第30章 アニメ風
ウェルズ艦長は言葉を失っていた。
米軍の作戦文書を読み込みながら、胸の奥で冷たい鉄球が転がるような感覚が広がっていく。未来から来た自分たちが、いまや歴史そのものを変える「駒」として扱われようとしているのだ。
「……もし我々が命令に従えば、戦争の帰趨は決定的に変わるだろう。しかし、それは本当にアメリカにとって望ましい未来をもたらすのか?」
艦橋に沈黙が落ちた。部下たちの顔にも、不安と動揺がありありと浮かんでいる。誰もが心のどこかで、未来の家族や故郷、そして自分たちが生きてきた「2025年の世界」が失われるのではないかと恐れていた。
スミス少佐は、静かに目を細める。
「艦長、歴史は常に、勝者の手で書き換えられる。だが今、この瞬間、勝者となるかどうかは、貴艦にかかっている。あなたが決断を下すしかない」
その言葉に、ウェルズは深く息を吐いた。
決断の重みが、全身を圧し潰すかのようだ。
やがて彼は、艦橋の窓から差し込むわずかな月明かりに目を向け、低くつぶやいた。
「我々は――未来を守るために、この戦争に介入すべきなのか……それとも、歴史をあるがままに進ませるべきなのか」
その問いに答える者は、艦橋には誰一人いなかった。
ただ、遠く沖縄の方角から、不気味な雷鳴のような砲声がかすかに響いていた。