近付く。幼い身体と顔立ちは中性的で、少女にも少年にも見える。薄く透き通った硝子のように、触れれば壊れてしまいそうな儚さだが、確かにそこに存在した。
死体に触れたいなんてこれっぽっちも思ったことはないが、その滑らかな肌に触れずにはいられなかった。
そっと手を伸ばし、血の気のない頬に触れると、やはり体温は感じられない。
「ん?」
なんだ…?今、微かに睫毛が揺れた気が……。
まさかと思いつつ、確かめようともう一度手を伸ばす……
「動くな。」
ひたり。と首筋に冷たい感触。鋭利な金属の煌めきがかろうじて視界に映る。おもわず喉が引き攣ったように鳴り、身体に力が篭った。
ナイフがいっそう押し付けられ、首筋に痛みが走る。
「ここで何をしていた。」
っやべぇ!とにかく誤解を解かないと!!
「っすまない!…人拐いに追われ「おまえ…ライルか……?」
「……え?」
…なんだ?どうして俺の名前を?
「緑の髪に、碧の瞳……リアーネにそっくりだ…。」
先程から感じていた首筋への圧迫が消え、押さえ付ける力が弱まる。頭はまだ混乱しているが、相手の敵意がなくなったことは感じ取ることができた。
「すまなかった。彼等を狙うやつは後を絶たん…。こそ泥か、国の狗かと思ったんだ。」
こそ泥?国の狗?それに…リアーネって、なんで母さんの名前まで……。
じんじんと熱を持つ首筋をさすると、わずかにぬるりと湿った感触があった。何が起こっているのか確かめようと、声の主の方へ向き直る。
…見覚えのある碧の瞳が俺を見ていた。
深い…森の奥のような緑……。俺の瞳より色濃く、姉の瞳より青色がかっている。
だが、なぜだろうか…。
冷たい色合いなのに暖かさを感じる視線が、無償に懐かしかった。
…俺は、この瞳を知ってる…。
「え…ぁ……俺…知ってる?」
「あぁ…緑の髪に、碧の瞳。お前は母親にそっくりだな。」
リアーネ…、母さん…。碧の瞳…。
ってことは……
「じぃちゃん…なのか?」
目的としていた人物とやっと会えたというのに、俺はますます戸惑うばかりだった。




