第28章 太平洋の異変:消えた巨影
1945年4月。沖縄戦線が膠着し、遥かワシントンD.C.で原爆増産が決定される頃、広大な太平洋上では、もう一つの「異常」が、極秘裏に進行していた。
マリアナ諸島、テニアン島から約500海里東方の海上。米海軍太平洋艦隊司令部へと届く、複数の偵察機からの報告は、不可解な電波信号の存在を伝えていた。それは、味方識別信号(IFF)を発しない巨大な艦影でありながら、既存の日本の艦隊情報には一切合致しないものだった。
「報告!未確認の巨大艦影を捕捉!艦種不明、しかし空母に酷似!通常の空母の二倍近いサイズです。飛行甲板は現代の設計図にはない形状、艦橋構造も極めて異質です!」
偵察機のパイロットからの緊迫した無線が、司令部の通信室に響く。オペレーターたちは、報告されたデータと既存の艦艇情報を照合するが、どれも合致しない。
司令官は眉をひそめた。「馬鹿な。日本の残存空母は、すでに壊滅しているはずだ。しかも、そのような巨大艦艇を建造する能力は、すでに日本にはない。ドイツの新型か?しかし、太平洋にいるはずがない。我々の情報網には一切かかっていなかった」
数日後、その「未確認巨大艦影」の周辺海域で、さらに奇妙な報告が相次いだ。
「報告!周辺海域で、これまで観測されなかった強力な放射線レベルを検知!しかし、爆発の痕跡はなし!自然放射線レベルの数百倍に達しています!」
放射線偵察機からの報告に、司令官の顔に血の気が失せた。放射線。それは、最近極秘裏に進められている「マンハッタン計画」と結びつく、忌まわしい言葉だった。日本が、そのような技術を、あるいは兵器を保有しているなど、想像すらしていなかった。
ワシントンD.C.のトルーマン大統領の元にも、この不可解な報告は極秘情報として届けられていた。沖縄での「奇妙な敵」との交戦に加えて、太平洋のどこかに存在する「放射線を放つ未知の巨大艦影」。それは、統合参謀本部のパニックをさらに煽るものだった。
「これは、一体どういうことだ?日本が、我々の知らないところで、放射能兵器まで開発したというのか?それとも、何か別の勢力が介入しているのか?」
陸軍長官が、困惑と警戒の表情で呟いた。彼の言葉には、理解不能な事態への恐怖が滲み出ていた。
「マンハッタン計画の専門家を派遣し、直ちに調査させよ。放射線源の特定、艦影の解析、すべてを最高機密扱いで進めろ」
トルーマン大統領の命令は、静かでありながらも、その奥に深い警戒感を宿していた。「そして、OSS(戦略情報局)のエージェントを現場に送り込み、その正体を探らせろ。いかなる犠牲を払っても、この謎を解明しなければならない。この情報が枢軸国側に漏れることのないよう、最大限の注意を払え」