12話:氷の城の魔王様
やっと魔王様の出番です!
ヒソヒソヒソヒソ、ギルドに入った俺を見て男共が何かを囁きあっている。
大方一ノ瀬と亜里沙と一緒にギルドに現れた美少女は何者かと話し合っているのだろう。
―――その美少女は男なんだけどな。
そう俺はギルドに来る前に少女に変身していた。
顔立ちは元々中性的だったので軽めのメイクで髪の毛はウィッグを、服はTシャツに胸元を隠すのと防寒のためにコーディガンを着る。下半身はピッチリ張り付くズボンに膝当てを着けた軽装備だ。
「何でこんなに見られるんだよ」
ジロジロ見られると何だか落ち着かない。
「仕方ないわよ。あんた可愛いし」
そう。女装姿の俺はぶっちゃけ一ノ瀬達にひけをとらない美少女だった。ギルドに来る前に宿屋の娘のカンナに見せたら驚愕してたし。
「一ノ瀬様に水無瀬様それと……」
受付に着いた俺達に受付嬢の(名前をレイン)さんが
応対するが俺の所に目を向けた後首を傾げている。
「レインさん。俺です」
俺の声で目の前の美少女が実は男だと気づいたレインさんはあっ、と声をあげる。
「もしかしてい――うぐっ」
俺の名前を呼ぼうとしたレインさんの口を一ノ瀬が手で塞ぐ。
「ちょっと内密に話したい事があるんだけどいい?」
一ノ瀬のお願いというか強迫にレインさんはコクコクと頷く。
今さらだけどコイツは本当に勇者なんだろうか。
「――なるほど。女性限定の依頼に伊勢様をですか」
受付の裏で事情を話終えた俺達にレインさんはフムと口に手を当てて何事かを考えている。
それにしても急に連れ込んだ俺達に怒らずそれどころか真摯に話を聞いてくれるレインさん、マジ天使だわ。
「…………依頼を受ける事は可能です」
俺達の話を聞いたレインさんは許諾してくれた。
「本当!」
一ノ瀬が飛びかからんとばかりにレインさんに問いかける。
「はい。依頼主の要望は女性限定の他に見目麗しい人物とのことでしたので……その、伊勢さまなら問題ないかと」
レインさんは何度も俺をチラ見してくる。
「見目麗しいねぇ……」
何でそんな条件をつけたんだ? 俺は疑問をおぼえると同時に納得もした。
その条件なら一ノ瀬と亜里沙はぴったりだ。
だからこそ二人に白羽の矢がささったのかもしれない。
「依頼主様のいうところによるとどうやら城には男性を魅了する何かがあるとか」
「はぁ?」
「不思議がるのも分かりますが実際に城の調査に行った男性の皆様が何かに魅了されたように虚ろな目をして戻ってきまして」
「えっ」
レインさんの言葉に一ノ瀬が反応する。
「ちょ、ちょっと待って。私、そんな事聞いてないわよ」
そういえば一ノ瀬の話では怪我をしたものがいないって話だったしな。
「いえ、一ノ瀬様。事前に言ったとおり誰も怪我一つ負っていないません。ですのでまだ高ランクの依頼には認定されていないのです。ただ男性だと何かをされるというのも確かです」
「うん? でもそれならいくら女装してもダメなんじゃないですか」
何に魅了されたかは分からないけどもしそれが男全員に対して効果を発揮するとしたら見た目以外の物で男と判断しているだろうし。
「ええ、恐らく。しかし……」
そこでレインさんは少し口ごもる。何か言いにくい事を言おうとしている感じだ。
ああ、なるほど。大丈夫かどうか、それを確かめるために許可をだしたのか。
「申し訳ございません」
俺が理由を察したと気づいたのかレインさんは心底申し訳ないと謝ってくる。
「別にいいですよ、どうせ依頼は受けるつもりでしたし」
何せ俺が冒険できるのはコレが最後かもしれないんだ。謎に満ちた今回の依頼は是非受けたい。
「でも、いいんですか? レインさんの独断で決めても」
冒険者に試しに行かせるなんて受付嬢の権限の範疇を確実に越えている。
「はい。上からの指示なので……すいません」
「いえ、いいんですよ」
連絡している素振りはなかった。この部屋を何者かが盗聴でもしているのかもしれない。
「皆様のためのギルドなのに本当に申し訳ございません」
レインさんはものすごく落ち込んでいる。
そんか落ち込んでいるレインさんのために話をかえるのにちょうどいい疑問があったので聞くことにした。
「あれですか? 依頼の条件に美しい女性って所がありましたけどそれにも理由が?」
「いえ、そういうわけではございません」
つまり理由もないのに美しい女性が良いってことか。依頼主、間違いなく男だな。
「ねぇ、伊勢、そろそろいきましょう」
一ノ瀬が待ちかねたのか俺の肩をトントン叩きながら促してくる。
「そうだな」
俺もできるなら早く行きたかったし。
「レインさん。俺達もういきますね」
俺がレインさんにそう言うとレインさんは祈るように両手を組む。
「では、伊勢様達が無事に戻ってこれるよう心からお祈りします……それではいってらっしゃいませ」
レインさんは申し訳なさからか目のはしに涙を浮かべながら俺に向かって微笑んでくる。
……マジ天使!
依頼を受けた俺達は村をでて転移した時や初依頼の時に来た草原の更に奥に進むと見えてくるブラックマウンテンというすげー聞き覚えのある山の麓に来ていた。
何でも城が立てられているのがこの山の中間辺りらしい。
「まっくろくろすけ~まっくろくろすけ~」
一番前を歩く亜里沙は黒色が好きだったりするので真っ黒の山を見て先程からずっとテンションが高い。
「ま、まだ着かないの?」
以外とビビりな一ノ瀬は亜里沙とは逆にテンションが低めになっている。
「もうそろそろなんじゃないか?」
依頼書の地図ではもうすぐのはずた。
「うぅ~、早く着きなさいよ」
一ノ瀬は体を縮こまらせている。これ、もし敵が来たら戦えんのか。俺は一ノ瀬の後ろを歩きながらそんな事を思う。するとずっと気になっていたことを聞くことにした。
「なぁ、一ノ瀬」
「な、なによ」
「いや、その剣なんだけどさ新しいやつ?」
亜里沙はローブに杖、一ノ瀬は金色の鎧に前まで使っていた銀色の長剣ではなくて鎧と同じ色の剣を帯刀していた。
「ああこれ? あんたと依頼に行くって話になったからもっと強くなろうと思ってエドワードさんに相談したのよ。そしたら貴方なら使いこなせるでしょうって何かくれたのよね聖剣を」
「やっぱり!!!!!」
ガシッと一ノ瀬の肩を俺は掴む。
「やっぱそれ聖剣なんだよな。不思議な雰囲気があったし勇者の剣だもんな。なあ、それをよく見させて、触らして、頬擦りさせて、舐めさしてくれ!!」
「えっ、何か怖いからやだ」
がーーん。断られたショックで俺は地面に両手両膝を地面につけてしまう。
「わ、わかったわよ。少しだけだからね」
一ノ瀬は腰に手をやり剣を鞘ごと俺に渡そうとしてくる。
「一ノ瀬、ありがどう」
「何泣いてんのよ。フフ」
泣きながら受け取ろうと手を伸ばす俺を見て一ノ瀬が微笑んでいる。
でも、いいんだ。聖剣を触れるなら―――
「る~くん。みえたよ~」
「亜里沙本当!」
一ノ瀬は少し先にいる亜里沙の方に駆けていってしまう。
俺は膝をついて両手を剣を受けとるための体勢のまま固まる。
あぁぁぁぁりぃぃぃさぁぁぁぁぁ。
俺は逆ギレ気味に一ノ瀬と亜里沙が居るところにずかずか歩いていく。
「こらぁ! 亜里沙お前のせいで聖剣に触り損ねたじゃないか」
俺が怒鳴っても亜里沙と一ノ瀬は反応せずに上の方を向いていた。
「何無視してんだ……よ」
亜里沙達のもとに着いた俺は二人が見ていたものに目が釘つけになってしまう。
「まじで城だな」
見た目はヨーロッパのような城だ。
大きさは城だけあって大きい。何で俺はさっき気づかなかったんだと言いたくなるくらい大きい。
しかも、その城は普通の城とは違う点があった。
「あれは氷か?」
山は木に囲まれていて光が入らないからよく見えないが城から冷気のようなものが放たれている。
「伊勢、あれは氷魔法で作られた城よ」
「それだけじゃないよ。る~くん。あのお城近くに来ないと分からないように認識阻害の魔法がかかってる」
一ノ瀬と亜里沙によって俺の予想が正しかった事が分かり疑問も解決した。
「てことはあの中には魔法使いが居るってことか」
「うん。多分亜里沙よりもずっと強いよ」
今や亜里沙もそこそこの力をつけている。その亜里沙がずっと強いって言うってことは本当に強い魔法使いが城にはいるかもしれないのか。
「まぁ、とりあえず入って確かめてみるか」
今までは怪我した者はいないというしもしかしたら誰も居ないってこともあるしな。
「ダメよ伊勢」
「えっ」
俺が城に入ろうとすると一ノ瀬が服の襟をつかんで止めてくる。
「お、おい、何すんだよ」
「この城を作った奴は悔しいけど私よりも強い。ここは帰るべきよ」
「はぁ、今さら何言ってんだよ。ここまで来といて」
一ノ瀬の手を払おうとするけどびくともしない。
「うるさい。いいから帰るわよ……ってキャッ」
「な、なんだよ」
突然可愛い悲鳴をあげた一ノ瀬を振り向いてみるとどうやら空を飛んでいるコウモリに驚いているようだった。
「へぇ、この世界にもコウモリっているんだな」
「何呑気な事言ってるのよ! 伊勢あれなんとかしなさいよ」
一ノ瀬は涙目で無茶な事を言ってくる。
というかコウモリも駄目なのか。コイツ、以外と弱点多いな。
「いや、空飛んでるんだから無理だよ」
「じゃ、じゃあ、亜里沙の魔法で……ってキャアーーー!!」
亜里沙に追い払うように一ノ瀬が頼むとそれを察知したのかコウモリが一ノ瀬に迫る。
「イヤイヤイヤイヤーーー!」
一ノ瀬はいやいや言って暴れまくる。
「痛たっ、お、おい、暴れるなら俺から離れろよ」
一ノ瀬は俺の服を掴んだままもう片方の手を振り回すから俺の頭にぶつかって痛い。
それが何度も続いていると俺は少しイラついてくる。
「おい! いい加減に」
「イヤァーーー!」
「ぶうぇはら」
いい加減にしろ! と俺が言おうとしたらコウモリに対してビビりまくっている勇者の一ノ瀬が頬を殴ってきた。
しかも、慌ててるためか手加減を少し間違えたのか俺の体は吹っ飛んでいく。
「る~くん!!」
亜里沙が珍しく目を見開き声を慌てたものにするのが見えた次の瞬間に俺は城の扉に突っ込んでいった。
……ああ、やっぱ冷たい。
俺がそう思った瞬間扉がひとりでに開き俺の体は城の中にと入ってしまった。
「イヤァーーー!」
「る~くん!!」
コウモリに驚いている一ノ瀬、俺の方を見て叫ぶ亜里沙。そして閉まり始める扉を最後に俺の意識は途絶えた。
俺は夢を見ている。そう自覚できる事を明晰夢というんだっけか、とにかく俺は今夢を見ている。
それはまだ雪乃がいる頃の夢を見ている。
「ねぇおにいちゃん。雪乃、いつかお姫様になりたい」
幼い頃の雪乃の夢はお姫様になりたいというありふれたものだった。
「じゃあおうじさまは?」
「うん! 雪乃おにいちゃん大好きだからおにいちゃんがおうじさまだよ」
「ほんとう! おれも雪乃だいすきだよ」
「エヘヘェ」
雪乃は俺が好きと言うとよく嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
「じゃあおれたちのお城はどんなのにする?」
「雪乃もう決めてあるんだ」
――――氷のお城に雪乃はすみたいの。
「う……うっ」
「おぉ、おぉきいた?」
夢から覚めて目を開けると声が聞こえてくる。
くそ、ぼやけてよく見えない。
視界をハッキリさせようと何度か目をぱちくりすると明瞭に見え始めてくる。
それにしても暗いな。
「おぉい。きこぉえてる?」
先程俺を呼びかけた声の主が俺を見つめてくる気配がする。
「ああ、はい。聞こえてますぅーー!」
段々と目が慣れてきた俺は驚愕する。俺を起こしたのは二本の触手にゼラチン状にプルプル震える水色の生き物だった。
「お、おいおい、まさかのスライムじゃん!」
まさかモンスターの定番であるスライムをこんな所で見れるとは。
「どおぉやらおぉまえは平気みたいだな」
スライムはプルプル震えながら話してくる。
おお! ちょっとおかしなところもあるけど話せるのか。
「あ、あの、俺を襲わないんですか?」
こんなことを言うのは薮蛇かもしれないけどあまりにもスライムから敵意を感じなかったのでつい聞いてしまった。
「なぜおぉれがおぉ前をおぉそう?」
「いや、モンスターですし」
「それを言うならおぉ前もおぉれを襲わない。今まで来たやつらはちがったのぉに」
「あ、はいそうですね」
スライムに論破されちゃったよ。
「それにおぉれはまおぉう様に自分からは人間をおぉそうな言われてる」
「そうなんですかいい人何ですね魔王様って」
何たって魔王なのに人を襲わせないんだもんな……
「えっ、あのー、その魔王様って今この城にいるんですか?」
ダラダラダラダラ、冷や汗がどんどん流れていく。
「おぉ! いるよぉ、まおぉうさまー。平気な人間が来ましたよぉ」
スライムが魔王様とやらを呼ぶ。
「いや、呼ばなくても別に」
俺がそう言った時城に明かりがつく。
「うっ」
暗闇から突然明るくなり目を痛めた俺は呻きながら目を押さえる。
「ほう。その者がそうかスラリ」
足音と共に現れた少女らしき声がスライムの名前であろう名称を呼ぶ。今の声の主が魔王なのか?
「はい。そおぉです」
「ほう。まさか我のテストに合格する人間がいようとはな」
間違いない。この偉そうな喋り方絶対魔王だ。
女だったのか。
「しかも女ですよ魔王様」
もう一人足音と共に少しハスキー気味の女の声が聞こえてくる。
「まぁ、男だったら私が切り刻んでやりますけど」
「フン。我の命なしには勝手な事はするな」
「御意に」
魔王と騎士のような奴の話を聞きながら俺は冷や汗の量がどんどん増えていくのを感じる。
ヤバイ! 絶対に男だとばれるわけにはいかないぞ。
「おい、そこの女。魔王様の御前だぞ、顔をあげないか」
「は、はい」
騎士のような女に言われて急いで顔をあげる。
ちょうど目の痛みも引いてきた。
「ほう。これは中々可憐な女ではないか」
「は、はいありがどうございます」
俺はお礼を言うと同時に目を開ける。
――――その瞬間俺は息を呑んだ。
目の前にいた魔王はまだ中学生位の幼い少女だった。艶やかな黒髪に一ノ瀬のような体型に亜里沙のような可愛い顔付きをした年齢相応の少女、幼さの中に僅かにのぞく大人に近づいている証の色気、魔王は絶世の美少女でこれなら確かに男なら魅了されてもおかしくないと思う。しかし、俺が驚いたのはそれだけじゃなかった俺の記憶よりも成長しているけど間違いない。
「雪……乃?」
魔王は俺の妹、伊勢雪乃だった。
一章も残り半分をきりました。本日中に書けるだけ書こうと思います。




