表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン28

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5360/6041

第1章:新宿、EMP封鎖区域への潜入


かつて1日の乗降客数が世界一を誇った新宿駅は、今や「黒い墓標」と化していた。2030年代の東京を襲った核エアバーストとEMP(電磁パルス)の余波は、この街からすべての文明の光を奪い去った。空は恒常的な「冬」のような灰色の雲に覆われ、ビル群は幽霊のように静まり返っている。

この「EMP封鎖区域」では、現代兵器の要である無線通信、GPS、アクティブセンサー、そして高度なAI支援は一切機能しない。電子回路の大部分が焼失し、辛うじて動作するのは、物理的なシールドを施された旧式の「アナログ回路」と、人体の微弱な電気信号を拾い上げる「パッシブ・センサー」のみだ。

「……感度、良好だ」

小隊長、レイブンが喉元の振動マイカを通じて囁いた。彼の着用する外骨格「ファントムIV」は、電子的なノイズを一切発しないステルス仕様だ。彼の視線の先には、同じく闇に溶け込む4人の影があった。

新兵のフェニックスは、自らの外骨格の重みに耐えながら、廃墟の影に身を潜めている。その後ろには、威圧的な巨体を誇るタイタン(、飴を噛み砕く音を鳴らすシャドウ、そして機器の数値を必死に調整するサイファーが続く。


彼らの任務は、ユーラシア連合が新宿地下の旧軍事ハブに隠蔽したとされる「テトラコア」の奪取。この区域では銃声一つが、音響探知(音の発生源を特定するシステム)によって敵の増援を招く死の合図となる。ナイフさえも、金属探知の罠に触れる可能性がある。頼れるのは、己の肉体と、それを拡張する外骨格による「格闘戦」のみだった。

「12時方向、見張り2。ユーラシア連合の重装歩兵だ」

レイブンの警告と同時に、前方の瓦礫から巨大な影が立ち上がった。敵もまた外骨格を装着している。重厚な装甲と、関節部から漏れる油圧作動音。彼らは銃を構えているが、この濃密な霧と遮蔽物だらけの環境では、肉薄しての打撃の方が確実な無力化手段となる。

「タイタン、右を。シャドウ、左を。フェニックス、俺に続け」

レイブンが地を蹴った。彼の動きは、重い外骨格を纏っているとは思えないほど流麗だ。これは、彼の外骨格が「近位配置(重量物であるアクチュエータやバッテリーを、身体の中心である腰や背中に集約して配置すること)」を徹底し、「慣性モーメント(回転運動のしにくさを表す物理量、手足の先端が重いほど動き出しが鈍くなる)」を最小限に抑えているためだ。

レイブンは、敵の背後に音もなく忍び寄る。彼の外骨格の足裏には、SEA(直列弾性アクチュエータ:モータと負荷の間にバネを挟み、衝撃吸収と力制御を行う装置)が組み込まれており、着地の衝撃音を完璧に殺している。


敵が振り返るよりも早く、レイブンは「運動連鎖(地面を踏み込んだ力を脚、腰、背中、腕へと順次伝えていく、パンチの威力を最大化するための動作)」を開始した。

まず、彼は左足を深く踏み込み、「地面反力(地面を蹴った際に、地面から押し返される力)」を得る。その力を、「腸骨稜(骨盤の上端にある骨の出っ張り、外骨格の荷重を支える主要なポイント)」に固定されたベースフレームへと伝える。骨盤の回転が生み出した膨大な運動エネルギーは、脊椎を模したメインシャフトを駆け上がり、右肩へと突き抜ける。

「食らえ……」

レイブンの右拳が、敵のヘルメットの側面に吸い込まれた。

物理学的に見れば、これは単なる殴打ではない。ニュートンの運動第2法則に基づく「F = m・a(力 = 質量 × 加速度)」の体現だ。外骨格の剛性によって、レイブンの体重とスーツの重量が「実効的な質量(m)」として拳に完全に乗り、さらに人工筋肉ピストンの爆発的な収縮が「加速度(a)」を極限まで高めている。

「ガギィィィン!」

金属がひしゃげる凄まじい音が響いた。レイブンは、インパクトの瞬間に拳をわずかにひねる「ツイスト」を加えることで、「接触時間(Δt:拳が標的に触れている時間)」を意図的に短縮させた。これにより、運動量の変化が短時間に集中し、「衝撃力(F = Δp / Δt:短い時間で力が伝わるほど、破壊力が増す法則)」が爆発的に増大。敵の重装ヘルメットを貫通し、内部の装着者の脳を揺さぶって瞬時に意識を断ち切った。


隣では、タイタンがその圧倒的なパワーを見せつけていた。彼の外骨格「アトラス」は、高トルクDCモータ(高い回転力を生み出す直流電動機)を複数搭載した重装型だ。

「チョロチョロ動くんじゃねえ!」

タイタンは敵のパンチを、外骨格の肘部分に設けられた「ディフレクション・プレート(攻撃を受け流すための傾斜装甲)」で強引に弾き飛ばした。敵の体勢が崩れ、重心が浮いた瞬間を彼は逃さない。

タイタンは「位置エネルギー(高い位置にある物体が持つエネルギー)」を利用するため、わずかに膝を沈め、そこから一気に突き上げるようなアッパーを放つ。下半身の大腿四頭筋(太もも前方の巨大な筋肉)と外骨格の油圧ジャッキが同期し、垂直方向のベクトルが敵の顎を直撃した。

敵の巨体が、まるで紙屑のように宙を舞う。タイタンのパンチは「重い」。それは、インパクトの瞬間も押し込み続けることで、「力積(I = F・Δt:力と時間の積、相手を押し込み、重心を破壊する能力)」を増大させているからだ。

「……掃討完了。サイファー、ハブの入り口を開けろ」

タイタンが吐き捨てるように言った。シャドウは、倒れた敵の首元を外骨格の指先でなぞりながら、楽しげに鼻歌を歌っている。

「フェニックス、気分はどうだ?」

レイブンが問いかける。フェニックスは、自分の拳の震えを隠すように、外骨格のグローブを握りしめた。

「……すごいです。筋肉の動きが、そのまま機械の咆哮になる。自分が自分じゃないみたいだ」

「勘違いするな。外骨格はただの道具だ」


レイブンは、冷徹なまでの冷静さで応えた。

「『筋電位(筋肉が収縮する際に発生する微弱な電気信号)』をセンサーが読み取り、アクチュエータが動く。だが、その引き金を引くのはお前の意思だ。機械に飲まれるな。格闘戦の物理を理解し、自分の肉体の一部として制御しろ。そうでなければ、次の乱戦メーレーで死ぬのはお前だ」

「了解、軍曹……いえ、レイブン」

サイファーがポータブル端末を操作し、分厚い鉛の扉のロックを解除した。EMPシールドが施された地下への入り口が、重々しい音を立てて開く。

暗闇の奥から、冷たい風が吹き抜けてきた。そこは、3正面戦争の火種が眠る、東京の心臓部。

「行くぞ。ここからは『スパイ戦』の領域だ。音を立てるな、気配を消せ。だが、敵に出会ったら――骨の髄まで粉砕しろ」

レイブンの命令に従い、5人の影は奈落の底へと吸い込まれていった。ミッションはまだ、始まったばかりだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ