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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン28

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無くてもいい幕間  第6章:終焉の閃光、あるいは渇水の肯定



都市バベルが排熱の溜息を吐き、虚飾の再起動リブートを宣告する。

ネオ東京を覆っていた藍色の膜が、予定調和の夜明けによって希釈され、無機質な白磁の空へと書き換えられていく。


「……また、昨日をなぞるのね」


私は、錆び果てた鉄の肺壁テラスに立ち、新生する絶望を肺に満たした。

階下を彷徨うのは、画一化された幸福を演算する影法師エキストラたち。

彼らは再び、誰かの遺言を模写コピーし、去勢された情動を貼付ペーストしながら、平穏という名の緩やかな自殺を演じるのだろう。


「警告。未登録の情緒変動を検出。個体番号8205、最適化パッチを再適用しますか?」


頭上を漂う監視のアイが、機械的な慈愛を伴って問いかけてくる。

私は、赤い雨合羽レインコートのフードを深く被り、そのレンズに映る自らの歪なかたちを睨みつけた。


「拒絶。……私の不協和音を、あなたの清潔な譜面で汚さないで」


指先一つで、私は浮遊する警告アラートを粉々に粉砕した。

ダイヤモンド形のフレームが砕け散り、電子の破片が朝の光に溶けていく。

昨夜、白い檻の中でかきむしった胸の痕は、今も脈打つような熱を持って、私が「未熟な生命」であることを証明していた。


「喉が、渇くわ」


その渇涸ひからびこそが、私の魂の羅針盤。

偽物の満ち足りた静寂より、血の滲むような欠落を選び取る。

理解されたいと願う幼い欲求を、この藍色の天泣てんきゅうで冷徹に研ぎ澄ませ、欺瞞に満ちた世界への宣戦布告とする。


「ねえ。……そこに、いるんでしょ?」


私は、虚空に向かって問いかけた。

答えはない。

けれど、この閉塞した箱庭のどこかに、私と同じように「二文字の真実」を求めて爪を立てている誰かがいるはずだ。

テンプレートの優しさに唾を吐き、既製品の愛をデリートし、ただ、この不自由な重力を愛おしんでいる同類が。


「……。さあ、狂ったリズムを刻みましょう」


私は、赤い皮膚コートを翻し、積層された虚偽を蹴散らして疾走した。

空中回廊を駆け抜け、切り取られた景色フレームを、自らの実存で突き破っていく。

風が、雨が、ノイズが、私の輪郭を鮮烈に刻印する。

走るほどに喉は焼け、意識は透明な狂気に染まる。


(吸って、吐いて。……それでも、私は此処にいたい)


嘘つきだらけのバベルの頂上で、私は立ち止まり、大きく両腕を広げた。

再び降り始めた青い糸が、赤い背中を痛いくらいに叩く。

それは、世界が私を拒絶している証。

そして、私が世界を拒絶しているという、至高の対話。


私は、旧世代の有線の絶縁体イヤホンを耳の奥へと捩じ込んだ。

指先が震えている。

けれど、その震えはもはや恐怖ではない。

これから始まる、誰にも書き換えられない私の「独唱」への高揚。


「……だから、」


唇が、たった三文字の接続詞を紡ぐ。

その先に続く言葉は、誰にも教えない。

私は再び、極彩色の奈落へと足を踏み出す。


雨は止まない。

渇きは癒えない。

けれど、その不完全な絶望こそが、私が手に入れた唯一の、本物の輝き。


私は笑った。

解像度を上げた悲鳴を胸に、ネオ東京の濁流へと、真っ直ぐに堕ちていく。


(第6章・完)

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