焔銅の街
頑張って更新します(;_;)
「…白蓮人形館はどこだ?」
王都から馬車で三日、ウィアレンディルに続く街道の最終地点。
すぐ側に荘厳たる雄々しきウィアレンディルの森を控えた焔銅の街フィアレーデン。
赤銅色の不揃いな煉瓦が敷きつめられた街内は、幾何学模様のように入り組んでいて、旅人を拒んでいるようにさえ見える。
姉から渡された小さなメモ書き程度の案内では、自分が街のどこに居るのかさえ把握出来そうになかった。
邪魔なフードを頭の後ろに落として首を軽く回す。
珍しい緑がかった薄い茶色の巻き毛が広がって、首の回りにささやかな風が通った。
さて、とりあえず歩いてみますか…。
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街の入口から歩くこと20分弱。俺はフィアレーデン中央市場へと来ていた。
円形の広場にところ狭しと屋台がたち並び、熟れた果実の甘い芳香や、食欲を誘う肉や魚が焼ける香ばしい香りが漂っている。
時間が昼時だからだろうか。王都とは比較するまでもないが、結構人がいて、簡単に食べられるカンバス(パンのようなものにたっぷりと野菜や肉が挟まれたサンドウィッチ)などの店にはちらほら行列が出来はじめている。
王都とはだいぶ売っている商品に違いがあるようだ。
珍しい果物や道具に、おもわず視線を奪われていることに気付いて慌てて頭を振った。
いっけねぇ。まずはじぃちゃんの店を探さねぇと。
店を開くためには、総じてその街のことをよく知っていなければならない。
人口や客層の厚さ、開こうとしている店の需要度などを把握していなければ、その店が生き残ることは難しいからだ。
よって、このフィアレーデン中央市場で店を出している人達から白蓮人形館の場所を聞くことはとても合理的といえるだろう…。
俺は手近にある果物を売っている屋台の店主へと声をかけた。
「すまないが、この街にある白蓮人形館という店を知らないだろうか。」
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…困った。
あのあとフィアレーデン中央市場で何度か白蓮人形館のことを聞いて回ったのだが…白蓮人形館のことを知っている人は誰ひとりとして存在しなかった。一様に皆怪訝そうな顔をするばかり。辺りも薄暗くなっており、正直もう手詰まりだった。
「はぁ…。どうしろっていうんだ。」
店が見つからない以上は家に帰るしかないが、生憎夜は獣が活発になるのでこの時間では馬車は走っていない。
早くとも明日に帰るとして、今日泊まる宿を探しす必要があった。
っと。
「よう。綺麗な兄ちゃん。お前みたいなやつがこんな夜中に一人で歩くと危ないぜぇ?ひひっ。」
「そうそう。よそ者みたいだし知らないかもしれないが、ここいらはそういう趣味のやつらがゴロゴロしてやがる。俺達が安全なところに連れてってやるからよぉ。」
ちっ。胸くそわりぃ…下脾た笑いしやがって、典型的な人拐いだな。
話によると男娼館に連れてくつもりみたいだし、フードをとったのはまずかったか。
…まぁ、人数は二人だけ…いけそうだな。
「ご親切にどうも…お二人についていけばよろしいでしょうか?」
「そうそう。話が早くて助かる。こっちに……っぐぁ!!」
油断していた手前の男の脚を思いっきり蹴り飛ばす。隣にいた男が何が起こったのか理解する前に二人の間をすり抜けて走り出す。
「ってめぇ!」
俺が逃げたことを悟った男が追ってくるが…遅すぎる。すでにだいぶ距離を稼いだ俺は、近くの道を曲がって二人の視界から消えた。
そのまま駄目押しで2回、3回と道を曲がりながら裏通りを抜ける。姉に追い回され続けて鍛えられた俺の脚力を舐めるな。
っと、いかんいかん。しつこいな。
まだ微かに二人分の足音がする。俺はとっさに近くの店のドアを開き、中に身を滑り込ませた。