第15話 黄金色に思いをはせて
「痛たたた・・・。あれ?わたし、いつの間に部屋に戻ってきたんだろう?」
頭痛で目が覚める。いつも通りの朝と言いたいところだけど、部屋に戻ってきた記憶がない。もしかして・・・昨日のモヒートでだいぶ酔っぱらっちゃったのかな!?わぁ・・・やってしまった。と反省して、身支度をし、一階へ降りて裏庭へ。
「そろそろ良さそうな頃合いなんだよなぁ~。」
すると、ミツバチ妖精さんが近づいてきて、
〈おはようございます!蜂蜜ができましたので、お持ちしました!〉
「えぇっ!もうできたんですか!?急がせちゃったのかな、ミツバチ妖精さんたちのついででいいのに。」
〈いえいえ、実はこのお庭とこの街はたくさんのお花があって、わたしたちの予想以上に蜜が集まったんです。なので、お分けしても余るくらいで。〉
「そうだったんですね。そうだ!余った分は、大きな容器で保存しておきましょうか?いつでもみんなが取り出せるようにしておくので。」
そう言うと、ミツバチ妖精さんは嬉しそうに、
〈ありがとうございます!助かります。〉
「じゃあ早速、容器を用意しますね。余ってた樽なんだけど、こうしてっと・・・。」
樽に木の蓋をして、ミツバチ妖精さんたちが入れるくらいの穴を開ける。
「魔法で蟻除けをしておいてっと、こんな感じでどうでしょう?」
〈わぁ、これならたくさん入りそうです!あ、忘れないうちに蜂蜜をお渡ししますね。余った蜜も入れられる容器、ありがとうございます♪〉
と、直径30㎝くらいの六角形の蜜蝋のようなものに包まれた、蜂蜜を受け取った。
「ふわぁ、甘い良い香りがする!ありがとう、大事に使わせてもらうね。」
いったん調理場に蜂蜜を置いて、庭に鈴なりの青梅に似たププラムを収穫していく。さっぱりとした甘さの香りがして、初夏を思わせてくれた。そろそろ雨期も始まりそう。今のうちにお洗濯とかもしておかなくちゃ!
籠いっぱいにププラムを摘み、聖水の出る噴水で水洗いする。1時間ほど水にさらして、あく抜きをし、魔法のクリーンとドライを駆使しながら、傷がないか確認していく。・・・うん、どれも丸々としてきれい、傷もなさそう。
よし、次はあれを作る。
材料は、
・蜂蜜:500グラム
・聖水:1.5リットル
・天然酵母:適量
・聖域のリンゴ:3個
まず、樽を用意し、クリーンできれいにしておく。
蜂蜜と水を大きなお鍋に入れ、弱火でだいたい40℃くらいになるまで温め、火からおろし、蜂蜜が完全に溶けきるまで混ぜる。
次に、人肌くらいまでの温度になったら、とっておきの聖域のリンゴから作った天然酵母を入れて、そのあとに聖域のリンゴをくし形に切って、入れる。
だいたい1週間ほど発酵に時間がかかるが、魔法で時短する。ぼこぼこと泡が出て、泡が落ち着いたら、不純物などを沈殿させる。底に沈んだら、上澄みを樽の中へ、不純物が入らないように気を付けながら入れる。
樽にふたをし、魔法で3ヶ月ほど熟成させる。そうすると、黄金色のミード(蜂蜜酒)の完成!!
昨日は酔っぱらっちゃったから、今日はスプーン1杯で・・・。ほわぁ、蜂蜜の良い香りが鼻から抜けて・・・、それに意外と甘くはないかも。それになんだかネクタルの香りもする。これはすごいものを作っちゃったかも!
今回はミードだけじゃない。果実酒も作っちゃう。
材料は、
・ププラム(へたはとってある):1キロ
・黒砂糖:400グラム
・ラム酒:1リットル
・ウォッカ:1リットル
・蜂蜜:100グラム
保存用の瓶を煮沸、クリーンをかけておく。
ププラムと黒砂糖を交互に入れていく。そのあと、蜂蜜を入れる。最後にラム酒とウォッカを入れて、ふたを閉めて、最初は2週間くらい魔法で時短する。ここで一度瓶の中を混ぜる。ふたをして、次も2週間くらい時短する。そうして黒砂糖が溶けきったら、完成!普通の梅酒よりも少し暗い、黄金色のププラム酒ができた。ふたを開けると甘酸っぱい香りが広がる。さてと、ププラムを取り出しておいてっと。これはあとで再利用するとしてアイテムボックスに入れておく。
お店に出したい、お酒は造り終えた。カクテル、何を出すか、メニュー作っておかなきゃ。それに合わせたグラスも。あ、シェイカーもないといけなかった。いろいろ道具をなんでも生産のスキルで作って・・・。
そういえば、オープンする日を決めてなかったなぁ。もう少し準備にかかりそうだし、まだ決めないでいよう。わたし、期日決めちゃうと焦って、いろいろ忘れたり、ミスしたりするからなぁ。きちんと準備しきってから、商業ギルドにオープンのチラシを掲示しに行こう。
わたしはお店でテーブルにつき、ノートに出したいメニューを書いていた。う~ん、出したいものが多すぎる。仕入れの状況で決めよう。完全おまかせで。何が出てくるのかわからないの、ドキドキしない?
そんなことを考えていたら、あっという間にお昼ごはんの時間に。今日は何を食べようかな?
お昼ごはんはサンドイッチを作り、簡単に済ませた。昨日、せっかくラム酒を作ったから、ラムレーズンを作ろうかな。
まずは、お湯を沸かす。その間に瓶にクリーンをかけて、消毒しておく。お湯をボウルに移し、お湯にレーズンを入れていく。30秒ほどでお湯を捨てて、ドライの魔法で水分を完全にとばす。瓶の中にレーズンを入れて、ラム酒をレーズンが完全に浸るまで注ぐ。そして、2週間くらい魔法で時間を進める。そうすると、レーズンがラム酒を吸って膨らんでいるので、さらにラム酒を足して、2週間時間を進める。これでラムレーズンの完成!
今日はここで終わりじゃなく、さらにお菓子も作っちゃう。ラムレーズンのパウンドケーキをね!実は錬金術のお店で、ベーキングパウダーみたいなふっくら粉というものを発見したのだ。材料は、
・ラムレーズン:120グラム
・小麦粉:120グラム
・ふっくら粉:小さじ1/2
・無塩バター:100グラム
・黒砂糖:95グラム
・卵(室温に戻しておく):2個
・焼き上がりに塗る、ラム酒:大さじ2
まずはパウンドケーキの型をなんでも生産で作っておく。
ラムレーズンの水気をよく切り、小さじ1くらいの小麦粉をふって、全体的にまぶしておく。そうすると、ラムレーズンが生地に沈みこみすぎない。
ボウルにバターを入れて、泡だて器(これもなんでも生産で、すごく便利!)でクリーム状になるまで練る。砂糖を2〜3回に分けて加え、空気を含んで白っぽく(黒砂糖だから白くならないけど)、ふわっとするまで、しっかり混ぜる。
そこに溶き卵をほんのちょっと、小さじ1くらいずつ加え、そのたびにしっかり混ぜる。分離しないように慎重にね。
混ざり切り、滑らかになったところで小麦粉(ふるっておくとBEST)とふっくら粉を入れて、木べらでさっくり切るように混ぜる。練らないのがポイント。
少し粉っぽさが残るくらいで、ラムレーズンを入れて全体に行き渡るようにさっくり混ぜる。
パウンドケーキ型に生地を流し込み、真ん中を少しへこませる。180℃に温めておいたオーブンに入れて、40分くらい焼いていく。
焼きあがったら、仕上げのラム酒を上面や側面にたっぷり塗り、しみこませる。そして、一晩寝かせるが、今回も魔法で時短する。
「特製ラムレーズンのパウンドケーキの完成!!!ふわぁ、ラム酒の豊潤な香りがたまらないなぁ。」
ん?お店の方に誰か来たみたい。
「はーい、どなたですか?って、ランスロットさん!いらっしゃいませ。とりあえず中へどうぞ。」
「あぁ、お邪魔する。」
そう言って、お店の中へ。テーブルについてもらい、紅茶を用意する。
「今日はどうしたんですか?」
「昨日は、大丈夫だったか?だいぶ酔っぱらっていたが。」
え、もしかして・・・
「わたし、昨日、途中から記憶がなくて・・・もしかしてベッドまで運んでくれたんですか?」
「途中で寝てしまったからな。申し訳ないが部屋に入らせてもらった。」
あぁ~~~やってしまった。すごく申し訳ないのと、ランスロットさんでよかったのとで、顔が熱くなる。
「すみませんでした~、つい飲みすぎちゃったみたいで。」
「構わない、飲ませてもらったが、とても美味しかった。その酒について話がある。」
なんだろう?
「私は辺境伯閣下に仕える騎士だ。昨日の酒の話を閣下にしたところ、ぜひその酒をと仰せでな。カエデが良ければ、閣下に会ってもらえないだろうか?」
「ふぇっ!?わたしなんて一般人、お会いしても失礼にならないでしょうか?」
「問題ない、閣下はご器量の大きい方だ。貴族の作法を知らずともお怒りになることはない。」
それなら大丈夫なのかな・・・?と不安に思っていると、
「大丈夫だ、私も同席する。それでは安心できないか?」
「ありがとうございます、一緒にいていただけるなら安心できます。」
「(なんだ・・・胸がドキドキする。)そうか、ならば閣下に会ってもらえるか?」
「はい、わたしでよければ。いつ、お会いすればいいでしょうか?準備したいものがあって。」
「急で申し訳ないが、この後すぐに来てほしいと仰せだった。閣下はそろそろ社交シーズンで王都へ行かれるからな、時間が取れたのが今日だった。申し訳ないとおっしゃっていた。」
ふぁっ!じゃあ、すぐに準備しなきゃ!!
「はわわ、すぐに準備しますね!急げ急げ~」
「落ち着いてくれ、慌てずに準備すればいい。忘れ物をしないようにな。」
そんなランスロットさんの声を背に、急いで準備していった。あれもこれもと出していって、あ、パウンドケーキも持っていこう。
何を着たらいいんだろう?そうだ、テラ様にいただいた、あのワンピースにしよう。
「お待たせしました!準備できました。」
そう言ってランスロットさんのところへ行くと、振り返ったランスロットさんは少し驚いたような顔をして、
「(ワンピースだと・・・似合っていてかわいいな。ん?今俺は何を考えて・・・)いや、急だったのはこっちのせいだからな、気にするな。では、行こうか。外に馬車を待たせている。」
「えぇ・・・いいんですか?歩きでも構わないですけど・・・。」
「閣下からの気遣いだ、受け取ってくれ。」
そう言うと、ランスロットさんは馬車の前に立ち、わたしに手を差し伸べて、
「さぁ、乗ってくれ。」
「ふぁいっ、おねがいしましゅ・・・。」
そうして馬車に乗り込み、辺境伯さんの居城へ向かった。
~第三者視点~
「閣下、ランスロット卿とカエデ殿がお見えです。」
そう執事が告げ、辺境伯は顔を上げる。
「そうか、通してくれ。」
「かしこまりました。・・・どうぞ、お入りください。」
ランスロットが先に入り、
「失礼いたします。閣下、お連れしました。・・・カエデ、こちらに。」
「はい、失礼します。」
緊張した面持ちのカエデが部屋へ入る。すると、
「ん?君はいつぞやの私の騎士を助けてくれた・・・、そうか、君だったか。」
「へ?あ、あの時の方が辺境伯様だったんですね!」
「あの時は助けてくれてありがとう、あの時の騎士は後遺症もなく、任務に取り組んでいるぞ。」
と、この街に来る際にお世話になった方だった。ランスロットさんが不思議そうにしていたので、あの時の話をする。
「なるほど、そういったことが。」
「そうだ、まさか、ここでつながるとは思わなんだ。さて、今日来てもらったのは、君にお願いがあってな。」
カエデは背筋を伸ばし、
「はい、わたしにできることでしたら。」
「いやなに、そんなに気負わなくていい、君の作ったものを見せてほしいんだよ。」
「えぇっと、そんなものでいいんですか?どうしてなのか、お聞きしても?」
カエデはこわごわそう訊ねた。
「実はな、この辺境伯領にはこれといった名物がないんだ。ランスロットから君がいろいろ作って、フォレスト・サジを盛り上げてくれていると聞いてな、ぜひ、見てみたいと思った次第だ。それでもし、君さえよければこの領の名物にさせてくれないか?」
「はわわ、えぇっと、とりあえず見てもらってもいいですか?わたしのつくったものでよければ、使ってください!」
カエデはそう言うと、応接セットのテーブルにアイテムボックスから瓶や箱を取り出した。瓶に入った液体は琥珀色に輝き、箱からは香しい匂いがする。
「まずは、この箱の中の・・・。」
と言いながら、箱を開けた。そこには芳醇な香りのする、焼き菓子らしきものがあった。
「これは、ラムレーズンのパウンドケーキというお菓子です。一晩寝かせたので、ラム酒がしみこんでしっとりとして美味しいですよ!」
と言いながら、執事にお願いして切り分けてもらう。執事が辺境伯へ渡す前に毒味をする。
「これは・・・!?なんという、芳醇な香りと甘さはあれどしつこくなく、しっとりとして・・・これは美味しいですぞ、閣下!」
「お前の反応を見ていればわかる。もういいな、私も食べるぞ。・・・!ふむ、鼻から抜ける香りがたまらんな。それに甘さも主張せず、酒のコクを感じる。これはうまい。これほどとは・・・。」
「次は、ラム酒です。このままだととても強いお酒なので、カクテルにしますね。カクテルとは、ベースとなるお酒に他のお酒やジュース、シロップなどを混ぜ合わせて作るアルコール飲料のことをいいます。とてもおしゃれで、美味しいものがたくさんあるんです。」
そう言いながら、カエデはアイテムボックスからさらに瓶などを取り出した。
「今日は『ダイキリ』というカクテルを作ります。」
シェイカーに、ラム酒90ml、ライムジュース30ml、黒砂糖を入れてふたをし、シェイクする。できたダイキリを用意していたカクテルグラスに注ぐ。カットしたライムを添えて、
「『ダイキリ』です。どうぞご賞味あれ。」
そうグラスを差し出され、まず執事が受け取り、一口。
「これはまた、酒のふくよかな風味にライムの爽やかさが調和して、閣下、これもたまりませんぞ!」
「どれどれ、・・・これは驚いた、私はこれまでにこれ以上のものを飲んだことがない。爽やかでありながら、コクのようなものを感じる。だが、このカクテルとやら、かなりきつめの酒だな?」
カエデは、
「はい、今回のもそうですが、カクテルは酒精の強いものばかりです。どれもお酒を楽しむ、酒を楽しむ時間を愛する、ということだとわたしは思っています。」
「カクテルは、君の店に出すつもりかい?」
そんなことも知られているなんてと、カエデは驚きながら、
「そのつもりです。街の人たちに美味しいお酒があるって、楽しんでもらいたいんです。」
「そうか、これをまた楽しむことができるんだな。カクテルとやらで一つお願いがある。」
辺境伯はにっかり笑い、
「定期的にこの城でカクテルをふるまってほしい。君の腕を信用してのことだ。これほどの酒の知識や技術がある。これはわが領にとって一つの名物と言える。あとは、君が作った酒を融通してもらえると、これからの社交シーズンがとてもやりやすくなる。どうだね?もちろん、報酬は用意する。君は料理も得意と聞いているからな、食材などはどうだろう?この辺ではあまりない、乳製品なども取り寄せよう。」
それを聞いたカエデは、目をキラキラさせて、
「わたしでよければ、いつでもおっしゃってください!あ、今日お持ちしたお酒はどうぞ、お納めください。(乳製品・・・チーズに新鮮なミルク、バターに・・・うへへ。)」
「そう言ってもらえるのは助かるよ、感謝する。さて、もう夕方だ。私はこれから社交シーズンの用意があるのでね、これで失礼するよ。」
そう辺境伯がしめくくり、カエデは、
「今日はありがとうございました。失礼いたします。」
ランスロットと共に退室した。
執事と二人になった辺境伯。
「報告以上の気の良い娘だったな、彼女が作った酒も融通してもらえるようになったしな。」
「はい、あの年ごろにしては、礼儀のある方でしたな。」
「これからもランスロットには、彼女を追ってもらう。」
「承知いたしました。」
~カエデ視点~
帰りの馬車の中はランスロットさんと二人きりでおしゃべりしていた。
「そろそろ君の店に着くそうだ。・・・今日はありがとう。緊張しただろう。」
「はい、緊張したけど、ランスロットさんがいてくれたから、頑張れました。」
「(おさまれ・・・!私の鼓動・・・!!)そうか、それは役に立てたようで良かった。」
と、ランスロットさんが少し微笑む。はわわわ・・・、いけめーん・・・。などと思っていると、馬車が止まった。
「着いたようだな。」
そう言って、先に馬車を降り、わたしに手を差し伸べた。
「どうぞ、つかまるといい。」
わたしはドキドキしながら、ランスロットさんの手につかまり、馬車を降りた。
「同じことを言うようだが、今日はありがとう、感謝する。閣下もお喜びだった。」
「喜んでもらえてよかったです。辺境伯様によろしくお伝えください。」
「あぁ。店はいつ開店するつもりだ?」
わたしは、
「まだ、はっきりとは決めてないので、近々とだけ。」
「そうか、また来る。」
そうして馬車とともにランスロットさんは帰っていった。
少し寂しいけど、明日の準備をして、早めに休もうっと。




