第22章「いずも」艦橋:迫りくる脅威と迎撃態勢
その頃、東シナ海の海上、旗艦「いずも」の作戦室では、電子戦士官の三条律が、突然モニターに現れた大規模な光点の群れに目を奪われていた。
「艦長!グアム、テニアン方面より、B-29の大型編隊が沖縄本島へ針路を取っています!数、これまでにない規模です!」
三条律の声が、緊迫した作戦室に響き渡った。彼女の指が示すモニターの光点は、従来の偵察機や戦闘機とは明らかに異なる、重爆撃機特有の機影と速度を示していた。しかも、その数は、本土攻撃用と見紛うばかりの規模だった。
片倉大佐の表情が硬くなる。「本土攻撃用の一部が、こちらに振り向けられたか……」
彼は、この時代の日本軍、特に沖縄の陸軍が、B-29のような高高度を飛ぶ戦略爆撃機に有効な対抗手段を持たないことを知っていた。地下陣地といえども、絨毯爆撃の前には無傷では済まないだろう。
その報は、海自と陸軍の連絡網を通じて、沖縄本島、第32軍司令部の地下壕にも瞬時に伝えられた。牛島満大将は、受信した報告に目を通し、その眉間に深い皺を刻んだ。
「B-29が、これほどの規模で沖縄に……」
彼は、本土が受けている空襲の規模を断片的に知ってはいたが、まさかその一部が、この沖縄にまで向けられるとは予想だにしていなかった。第32軍には、高高度を飛ぶB-29を効果的に迎撃する高射砲も、それを捕捉できるレーダーも、ましてや追いつける戦闘機もほとんどない。絨毯爆撃をまともに受ければ、構築したばかりの地下陣地にも甚大な被害が出るだろう。顔を上げる牛島の眼差しに、深い憂慮が浮かんだ。
「律、B-29の飛行高度と速度を解析せよ。航空隊に指令!F-35B、全機、即時発艦用意!目標、沖縄本島へ向かうB-29編隊。最大速度で迎撃せよ!」
片倉の命令は、作戦室にいる全員の背筋を伸ばさせた。これまで温存してきた「切り札」を、ついに投入する時が来たのだ。
「了解!F-35B、発艦準備急げ!」
「いずも」の広大な飛行甲板では、格納庫からエレベーターで運び上げられたF-35Bステルス戦闘機が、慌ただしく発艦準備を進めていた。垂直離着陸能力を持つF-35Bは、短距離滑走で軽々と空へ舞い上がることができる。
「こちら空域統制。F-35B、最終チェック完了!発艦を許可する!」
F-35Bのエンジンが唸りを上げ、垂直上昇モードに入る。沖縄の空に、見えざる死闘の幕が上がろうとしていた。