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1話:異世界に憧れを

異世界に渡った俺の職業はヒモでした

1話始まります。


俺こと伊勢渉が異世界の存在を最初に信じたのはいつだっただろう。


確か5歳の時に読んだ絵本だったような気がする。小さな子供なら絵本の中の物語を実際にある事だと信じるのはよくある事で、年月を経る毎にその存在を信じなくなっていくのもまた自然の事だ。

実際俺も十歳になる頃には異世界等ファンタジーの物語にでるような世界を信じなくなっていた。


十二歳の時だった、俺は今でもあの時の光景を鮮明に覚えている。


五メートルを超える大きな扉。両開きのそれには左に天使とそれが仰ぐ女神が、右には魑魅魍魎が跋扈する様子が描かれていた。

――そうそう、真ん中にも何か描かれていたけどくすんでいてよく分からなかった。

突然目の前に現れた扉に当然俺と妹は驚いた。

妹だけが引きつけられるように扉に近づいてくなか俺はただ呆然と立ち尽くしていて……そして俺は見た。開かれた扉から広大な草原と、幾つも連なる山々、物語にでてくるような巨大なドラゴン。



それから五年たった今十七歳の俺はというと、


「それじゃあ母さん! 今日こそ異世界に行ってくるよ」

「ハイハイ、見つけられるといいわね」

すっかり異世界を信じて日々あの異世界に渡るための扉を探している。


「る~くん~、おはよ~」

異世界で使う色々な物を詰めたバッグを肩にかけて意気揚々と家を飛び出した俺に隣の家の幼なじみの少女が声をかけてくる。


「おー亜里沙おはよう」

俺の事をる~くんと呼ぶこの少女は名を水無瀬亜里沙という。

白人の血が混じっているらしく真っ白な肌と灰色の髪をしている。

学校では可愛い顔立ちと抜群のスタイルによって男子から人気があるようだが何年も一緒にいてこいつの事を知っていくとそういう事をあまり思わなくなる。


「今日も異世界の扉を探すの~」

幼なじみの亜里沙は俺の妹の事や過去におきたことを知っている。

「ああ、早く異世界に行きたいからな」


「がんばろうね~」

亜里沙は「エイエイオ~」と腕を突き上げる。

亜里沙は異世界を見たという俺の言葉を親さえ半信半疑なのに信じてくれて、こうして応援までしてくれる良い奴だ。


「ゆきのちゃんに早くあいたいね~」

「そうだな」

雪乃とは五年前に扉の向こうに行った妹の事だ。きっと扉から見えたあの世界にいるはずた。


「だけどる~くん。異世界に行くときは亜里沙も一緒にだよ~」

亜里沙は少しまるめの眉をつり上げて「絶対だからね~」と念をおしてくる。

……またか。

「駄目だ。毎回言っているだろう」

亜里沙は5年前からずっとこうして自分も連れていけと言ってくる。

しかし、俺もまた拒否の言葉を毎日亜里沙に言っている。

だってそうだろう? 俺は母さん達には悪いけど異世界に行く覚悟はできている。でも亜里沙は、親も友達もいるこの世界から、どんな場所かもわからず、ましてや二度と戻れない可能性が高い異世界に連れていくことなんてできるわけがない。

まぁ、亜里沙の冗談だと思うけどさ。


「むぅ~、亜里沙だってかくごはできてるもん」

亜里沙はぷくぅ、と子供みたいに頬を膨らませて怒ってるぞとアピールしてくる。

「わかったわかった。遅れちゃうから早く行こうぜ」

そんな亜里沙に苦笑しながら俺は通学路を歩いていく。






「はぁー、あんたまだ異世界なんて信じてるの、バカみたい」

教室についた俺が目の前の席の友達に登校中の事を話したら返ってきた第一声がこれだった。


「別にいいだろ、誰にも迷惑はかけてねーし」

「迷惑はかけてなくても心配はかけてるでしょーーが! わかってるの、親御さんもそうだし、高校二年になっても異世界に行くなんて公言してたらみんなも頭が大丈夫か心配するでしょ、……何よりも亜里沙にかけてんのが駄目なのよ!」

友人の少女が美人の顔を鬼のようにして説教してくる。


「うぐっ、……一ノ瀬、キサマ、正論を言いやがって。それに亜里沙を引き合いに出すのは卑怯だぞ」

「ふん、反省しなさい」

一ノ瀬灯。俺と亜里沙の同級生にして友人だ。彼女とは2年前にある事をきっかけに仲良くなった。

一ノ瀬はたれ目で童顔の亜里沙とは違い少しつり目がちの美人系の顔立ちをしている。胸もまた亜里沙とは逆のスレンダーだ。これはわりと本人も気にしているようで前にからかったとき本気で殴られた。


おっとりしてる亜里沙と違い社交的で明るく、男子からは一ノ瀬派か亜里沙派かで話しているのを聞いたことがある。


一ノ瀬は肩まである茶髪についた太陽と星のヘアピンを触りながらため息を吐く。

「あんたねー、電波みたいな事を言うのやめればモテるのにもったいないよ」

「いいんだよ別に……俺はこれで、彼女作る気ねーし」

自分で言うのもあれだが確かに俺はモテてもおかしくないと思う。

頭脳も身体能力も異世界に行くときのために鍛えていたからそこそこの自信はあるし、顔も少し童顔だがイケメンの部類に入る。イメージはライトノベルの普通を名乗るくせにそこそこかっこいい主人公の顔だ。まぁ、今の異世界異世界言っている俺はモテないし、異世界に行ったら戻ってこれないて思っているので彼女を作ろうとも思わない。


「はぁ、高校二年生の言葉とは思えないわ、亜里沙もそう思うでしょ?」

「……………すぴー、すぴー」

一ノ瀬が亜里沙にも同意を求めたが亜里沙は机の上でグースカ寝ていた。


「忘れたのか、亜里沙は前もって念を押さないと長話の時直ぐに寝るって」

「そうだった。もう! こっちも高校二年生とは思えないわよ!」

一ノ瀬が頭を押さえて叫ぶが亜里沙は全く起きる素振りを見せない。

亜里沙のこの学校で眠り姫といわれるくらいよく寝ている。しかも寝ると中々起きないからたちが悪い。

あ行で席順を決めるこのクラスでマ行の亜里沙が俺の後ろの席なのはこういうふうに亜里沙がマイペース過ぎなのが理由だったりする。


「はぁ、もう! 亜里沙! 起きなさい亜里沙! ああ、何で起きないの!? もう、伊勢、あんたも手伝いなさい!」

もうすぐ先生が来る時間だというのに起きない亜里沙に業を煮やしたのか一ノ瀬が手伝いを求めてくる。


……はぁ、うるさいな。


「……ねぇ、伊勢、 あんた何やってんのよ」

「あ? 何ってラノベだよ。見りゃわかるだろ」

ラノベは良い、ある程度のパターンはあるがそれぞれが違う異世界の物語がいっぱいあるので勉強になる。

……ってあれ、俺が顔を本から上げると一ノ瀬の頬がひきつっていた。

「何であんたは少し目を離すと直ぐ本を読むのよー!」

「いってぇー!!」

一ノ瀬は俺から本を奪ってそれを頭に叩きつけたのだ。

何すんだと言いたいがハァハァと顔を赤らめながら怒る一ノ瀬の目の端には涙が浮かんでいて、俺は仕方ないと立ち上がる。



「分かったよ。お~い亜里沙~、……あと五秒で起きないと弁当没収な」

「……ハッ、る~くん、お弁当が何」

あっさりと目覚めた亜里沙はキョロキョロとしている。

「ほら、これでいいだろ」

俺は少しドヤ顔ぎみに一ノ瀬に顔を向ける。

「~っっっ、何であんただと直ぐ起きるのよ!」

何でだ。起こしたのに怒られたぞ。


「おまえなー、手伝えと言っておいてそりゃ理不尽だろ。それに亜里沙が起きるのは食べ物の話をしたからだ。俺だからじゃねぇー」

この点だけは注意しておかなければいけない。亜里沙は睡眠以外にも食欲もすごいのだ。

「ハイハイ、分かったわよ。亜里沙、もうHR始まるから寝ちゃ駄目よ」

「……ふぁーい、あかりちゃん……ふぃ~」

「ほら、人前で大きく口をあけない。あー、よだれたれてる!」

一ノ瀬が亜里沙のくちを口を拭いている。こうして一ノ瀬はよく亜里沙の面倒をみている。

姉妹みたいに仲良しな二人を見ていると俺も何だか嬉しくて笑ってしまう。




「んー、そろそろ帰るかな」

少しクラスメイトと駄弁った後俺は疲れた体を解きほぐすために大きく手を組んであげる。

さて、学校も終わった事だし日課の扉探しに行くか。

俺がそう思ったときトコトコと亜里沙が近づいてくる。


「ねぇーる~くん。今日は亜里沙も一緒に行っていい?」

「何だ? めずらしいな」

亜里沙は基本的に平日は家事の手伝いとかで真っ直ぐ家に帰っている。


「うん、今日はお母さんが手伝いはいいって……それに何か今日は一緒に行った方がいい気がするんだ~」

「ふ~ん、ならいいか」

一人で探すよりはましだしな。


「わ~い。る~くんといっしょ~」

亜里沙はにへらぁ~と笑う。

何だ? 扉を探すのがそんなに嬉しいのか。

俺が変な奴だなと亜里沙を見ていると今度は一ノ瀬が寄ってくる。


「亜里沙が行くなら私も行こうかな」

一ノ瀬が自分から手伝うと言ってくるなんて本当に今日はどうしたんだろう。


「なっ、何でだよ。またなんか奢らせるつもりか? 悪いが金はないぞ」

「何で私の時はそんな反応なのよ!」

警戒しながら聞いた俺に一ノ瀬は怒鳴ってくる。

「お前自覚ないのかよ。前手伝った時何杯パフェを俺に奢らせたか」

あの時はお小遣いの半分を使わされた。


「うっ、あの時は悪かったわよ。……でも今回はそのお詫びをかねた、ただの善意でやるのよ」

「本当かぁーー?」

「本当よ……」

何か企んでるのかと思い、じっと見つめると一ノ瀬は顔を赤らめながら逸らす。


「あー、まぁ、ジュースくらいなら俺がだすよ。だから手伝い頼むわ」

何となく気まずくなって俺はそう言う。

「うん……サンキュ」

一ノ瀬はニッコリとクラスの男なら惚れてしまうような可愛いらしい笑みを浮かべた。


平日はいつも来ない亜里沙に普段は手伝わない一ノ瀬が同時に来るなんて、何かしらの運命を感じる。もしかしたらとわくわくしながら俺は学校を出て扉を探しにいく。



もしかしたら――俺のそんな予想はあっけないほど直ぐにあたってしまった。


それは俺が住む町にある唯一の神社の階段を上っている時だった。


鳥居をくぐり、拝殿が目の前に見える筈の所に五年前に見たた扉があったのだ。その大きさは五メートルを超える鳥居と同じくらいだ……やっぱり大きいな。


「なっ、何よこれは!」

「る~くん。もしかしてこれが……」

一ノ瀬と亜里沙は幼い頃の俺と同じように突然現れた扉に驚愕している。


「ああ、そうだ! これが俺が待ち望んでいた扉だ!」

二人が驚くなか俺は五年の間待ち望んでいたそれに胸を高鳴らせて興奮していた。


カバンをギュット握る手が大量の汗でもかいてるのか少しぬるぬるする。

行けるのか、俺はついに異世界に行けるのか!

俺は扉に向かって歩を進めていく。


「ちょっと、何をしているのよ!」

「あっ?」

後ろから制止するかのような一ノ瀬の声に振り返る。

何をするかだって? そんなの決まっている。


「あれだ!俺はあれをずっと探していたんだよ!」

呼び止められた事で少しイラついた俺は興奮していることもあって声を荒げてしまう。

「あんたまだそんな事言っているの! あんなのただの扉じゃない! 誰かがイタズラで置いていったのよ」

違う。あれは間違いなくただの扉なんかじゃない。


「感じるだろ一ノ瀬! あの扉が放つ言葉にできない何かを」

「そっ、それは」

やっぱり感じるのは俺だけではないようだ。言葉にしにくいがこの扉に引き付けられるような、何かに呼ばれているような奇妙な感覚を一ノ瀬も感じているのだ。これは前には感じなかった。

もし、これが扉をくぐるための条件なら俺は行けるということだ。


「でっ、でも、それでもだめよ」

一ノ瀬は目を潤ませて俺の服をきゅっとつまむ。

本当に俺の事を心配してくれているのだろう。


「亜里沙、あんたも伊勢にいっ……」

一人では止められないと思ったのか亜里沙に加勢するように声をかけた一ノ瀬の声は、しかし、亜里沙の方を見て途切れてしまった。

「亜里沙?」

一ノ瀬が向いた先、つまり俺の視線の先ではいつものほほんとしている亜里沙が真剣な表情をしていた。

「行くんだね、るーくん」

だけど俺は知っている。亜里沙がこういう顔をする時は何かを決心した時だ。

「ああ、行くよ」

「それは雪乃ちゃんのために?」

「ああ、雪乃に会いたい。会って無事を確かめたい……だけどそれだけじゃない。俺は異世界に行きたいんだ」

幼い頃は信じていた。一度は現実を見た。だけどやっぱり異世界はあって、俺はとてつもなく歓喜し胸に憧れを抱いたんだ。

俺はきっと最低な奴なんだろう。親がとてつもなく心配して悲しむとわかっているのに憧憬を胸に自らそれを選択しようとしている。


「俺のかってで母さん達には迷惑をかけると思う。いつかは異世界に行くといってるけどそれでも心配すると思う……でも、それでも俺は憧れを捨てられない」

両親は雪乃が消えて本当に悲しんでた。それを少しでも埋めるかのように俺によくもしてくれた。だからこれはただのわがままだ

俺の想いを聞いた亜里沙は目を優しげに細めて微笑んだ。


「うん。るーくんはそうだよね。雨が降っても雪が降っても体調が悪くなっても、それでも欠かさずに毎日扉を探してたもんね。だからね亜里沙、るーくんは先に進んでもいいと思うよ」

「……亜里沙、あんたそれでいいの……伊勢を一人で行かせちゃっても」

「ううん、それはダメ。私も一緒に行くよ」

ニッコリと満面の笑みで亜里沙がそんなことを言った。

……って、


「「…………はぁーー!?」」

ついていく宣言をした亜里沙に俺と一ノ瀬は同時に驚きの声を上げる。


「ちょっ、ちょっと亜里沙! 何を言ってるかわかってんの!」

突然の宣言に一ノ瀬は戸惑っている。

「何言ってるんだよ。お前が来る必要なんてないだろ!」

俺も同じように困惑して一ノ瀬と二人して予想外の事を言った亜里沙を必死に止めようとする。


「ほら、あんたが行くなんて言うから亜里沙までこんなこと言ってんじゃん」

亜里沙の宣言が本気だと思ったのか一ノ瀬は再度俺に向かって怒鳴ってくる。


「なっ! ここで俺のせいにするのかよ!」

まぁ、原因は絶対俺だろうけど。


「ごめんね灯ちゃん。亜里沙も五年前からずっとるーくんと行くって決めてたから。るーくんにも前から教えていたしね」

「なっ! あれ本気だったのか!」

てっきり登校中のやり取りは冗談かと思っていたが、そういえば確かに亜里沙は5年前からずっと言っていたかもしれない。


「な、なんでそうなるのよ! 亜里沙も渉を止めればいいじゃない!」

「一ノ瀬……」

コイツが俺を名前で呼ぶときは本当に動揺しているときだ。

最後に呼ばれたのは二年前のあの時以来か。


「亜里沙には無理だよ灯ちゃん。五年前に雪乃ちゃんが消えた時、るーくん悲しんでたいたけど絶望はしていなかったの……それどころかいつか妹の所に会いに行くんだと、あの世界に行くんだ

と、そうずっと目をきらきらさせて話してくるんだもん。ずっと近くにいた亜里沙が止めるなんて事できないよ」


「じ、じゃあ何で亜里沙は行くの」

一ノ瀬は何故俺についていくのかを亜里沙に問う。

問いかけられた亜里沙は口に人差し指を当てて「う~んそれはね~」と自分が異世界に行く理由を話しはじめる。


「それはね~。る~くんを一人にしたくないからかな」

「どういう意味?」

「あっ」

一ノ瀬は分からないとはてなマークを浮かべてるが俺は亜里沙が言いたい事に心当たりがあった。


「あのねーる~くんがもし本当に異世界に行ったとしても雪乃ちゃんがその世界にいるか、いたとしても会えるか分からないでしょ~、そしたらる~くん一人になっちゃうもん。それはダメだよ~約束だもん」

そんな事深く考えた事がなかった。亜里沙の言うとおりの可能性を考えたことはあっても異世界で一人ぼっちになったらどうなるかを掘り下げて考えた事すらなかった。


「約束?」

一ノ瀬は亜里沙の言った一つの単語の意味を聞き返す。

約束――俺はそれを絶対に忘れない。


「うん。亜里沙が昔いじめられてた事は話したことあるよね」

「うん、少しだけど」

確かに亜里沙は幼稚園の時日本人とは違う髪の色や真っ白の肌の事でイジメられていた。そしてそれを助けたのが俺だった。その時から亜里沙は俺に懐き家が隣同士という事でよく遊ぶようになった。


「お前バカか。あんな約束ガキの頃の戯言だろ」

俺が亜里沙を助けようとした時、幼いながらも優しかった亜里沙は俺に向かって自分を助けると渉くんもいたいことされるよと俺に自分をほっとけと言ってきた。涙ながらにそう言った亜里沙をガキ特有のどこから溢れるのか分からない自信に満ちていた俺は、ならおまえと一緒にいれば俺は絶対一人にはならない。そんなこっ恥ずかしいセリフを言った。まさか今でも亜里沙がそれを本気にしてるとは。


「えへへ~、ごめんね。でも亜里沙あの時とっても嬉しかったから。だから亜里沙はる~くんといるの」

お母さんとお父さんには心配かけちゃうけどね。そう言ってにへら、と亜里沙は眉間にしわを寄せて笑顔をみせる。

だけど俺は亜里沙の笑顔が無理矢理の笑みだと気づいてしまった。

……そりゃ、やっぱ親と離れるのは悲しいに決まっている。


「いや、でもやっぱり……」

だから亜里沙に拒絶の言葉を発しようとした俺は言葉をとめる。脳裏に最悪の状況が思い浮かんだからだ。


「――わかった。一緒に行こう」

俺の考えが正しければ亜里沙も一緒に行った方がいいのかもしれない。だとしたら一ノ瀬にも―――


「あーもう、わかったわよ! 私もいくわよ」

俺が言おうとしたことを一ノ瀬は自ら言った。

「わ~本当!」

亜里沙は嬉しいのか手をぱちぱちしている。


そんな中、俺は心から喜べずにいた。

俺は先程扉から発せられている引力のようなものは人を強制的に扉に近づけるのではないかと思った。

それなら五年前俺が扉の向こうに行けず人見知りで臆病だった幼い妹が一人で消えた事にも一応説明がつく。

だが、もしここまでの推測が当たっていたらある問題がでてくる。

……この扉から発せられている何かを亜里沙と一ノ瀬も感じてるという点だ。もし俺が向こうに行った後一ノ瀬や亜里沙の前に再度扉が現れるかもしれない。そしたら亜里沙と一ノ瀬は引力のようなものに引きつけられて一人異世界に行ってしまうかもしれない。だったら俺と行った方がいいのかもしれない。

もちろん俺の推測が当たっているとは限らない。

だから本人の意思を無視しての無理強いはできないし、二人を連れていったとしてもどんな世界かも分からない所に行くわけだから一人で行くのとは違う責任という言葉が俺にのしかかってくる。

「何で行こうとする」

異世界に行きたい理由を俺は一ノ瀬に問う。


「別にいいじゃない。私親戚に嫌々養ってもらってるんだからいなくなっても気にされないわよ」

一ノ瀬は過去に家庭環境に問題があった。それをたまたま俺が解決して親戚に引き取られた。

一ノ瀬にはそもそも俺と亜里沙と違い家族という絆がない。


「でも、お前にはこれからがあるだろ」

家族に問題があっても一ノ瀬には友達が輝かしいものになるであろう将来がある。

「もし俺達に合わせて行こうとするなら……」

「あー、うるさいわね!! 私が本当に心を許せるのはあんた達だけだからよ!!」

一ノ瀬は顔を真っ赤にして怒鳴る。



「えっ」

カァァ……思わぬ告白に赤面していくのがわかる。

するとそんな俺を見て一ノ瀬もワタワタと慌て始めた。


「――ちょ、ちょっと赤くなんないでよ! こっちまで恥ずかしいでしょ」

「わっ」

「なっ」

顔を赤くした一ノ瀬が俺と亜里沙の腕をとってズカズカと扉に近づいていく。


「わ、わかったよ。一ノ瀬も一緒に連れて行くよ。だがいいか、引き返すなら今だぞ!」

もう俺が止めるのではなく本人がやめるかどうかを決めるしかない。


「るーくん、亜里沙は五年間ついていくと決めてたんだよ」

亜里沙は一ノ瀬に腕を引かれて前のめりになりながら同じような体勢の俺に微笑んでくる。



「私は今決めたけど、でも少しは憧れるというのも分かるしね……って嬉しそうな顔すんな」

まさか仲間か! と思い見ていたら一ノ瀬は前を向いているのにもかかわらず俺の表情を当ててきた。


「確かに憧れはあるけどあんたたち――じゃなくて亜里沙がいるからよ。そこは勘違いしないで」

一ノ瀬は早口にそう捲し立てる。

「後悔はしないか」

もう戻れないかもしれないんだ。

それだけは聞いとかないと駄目だ。


「亜里沙はる~くんといればへいきだよ~」

「私は後悔はするかもしれないけど……きっと残ってもするから、だから!……あんたが私に後悔させないようにしなさいよ」

そう言って振り向いた一ノ瀬の顔は真っ赤な頬に一筋に流れた涙――――そして、ああ、男なら惚れてしまうような可愛い笑顔だった。

「……たく、勝手についてくるくせに無茶苦茶言うな……わかったよ。絶対に後悔させねーからな」

絶対に二人を楽しませよう。

二人が楽しい時はきっと俺も笑っているから……

だから二人を絶対に守ろう―――俺はそう約束をする。

俺は約束を絶対に破らない―――あの時からそう決めたから。

俺達は扉をくぐっていく。

さぁ、大望の異世界冒険の始まりだ。






1話目読んでくださり、ありがとうございます。

小説家になろうで、異世界転生(運命から逸脱した者)も書いております。


誤字脱字や感想等がありましたらどしどし送ってください。

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