王国が見逃したもの
学業が忙しくてなかなか投稿できなくてすみません!
是非読んでください!
会議から一夜明け、カーテンの隙間から差し込む朝日が、静まり返った館を照らし出していた。
アトラスは休息もそこそこに、すでに工場地区へと足を運んでいた。
「ギアード。昨日はよく眠れたか?」
作業場の入り口に立つアトラスの問いに、ギアードはニヤリと不敵に笑いながら答える。
「旦那もわかってるくせによく聞くぜ。あんな話を聞かされて、眠れるわけねぇだろ?」
「昨日から楽しみで仕方ねぇよ。血が滾ってやがる」
ギアードの言葉に、アトラスはわずかに口角を上げた。
「ギアード。今日から魔導列車の開発に本格的に取り掛かってくれ」
ギアードは返事をする。
「分かってらぁ」
アトラスは続けて指示を出す。
「熟練工を集め、フェデルの描く設計を可能な限り精密に形にしてやってくれ。頼めるか」
ギアードは再びニヤリと笑い、自らの胸を叩いた。
「あたりめぇだろ! あんなすげぇもんを、半端なまま世に出すなんて職人の名が廃る」
「テクノリアの魔導列車なんて、俺たちが軽々と超えてやるよ、旦那」
その力強い言葉を背に、アトラスは工場地区を後にした。
次に向かったのは、住宅地区の瓦礫撤去に励むセラフィナの元だった。
「セラフィナ。少し付いてこい」
突然声をかけられたセラフィナは、不思議そうに手を止めてアトラスの後に続いた。
「どうしたの、マスター?」
アトラスは前を見据えたまま、一定の歩調で歩き続ける。
「昨日の会議の内容を覚えているか?」
その問いに答えるセラフィナ。
「ええ、覚えているわよ。……魔導列車の話でしょ?」
アトラスは歩みを止めず、さらに問いを重ねる。
「セラフィナ。このヴァスタスという土地は、お前から見てどういう土地だ?」
セラフィナは即座に記憶を辿り、答える。
「……不毛の地、でしょ? 水資源こそ豊富だけど、土地は痩せ細っていて、鉱山もない。資源がほぼゼロに等しい土地のはずよ」
アトラスはその回答に小さく頷いた。
「そうだ。表面上、ヴァスタスには何も無い。だが俺は昨夜、魔導列車のエネルギーをどこから賄うと言った?」
セラフィナは疑問に思う。
「地脈から吸い上げるって言ってたわよね。……でも、おかしいわ」
「ルミナール王国内を通る二つの巨大地脈は、ここには通っていない。もし他にも大きな地脈があったら、王国が見逃すはずがないもの」
その回答を待っていたかのように、アトラスは歩みを止めて振り返った。
「そうだ。普通なら、見逃すはずがない」
「え……?」
「だが実際は異なる。……診てもらった方が早いだろう。ノクス・アイ」
アトラスの手がセラフィナの目前を払うと、彼女の瞳に闇の魔力が薄い膜を張った。
次の瞬間、セラフィナの視界は一変した。
地面の下を、血管のように脈打つ巨大な「光の筋」が、何本も、力強く通っているのが見えたのだ。
セラフィナは驚く。
「っ……! 何、これ……」
アトラスは淡々と答える。
「今、魔力を可視化する魔法をかけた。見えている筋は、すべて地脈だ」
セラフィナは絶句し、地面を見つめたまま震えた声で言う。
「嘘……こんなに巨大な地脈が、何本も? なんで、なんで王国はこれに気づかなかったの?」
その問いにアトラスは解説するように答えた。
「定義の問題だ。通常、地脈は地下400メートル圏内を通るものとされている。その基準で測れば、ヴァスタスには極小の地脈以外は存在しない。……だがな、セラフィナ」
アトラスは静かに足元を指し示した。
「ここに見えるものは、地下800メートルを通っている。既存の調査網を潜り抜ける深さだ。だから王国は見逃した」
「そもそも、不思議だと思わなかったか? 水資源がこれほど豊かなのに、なぜ土地が痩せ細っているのか」
言われてみれば、その通りだった。水さえあれば、植物は育つはずなのだ。
「結論を言おう。地脈のエネルギーが強すぎるんだ。奔流する魔力があまりに巨大なため、土地そのものが耐えきれず、生命が根付く前に焼き尽くされている。いわば、豊穣すぎることによる不毛だ」
アトラスの瞳に冷徹な知性が光る。
「この地脈は大陸最大級と言っていい。魔導列車の動力源どころか、領地の全てを賄ってもお釣りが来る」
セラフィナは、その驚愕の事実に目を見開きながらも、ふと疑問を口にした。
「……マスター。なんで、私にこんな重大なことを話すの? 黙っていても支障はなかったはずよ」
アトラスは視線をセラフィナへと向け、静かに言葉を紡ぐ。
「確かにな。だが、話す理由は確かにある。……お前が共犯者であるという信頼。そして、もう一つは俺なりの『詫び』だ」
「詫び……?」
予想外の言葉に、セラフィナは呆然とする。
「これから先、俺たちは高い確率で王国と正面から対立することになる。そうなれば、お前の願い――保護権管理院の打倒をすぐに叶えることが難しくなるだろう。表立って潰しに行く機会が遠のく。それに対する詫びだ。すまない、セラフィナ」
そう言って、アトラスは静かに頭を下げた。
アトラスにとって、ヴァスタスの最大機密である「命綱」を教えることは、自らの命をセラフィナに預けるのと同じことだった。それが彼にできる、誠意の証だった。
その言葉を聞いた瞬間、セラフィナの目頭が熱くなった。
『私との約束を、ちゃんと覚えていてくれた。謝る必要なんてないのに……謝ってくれた。やっぱり、この人はどこまでも優しい。冷たいフリをして、誰よりも背負い込む人だ……』
『やっぱりこの人に自分の未来すらも預けてもなお着いていきたいと思ってしまう。王の器をマスターは持っている……』
彼女は、自分の中に芽生えた確信に近い感情を、涙と一緒に飲み込んだ。
「信頼してくれるのは嬉しいけど、約束は絶対に守ってよね! マスター!」
セラフィナは茶化すように笑い、あふれそうになる想いを隠した。
王国が見逃した深層の地脈。それは、アトラスという一人の男の手に渡り、ヴァスタスの最強の武器へと変わりつつある。
王国は、もっと地下を精査すべきだった。
そして何より――アトラス・アウローラという男の「器」を、もっと警戒すべきだったのだ。
その痛恨の失策に王国が気づくのは、まだ先のことである。
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