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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
68/2108

第29章 アニメ風

同時期。

マリアナのさらに南。太平洋の底なしの青に、もう一つの影が沈黙していた。


ニミッツ級原子力空母――USSドナルド・レーガン(CVN-76)。

海自との合同演習を終え、グアムへ帰投するはずだった巨艦は、突然の「あり得ない」に呑み込まれた。

時間が歪み、世界がずれた。気づけば、1945年の海だった。


艦橋。

ロバート・ウェルズ艦長は、報告を聞くたびに眉間を深く刻んだ。

「GPS不感。衛星通信、全滅。そんな馬鹿な」

電子海図はエラーの洪水。

最後に確認した座標から、天文学的なズレ。


「艦長、外部レーダー波形多数。旧式パルスと思われます。――視認。北東二十マイル、未確認艦影!」

双眼鏡が持ち上がる。

蒸気の白い筋。

時代錯誤のシルエット。

戦艦。空母。巡洋艦。

だが、知っているどの艦でもない。


「演習か? いや、こんな艦は存在しない」

ウェルズは喉が渇くのを感じた。


数時間。

状況はさらに悪化した。

輪形陣にいたはずの護衛艦、ミサイル巡洋艦、原潜――影も形もない。

通信は沈黙。衛星もネットも死んでいる。

高出力の呼びかけも、太平洋の虚空に吸い込まれるだけ。

孤立。完全な。


艦内に、ざわめきが広がる。

「俺たちはどこにいる」

「機器は動いてるのに、世界が応答しない」

情報がない不安は、あっという間に恐怖に変わる。


ウェルズは艦内放送のスイッチを押した。

「全乗員に告ぐ。原因不明の通信・航法異常が発生している。だが艦は健在だ。各員、持ち場を維持せよ。外部との接触は厳に慎め。事象の分析を最優先とする」

声は落ち着いていた。心臓は違った。


CIC。

「EMCONアルファ。放射制御、最小限」

「慣性航法は継続。天測の準備」

現代の艦で、天体観測を命じる滑稽さ。誰も笑わない。


午後。

海の彼方から、低く重い音が届いた。

砲声。

重油と火薬の匂いを伴う、古い戦争の音。

その合間に、耳障りな電磁ノイズが走る。

「今のは何だ」

回答はない。


ウェルズは、ようやく言葉にした。

「……時間の歪み、かもしれない」

仮説。証拠はない。

だが、そうとしか思えなかった。


副長が進言する。

「接触ルールはホールド。兵装はセーフ。航空機はデッキ上待機。探索は受動に限るべきです」

「同意する。CAG、飛行準備は継続。ただし発艦は許可しない」

「了解、艦長」


艦長席の手すりが、汗で冷たい。

この海で、発見されたらどうなる。

撃つのか。逃げるのか。

誰にも教わっていない局面だった。


その頃、遥か遠方。

別の耳が、彼らの気配を拾っていた。

微弱な電波。見慣れぬ符丁。

OSS――戦略情報局の機器が、南方の海に潜む異物を記録する。


レーガンはまだ知らない。

自分たちの沈黙が、すでに誰かの「発見」になっていることを。

そして、この海での一挙手一投足が、歴史という名の湖面に、どれほど大きな波紋を広げるかを。

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