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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
89/2046

第38章 沖縄防衛戦:座礁と決断


東シナ海、沖縄本島沖。海上自衛隊護衛艦「いずも」は、その巨体を北部のビーチに乗り上げ、航行能力を喪失していた。だが、それは敗北を意味するものではない。降り注ぐはずだった航空攻撃の猛威に対し、「いずも」は新たな役割を担う要塞へと今後1ヶ月をかけて改修を予定されている。


艦橋の機能は健在であり、メインレーダーは静かに、しかし強力に稼働を続けている。周囲には、座礁した旧海軍艦艇「雪風」らが砲台と化し、その砲口を洋上へと向けていた。

「いずも」艦橋には、緊迫した空気が満ちていた。


いずも艦長・渡会二佐は、眼前のモニターを凝視していた。彼の隣には、情報幕僚を兼ねる山名三尉が、内面の葛藤を押し殺した表情で立っている。さらに、イージス艦「まや」艦長・片倉大佐が、冷徹な威厳を保ちながら、彼らの会話に耳を傾けていた。


電子戦士官の三条律は、戸惑いを滲ませつつも、プロとしての責務を全うしようと計器を操作していた。



「……本艦の座礁は完了した。機関は停止しているが、飛行甲板、指揮系統は維持されている。明日から改修作業に着手する。問題はどのような防衛戦術を取るかだ」渡会は、落ち着いた声で言った。




「F-35Bの稼働率は50%以下。防空ミサイルの残弾も、SeaRAM、CIWSともに限界にある。我々が持続的な防空を行うことは困難だ」

山名三尉が、硬い口調で現状を補足した。


「敵はロナルド・レーガン空母打撃群。F/A-18を含む艦載機群に加え、艦砲支援艦艇、LCAC、そして上陸戦車部隊を伴っています。我々は圧倒的な劣勢にあります。」

片倉大佐が、深遠な眼差しで渡会と山名を見据えた。


「承知している。しかし、我々に他に道はない。この状況下で、最大の実戦的効果を上げる戦術を構築する。それが我々の責務だ」

渡会は、モニターに表示された戦域3層防衛の図を指し示した。


「我々は、この沖縄を三層の防衛線で守る。前面阻止層はF-35Bによる限定的洋上攻撃。中距離火力層は座礁した雪風を始めとする旧海軍艦艇による臨時砲台群。そして、近接拒否層は牛島司令官率いる沖縄守備隊と、我々の海自火器によるビーチ前線の迎撃だ」


山名が、その構想に続く。「F-35BのAESAレーダーは、早期探知とレーダーピケットに活用します。敵の索敵・打撃能力を攪乱するための電波欺瞞、煙幕、偽目標も併用し、敵を翻弄する」


三条は、緊迫した表情で言った。「F-35Bは稼働可能な機体数が少ないため、その役割は『高速ステルス電子妨害・指揮撹乱機』として限定します。敵のE-2D、P-8A、そして空母艦載機群の索敵システムを一時的に無力化し、レーガン艦隊の通信・指揮中枢へのピンポイント攻撃を狙います。航空優勢は奪えなくとも、敵のC4ISRを盲目化できれば勝算は生まれる」


片倉は、三条の報告にわずかに頷いた。「その通りだ。F-35Bは、我々が持つ唯一の『未来の目』であり『切り札』だ。その効果を最大限に引き出せ」

渡会は、深く息を吸い込んだ。


「中距離火力層においては、座礁した雪風が主砲である九三式127mm連装砲を対艦・対上陸艇射撃に用い、矢矧は15.5cm砲で上陸点付近の面制圧を狙う。各艦の九六式25mm機銃、高角砲は、LCACやホバークラフトへの近接迎撃に当たる」彼の頭の中には、周到な防衛網のイメージが描かれていた。


山名が、さらに連携の具体策を説明した。「いずものレーダーとF-35Bの探知情報を各砲台に共有し、弾着修正により命中率を向上させます。また、魚雷兵装は浅海域用の機雷として自爆設置し、LCACの進入ルートを妨害する」


「そして、最後の防衛線は牛島司令官の守備隊だ」渡会は続けた。「九四式山砲、九〇式野砲、重機関銃を地形利用(崖地、洞窟)で配置し、上陸阻止射撃を行う。構築された洞窟陣地、反斜面防御陣地は、空襲耐性・火点維持能力が高い。海自の携帯対戦車弾、84mm無反動砲、地雷も、陸自の弾薬庫が無傷であれば一部投入可能だ」


片倉は、静かに付け加えた。「この戦いは、『勝つため』ではない。『1分でも長く、1メートルでも奥で、世界に訴えるため』の戦いとなる」


指令室の全員が、その言葉の重みを噛み締めた。


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