魔道具屋の観察
私の名前はイスリット。しがない魔道具屋です。とはいえ、魔道具作成の腕前はそれなりと自負しております。
私には愛する妻がおり、生活は順調で人生になんの不満もありません、と言いたいところですが、唯一、兄と姪の仲が拗れまくっているのが悩みの種です。
優秀過ぎる兄は娘を愛してはいるのですが、いまいち表現力に乏しく、まったくその愛情は伝わっておりません。困ったものです。
話は変わりますが、私はなぜか数年前からこの国の第一王子殿下と懇意にさせていただいております。
第一王子アルフレッド様はまさに完璧なお方です。
容姿は端麗という一言ではもの足りず、神が造り上げた至高の芸術のごとき美貌。頭脳明晰、運動神経抜群、芸術にも秀でておられます。その上魔道具作りに関しましてはまさに天才というにふさわしいでしょう。多少表情が乏しいですが、そんなことは些細なことです。
しかしながら、なぜか王子は自己評価がすこぶる悪いのです。そもそもご自分の美貌をまったく認識されておりません。ある意味これは仕方のないことかもしれませんが。なにせ、王子の美しすぎる顔を直視できるものは数えるほどしかいないのですから。幼い頃から常に出会った相手には眼を逸らされるか目があった途端に失神されるか、であるらしいので。
そんな王子ですが、いま十歳という幼さながらその天才的頭脳でもって数々の革新的な魔道具を世に送り出しておられます。もちろん私も恩恵にあずかりウハウハです。いや、本当に笑いが止まりません。
「というわけでな、イスリット」
王子はどうやら恋をされたようです。相手は伯爵家のご令嬢だとか。目の前に座る王子は真剣です。
「どうやったら好きになってもらえるかって考えたわけだよ」
王子は真面目です。私の店に突然乗り込んできたと思ったら恋愛相談ですかね?
ぶっちゃけ王子が軽く微笑めば陥落しないご令嬢はいらっしゃらないのでは?
私の素朴な疑問に、王子は肩をすくめます。そんな仕草もまた絵になりますね。
「いやいやいや、彼女は身分とか権力につられるような娘じゃないから」
いえいえ、身分も権力もなくてもまったく問題はないかとおもいますよ?正直その顔で微笑んで陥落しない女性はいないとおもいます。……ええ、ウチの姪は例外ですが。
ですが、王子様がその方のために努力しようというのは素晴らしいことと存じます。というわけで私も協力は惜しみませんよ?
私はその後もちょくちょく王子様の相談にのっておりました。王子様はご自分に自信がないせいか案外奥手でいらして、普段であればなかなかご令嬢に話しかけることも贈り物をすることすらできないのです。私の妻のメイリースなどは「若いっていいわねえ」とか言いつつ、いつも私から話をきく度に生暖かい目をして微笑んでいるのですが。
ただ、そんな奥手な王子様にも絶好のチャンスが。なんとご令嬢は現在命の危機が迫っているようで、王子様はきっと命の危機から格好よく助け出せばご令嬢に好意をもってもらえるに違いないと張り切っておられます。
……ですが、王子様。それは王子様のような完璧な方が自分のために奔走してくれたと思うからこそだと思うのですよ?正直私のような容姿の者が同じ事をしても「いい人」止まりだと思います。
「いいか!俺の人生は今最大の転機にきているんだ」
なにやら王子様が力説していらっしゃいます。しかし、十歳にして人生最大の転機とはいかなることでしょうか?ちらっとみれば、護衛騎士のグレイ様がナゼか残念なモノを見るような目で王子様を見ていらっしゃいます。
「彼女の命が最優先には違いないが、その上に俺のことをばっちりアピール出来れば完璧だ!」
キラキラと瞳を輝かせて語る王子様はとてもお美しいです。表情はあまり動いていないのが残念なところではございますがしかし、今の感じでご令嬢の耳元で愛を囁けばたとえ十歳といえど、どのようなご令嬢もころころと容易くおちてくるに違いありません。
しかしこの非常に残念な部分こそが王子様もまた、同じ人間なのだ、と安心できる部分でもあるのでしょう。実際、お城の方々は王子様があまりにも完璧かつ無表情すぎてなかなか話しかけることもできないようですので。
私といたしましては先程も申し上げました通りもちろん、僭越ながら王子様の年上の友人として、そして天才魔道具職人である王子様の才能を愛する者として協力は惜しみません。
ですが、一つだけ、申し上げたいことがございます。
私ははっきり申し上げて、幽霊というモノは苦手なのでございます。
幽霊とゴーストやソウル、ゾンビの違いですか?
まったく違うではありませんか!
私は目の前の廃屋のような屋敷を絶望的な気分で見つめる。
何度でも言いましょう。私は幽霊は苦手なのでございます。……別に怖いわけではありませんよ?
ですがぜひ、そこのところをわかっていただきたいものでございます。




