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3話:この世界では職業が神からもらえるそうです

昨夜19時にも投稿しました。

ついに職業が判明します。


「これは……すごいな」

ふと先程死んだ熊の事が気になりその死体を見に行った俺は拾ったそれをじろじろ観察する。


「どうしたの?」

座っている俺の肩の辺りから一ノ瀬が顔を出して声をかけてくる。


「これを見てくれ」

俺は手に持った物を一ノ瀬に見せる。

「紫の石?」

俺が見せたものはひび割れた野球ボールくらいの紫色の石だった。


「ああ。死体の胸の辺りが急に溶けてでてきたんだ」

この熊、ただの熊かと思ったけど、どうやらモンスターという奴なのかもしれない。


「へぇー、不思議な事もあるのねー。何持っていくの?」

「ああ、一応持ってくよ……と、大事にしまわないとな」

俺はひび割れている石をタオルで包んでそっと鞄にしまう。その時ふと笑みがこぼれてしまった。

「何? 何であんた笑ってんの?」

「いや、お前は人の事言えないだろと思ってな」

今目の前で息絶えてる熊を殺ったのは急に不思議な力に目覚めた一ノ瀬だ。


「本当にもうさっきのように出来ないのか」

「う、うん。私も試したけど全然さっきみたいな力はでない」

一ノ瀬自身も無我夢中の事だったらしく、先程力をいれているイメージでもしているのか唸っている所を見た。

どうやらあの力は今は制御出来ないようだ。


「まぁ、今は気にする必要はないだろ」

「もう人が住む所につくようだしね」

「じゃあ、そろそろ行く……か」

「えっ」

俺が横を向くと同じように横を向いた一ノ瀬の顔が間近にあった。


すぐ近くで話していたのを忘れていた。

茶髪のショートに星と太陽のヘアピン。

猫みたいに少しつり上がった目艶やかな唇が目の前にくる。

忘れてはいけないが一ノ瀬は学校でもトップクラスの美人で有名だ。

それが目の前にきている。

俺が固まってしまってもしょうがないだろう。


「ちょちょ、ちょっと、なっ、何みてんのお……いたっ」

「ぷっ、なんだよ、お、ってよだろ」

「うっ、うるさいわね。少し噛んだだけでしょ」

よかった。一瞬変な感じになったが、やっぱりこの雰囲気の方が俺達らしい。


「る~くん~」

「おう、亜里沙」

俺達が人里を目指せるのは俺の事をるーくんと呼ぶ幼馴染みの水無瀬亜里沙のおかげだ。


最初は正直人里を感じると言った亜里沙に半信半疑だったが、一ノ瀬の力を見た今は本当だと確信している。


「そろそろ行くの~?」

「ああ、もう着くんなら急いで行きたいからな。案内頼むな」

「まかせてね~。えへへ」

「何笑ってんだ?」

「えへへ~。何かる~くんの役にたてるのがうれしくて」

「変な奴だな」

昔からそうだ。亜里沙は人が喜ぶと自分まで嬉しくなるような奴だった。


にへらと笑う亜里沙を見ていてふと思う。童顔で巨乳な亜里沙は一ノ瀬と同じくらいの人気をほこっている。


そんな二人とよく居た俺ってもしかしたら男子にかなり嫌われてたんじゃ……ま、まぁ、異世界に来た今、そんな事関係ねーし、遊びに行ったりした記憶あんまないけど……へ、平気だし。


「る~くん、泣いてるの?」

「はっ、ハァー、泣いてねーし。目にゴミが入っただけだし」

「ええ~、だいじょうぶる~くん!」

本気で心配そうにしている亜里沙に大丈夫だよと言ってから俺達は熊に追いかけられたせいで僅かに遠くなった人里へと歩を進めていく。



「おっ、おおおおお!」

森林を抜けて一時間程歩いた俺達は人が住む町が見える所まで来ていた。


石造りの壁に鉄のような物でできた門がある。そこから見える景色はレンガで作られた家に道。道に連なる商店に時折通る馬車、給仕服のようなものを着てパンを売っている少女、道行く人に声をかける商店のおじちゃん。そこは、紛れもなく俺が想像していた異世界の町だった。


「おおおおおおおおお!!」

「うるさいわ!」

興奮しまくっていたら一ノ瀬が頭を叩いてきた。


「わ、悪い。少し理性を失ってた」

「ったく、本当に憧れてたのね」

「る~くん、うれしそ~」

「ああ、本当に嬉しいぞ。ここまでこれたのもこの場所を教えてくれた亜里沙に熊を倒して一ノ瀬のおかげだ。ありがとう」

俺一人では間違いなく何もできずに死んでいた。


「そんな頭なんて下げなくていいって」

「そうだよ~、る~くん」

「でも感謝は伝えたくて」

「いいって、私もあんたらと来れて少し楽しみだし」

「亜里沙もだよ~」

ああ、これが異世界効果なのか。一体感がすごい生まれる。さすが異世界だぜ!


「そこの坊主達何してる」

突っ立てる俺達を見かねたのか門番らしきオッチャンが声をかけてくる。


「えっ、どうすんのよ」

「どうしようね~」

一ノ瀬と亜里沙は知らない世界で知らない人に話しかけられた事に戸惑っている。


「ここは俺に任せろ」

ここまで見せ場のない俺ははりきって門番のオッチャンと向き合う。


「実は俺達道に迷っていて」

俺は異世界物の定番の言い訳をしようとする。

「ああ、そういうのいいから。俺達の仕事は町に入るのかどうか聞くだけだから」

オッチャンは面倒くさそうに言う。

門番の仕事は町に来た者の話を聞く事も含まれると思うがこのオッチャン、スゲーヤル気無さそうだぞ。


「あっ、はい。じゃあ入ります」

言い訳はできなかったけど結果オーライならいいよね。

「じゃあ、犯罪者じゃないか水晶で確認するから」

そう言ってオッチャンは水晶をつきだす。

「えっ、何を見るの?」

いきなりつきだされてもやり方が分からない。


「ハァ、何って職業を見るんだろうが、隠そうとしても犯罪を犯した者は水晶で見れば分かるんだからな」

「しょ、職業ですか」

やばい、異世界に来たばかりの俺達に職業なんて無い。それがなければ町に入れないなんて事になったらどうするんだ。


「もしかして、坊主が居たのって田舎の方か?」

「ええ、そうなんです。それで目的の場所の道がわからなくてここに来たんですけど、よくわかりましたね」

田舎出身というのは異世界物では常識だ。

それにこの言い方からこの場所が田舎では無い事もわかった。

オッチャンは頭を掻いてから参ったなーとでも言いたげな顔をする。

「たまにいるんだよな。超田舎の育ちで職業を調べてない奴等が……わかった。ついてきな。今から職業を調べるぞ」

俺達はオッチャンに連れられて町に入っていく。



「ねぇ、伊勢。この人達怖いんだけど」

「しょうがないだろ。俺達の事を信用してないんだよ」

俺達の前後左右では鎧を着た男達が剣を装備してこちらを見ている。

職業というのを知らない俺等は怪しまれている警備のために監視されるのも当然か。

「俺達にやましい事はないんだ。気楽に行けばいいさ」

「ほら、ついたぞ」

足を止めた門番のオッチャンが指差したのは幾つもの柱がある白亜の建物だった。


門番のオッチャンの案内のもとに建物の中に入っていく。

「こりゃスゲーな」

ローマの神殿のような建物の中は汚れ一つなく清潔に保たれたいる。恐らく一日の間に何度も掃除しているんだ。

だとしたら今向かっている所はこの村の者たちにとって大事な場所ということか。

「おい、キサマあまりキョロキョロするな」

ちっ、建物中を観察していたら鎧を着た男に怒られた。


怒られるのでおとなしく歩いていたらオッチャンが足をとめる。

「ここだ」


案内されたそこは一際尊厳さに溢れる所だった。

まず視界に入るのは美しい女神の石像。そして女神の石像の手には職業を調べるのに使うのであろう水晶が乗っかってある。

そして石像に見下ろされるように膝をついて何かを祈っている男……と、そこまで考えた時に気づいた。

俺はさっきこの場所を神殿のような建物と思ったけどここはじっさいに神殿だったのだ。そう思わせる神聖さがこの空間にはある。荘厳な部屋に俺達が声を発せずにいると石像の下にいた人物が近づいてくる。


「おや、彼らが職業を持たぬ子らですか」

「はい、そうです。司祭様」

現れたのは足元まで続くブカブカの黒い司祭服を着た門番のオッチャンの言う通り司祭だった。

司祭は金色の髪に翠の目の好青年だった。

年齢は恐らく三十前後。随分と若いな。


「私はアストレア教司祭のエドワードです」

エドワードは胸に手を当てて軽く会釈してくる。

こっちも名乗るべきか。


「私はワタルという者です」

俺はエドワードと同じように軽く会釈する。

「わっ、私はアカリです」

以外とテンパリやすい一ノ瀬は慌てぎみに会釈して、

「亜里沙は亜里沙だよ~」

亜里沙はいつも通りにのほほんと名乗る。


「ワタル様、アカリ様、アリサ様は職業をお調べでないということでよろしいですね」

「はい。俺達は三人とも職業を持ちません」

俺達が名乗れる職業があるとしたら学生くらいなもんだ。


「そうですか。なら職業について軽く説明をさせていただきます」


エドワードさんにされて俺がわかった事を簡単にまとめるとこうだ。


・この世界では幼い頃に職業を調べる。

・この職業は神がくれる。

・職業は幅広くある。

・職業の自由度は上位のものになるほど狭まる。例えば市民と出れば、基本的に何でも出来るがわずかな力しか持たない。

逆に百年はでていないらしいが勇者などの上位ランクの職業になると強力な力を得るが市民みたいな自由はなくなる。

・職業を与えるのは神だけではなく悪魔もらしい。

・その悪魔から職業をもらったものが魔族と呼ばれている。

・魔族になるものは悪人が多い。

・そして、この世界にはモンスター等がいて、人々は地球では無かった魔法やスキルを使える。

とまあ、俺が得た情報はこんな感じだった。


そして説明を聞き終えた俺達は職業を調べるために水晶の前に来ていた。


……やばい! ちょうわくわくする!

何の職業になるのだろうか。

強力な力でモンスターや魔族を倒し皆の平和を守る勇者だろうか、それともこの世界にはあるという魔法を使う魔法使いだろうか。

なんにせよ楽しみだ。


「では、どなたからやりますか?」

エドワードが最初にやるものを聞いてくる。

ここはやはり男の俺がやるべきだろうか。

そう思った俺が声をあげようとした時だった。


「私がやるわ」

一ノ瀬が先にやると言い出した。

「なっ、いいのか一ノ瀬」

「私こういうのは早く終わらせたいのよ」

一ノ瀬はめんどくさそうにしている。コイツは職業の重要さを理解していないのか。

「まぁ、別にいいよ。亜里沙は?」

「亜里沙も別にいいよ~」

順番にこだわる必要は無いだろうと俺も亜里沙も一ノ瀬に譲る。


「じゃあ触るわよ」

石像のしたまで歩いていった一ノ瀬はためらうことなく水晶に触れた。

――――ピカッ!!

その瞬間石像が強く光を発する。


「うわっ」

「わわっ」

「これは!」

この部屋にいる全ての者が突然の光に驚き慌てて腕で目を覆う。

それから数十秒たつと光が消えたのを感じる。


「一体何なんだ……一ノ瀬わかるか」

俺が一ノ瀬の方に視線を向けると一ノ瀬は顔を水晶に向けたまま固まっていた。そういえば一ノ瀬の悲鳴は聞こえなかったけど水晶を見ていたからか。

「って、何固まってんだよ」

一ノ瀬は水晶に顔を向けたまま動かない時間が十秒、三十秒と延びていく……おい、まじでどうしたんだ。


「おお、おおお、まさか勇者を見れるなんて」

エドワード司祭が声を震わせて感激している。

エドワードの言葉にまさかと思い一ノ瀬に近づき手元を見ると確かにそこには勇者の文字があった。


「はは、私、勇者になっちゃった」

そこで振り向いた一ノ瀬の頬はおもいきり引きつっていた。


「おおおお! 神よ!勇者が誕生されたのですね」

エドワードは腕を天に突き上げて喜んでいる。その喜びようは涙を流しかねない勢いだ。百年ぶりなんだから嬉しいのはわかるけど随分と大袈裟だな。


「ねぇ、早く次の人がやってよ」

注目された一ノ瀬は面倒くさそうに次の人に交代するように促す。


「じゃあ次こそは俺が」

「えい!」

俺が水晶の近くにいたし次は俺の番だと手を水晶に翳そうとするといつの間にかに地殻に来ていた亜里沙が横から手をだして先に水晶に触れた。


「あっ、バカ!」

またしても像が発光する。

反応が遅れた俺は急いで目を閉じるが目が痛い。

くそ、何も見えない。


「わぁ、大魔術師だって~」

俺が目から涙を流しながら痛みをこらえているとのほほんとした亜里沙の声が聞こえてきた。

大魔術師、間違いなく強力な職業だ。


「おお、大魔術師まで」

痛みが引いて目が見え始めるとエドワード司祭が涙を流して喜んでいる姿が見えてくる。

この反応やっぱり珍しい職業なのか。


これで二人が強力な職業を得た。

流れ的には俺も強力な職業を得るか、はたまた俺だけ最弱の職業になる所だよな。


「じゃあ次は俺が行くぞ」

「落ち着いていくのよ」

「る~くん、大丈夫だよ~」

一ノ瀬と亜里沙に励まされながら水晶に手を向ける。


緊張でカラカラになった喉を生唾で潤そうと何度も嚥下する。

どっちだ。強いのか弱いのか。いや、きっと強力な職業だ。

自分にそう言い聞かせながらゆっくりと手を水晶に近づけていく。

いや、この際普通の村人でもいい、色々な可能性があるからな。頼む、最悪でも村人に抑えてくれ。

そっと俺の手は水晶に吸い付くように置かれる。


瞬間部屋を光が満たす。

今度は水晶の方を向き念のため目をつぶる。

頼む頼む頼む頼む、出来れば強力、最悪でも普通の職業にしてくれ。


光が収まッた後俺は恐る恐る目を開ける。

頼む! いいやつこい。

そう願った俺はその数秒後一ノ瀬とは別の意味で固まった。


俺の目に映った文字は――――――――――ヒモだった。






今話で職業が分かり、次回は定番の冒険者回です。

そして、職業ヒモとは何なのか、それも次回判明する予定です。

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