第23章 空の死闘(上):ステルスの斬撃
「いずも」の広大な飛行甲板では、F-35Bステルス戦闘機が燃料を最大限に搭載し、内部兵装ベイにAIM-120D中距離空対空ミサイルを各機4発、計40発を収めていた。機体下部に固定されたGAU-22/A 25mm機関砲ポッドには、弾薬が満載されている。垂直離着陸能力を持つF-35Bは、短距離滑走で軽々と空へ舞い上がることができる。
「発艦!」
轟音と共に、一機、また一機とF-35Bが「いずも」の甲板を離れ、沖縄上空へと向けて加速していく。最初の四機が、先行して高高度へと上昇を開始した。彼らのステルス性能は、1945年の米軍レーダーにはほとんど捕捉されないだろう。彼らの任務は、B-29の編隊を沖縄本島上空に到達させる前に、確実に食い止めることだった。
沖縄本島上空、高度約10,000メートル。澄み渡る青空を、B-29の銀色の巨体が、100機にも及ぶ巨大な編隊を組んで、ゆっくりと、しかし確固たる意志を持って飛行していた。その周囲には、P-51Dマスタング戦闘機約50機が、警戒網を敷くように護衛に当たっている。彼らの下方には、無数の日本軍陣地が点在している。しかし、彼らは、その遥か上空で、見えざる死神が自分たちを待ち受けていることを知る由もなかった。
「こちらF-35B、アルファ1。B-29編隊を視認。司令機を特定。P-51D、高高度に警戒なし」
F-35Bのコックピットで、先行する編隊長の声が響く。先進的なセンサーとデータリンクシステムが、巨大な爆撃機の編隊、そしてその護衛戦闘機の動きを瞬時に捉え、三次元データとしてコックピットのHMDに鮮明に表示する。目視では遥か彼方に見えるB-29も、F-35Bのシステムからは、まるで目前にいるかのように鮮明に捉えられていた。
「よし、まずB-29の隊形を崩す。P-51Dはミサイル優先だ。アルファ1、2、目標B-29司令機。アルファ3、4、目標P-51D、複数標的をロックオン!」
先行する四機のF-35Bは、音速領域に達することなく、しかし圧倒的な速度でB-29編隊へと接近していく。米軍のレーダーには、微かなノイズとしてしか映らず、彼らの存在は完全に秘匿されていた。
「フォックス・スリー!」
最初の一撃が放たれた。AIM-120D中距離空対空ミサイルが、わずかな煙を曳いてステルスベイから射出される。その弾道は、精密な誘導により、まずB-29編隊の中核を担う司令機へと真っ直ぐに吸い込まれていった。爆音もなく、閃光もなく、ただ、あるべき場所にいたはずのB-29が、突然、空中分解を起こし、火炎と黒煙を噴き出しながら落下を始めた。
「よし、命中!司令機を撃墜!」
続いて、P-51Dを狙ったミサイルが発射される。レーダーを持たないP-51Dは、迫りくるミサイルの存在を全く感知できず、護衛の任務を遂行しているつもりで、その背後から飛来する死に無防備だった。次々とP-51Dが空中で火を噴き、巨大な残骸となって沖縄の海へと落下していく。
米軍の無線は、突如として混乱に陥った。「一体何が起こったんだ?!何者かに攻撃されている!敵機は見えない!」B-29のパイロットたちは、護衛機が撃墜される様を目の当たりにし、パニックに陥り始めた。編隊は大きく乱れ、統制を失いかけている。
その時、後続のF-35B六機が、最初の四機に続いて高速で接近していた。ステルス性を保ちながら、彼らは乱れたB-29編隊へと狙いを定める。この段階で、既にB-29が数機、P-51Dが十数機撃墜されていた。空の戦いは、これまでとは全く異なる、一方的な殺戮へと変貌し始めていた。